空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

リアクション

 ところ変わって、こちらは回廊から東に10km程行った地点。ここまで来ると木々もだいぶ少なくなり、もはや森とは言えないほどに閑散とした風景が広がっていた。
 見渡しは良い。見渡しは非常に良いのだが―――
「なぁ……夜薙 焔(やなぎ・ほむら))」
「なに?」
「地面はこんなに見渡せるのに、どうしてこんなに何も居ないんだい?」
 『良し! 東だ! 東方面を探索しよう! 深い意味はない! 強いて挙げるなら青龍の方角だからだ!』とテンション高く東を目指してやってきた夜薙 綾香(やなぎ・あやか)だったが、進めど進めど何の生物も現れない現状に、テンションはもはやだだ下がりだった。
「確かに生物の姿は見あたらないけれど、温度や湿度の変化、大気中の成分や地質などなど、調べることはたくさんある」
「…………そういうことではないのだよ、そういうことでは」
 雫れる溜息。操縦するイクス・マキナ・デルヴィスも心なしかグッタリしているようだった。
 そんな綾香とは対照的に今もテンションアゲアゲなのが草刈 子幸(くさかり・さねたか)だった。
「行くでござる! 行くでござるよ東の果てまで! さぁさあさぁさあ!!」
 『小型飛空艇オイレ』をぶっ飛ばして東の果てを目指していた。
「おいおい子幸、そんなに急ぐこたぁねぇだろうよ」
 飛空艇に同乗する草薙 莫邪(くさなぎ・ばくや)が「少し休もうや」と提案するが、
「何を言うでありますか! 今回は時間が限られているであります! ボサボサしていたらニルヴァーナの神秘を暴くことなど到底無理なのでありますよっ!」
「……ボサボサなのは子幸の髪だってんだ」
 ニルヴァーナの太陽もやはり東から昇るのか。東の空が明るくなってはいるものの、未だ太陽の姿は見えない、ならば東の果てに確かめに行くまで!
 太陽が昇ってくるまで待っていれば? なんて野暮な事は言わずにおこう。
「ややっ! 見つけたでありますよ!」
 直視できない程に眩しい光が現れた……のだが、子幸が指差したのは東の空ではなくすぐ先の地面だった。
「太陽が埋まっているであります!!」
「んなバカな」
 埋まっていた太陽がゆっくりと宙に浮かび始める。それに伴って光はどんどん大きく、また強くなっていった。
「これは……」
 レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は『サンダーブレードドラゴン』を迂回させて、その太陽の背後に回った。
 眩しくてはっきりとは見えないが、そこには尻尾のような物が付いているように見えた。
「尻尾だけじゃない。耳も付いてるわ」
 カノン・エルフィリア(かのん・えるふぃりあ)が言う。彼女は『狐のお面』で光を遮りながらに観察を続ける。「全体は球体、そこに耳と尻尾が付いている。耳は猫耳、尻尾はニョロリ短め。これはつまり、あの物体が『発光する猫』であることを示しているの! 間違いないわ!」
「………………」
 なんだろう。猫好きなのだろうか。いつもよりずっと高いテンションを含めて、新たな一面を見た気がする。
「とにかくこれは興味深いな」
 レギオンはあくまで冷静に観察と分析をしようとしていたのだが―――
「おぉー!! ほら見ろ! 新種の生物発見だー!!」
「ニルヴァーナの太陽は猫だったでありますかー!!」
 綾香子幸は早くもテンションMAXで太陽猫に近づいていった。
「待てぃ!」
 声弾にも似た巨大な声がした。言ったのは身長3mはある巨体の持ち主、ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)だ。
「その生物の捕獲ならオレがやろう。持ち帰る手段もある」
 後方の空に恐竜要塞グリムロックあり。基地としても使用される機動要塞がそこに浮いていた。
「未知の生物ほど捕獲が難しいものはない。オレに任せておけ」
「冗談。あれは私の獲物だ!」
 綾香イクス・マキナ・デルヴィスが飛び出して、ガシッと太陽猫の体に抱きついた。
「捕まえた!」
「不用意に触れるとは、何を考えている!」なんて言いながらジャジラッドも猫肌に手を置いた。
「触れてしまったのなら仕方がない。このまま基地まで運ぶぞ」
「それはいい……だが捕まえたのは私だ! 名前は私が付ける!」
 太陽猫だから「サン・ニャー」かな、なんて言っていたら―――
「ぬっ!!」
「おぉっ! 溶けているっ!!」
 咄嗟に手を離したがジャジラッドの掌は真っ赤に焼けていた。気付くのが遅れたイクス・マキナ・デルヴィスの胸部と腕部は、外装が溶けていた。
 気付けば先程よりも光が強くなっている。温度が上がったからという事か。それにしても―――
「ふっ。「太陽の様だ」というのも、あながち間違いではなかったわけだ」
「何を寝ぼけてるわけ?」
 ジャジラッドの『籠手型HC弐式』に通信が入った。恐竜要塞グリムロックに居るサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)だ。
「死ぬ気で戻らないと、灼け死ぬわよ」
「何?」
 すぐに理解した。太陽のように発熱する巨大猫のすぐ傍の地面が、同じように発光している。しかもそれが一つじゃない! 
 二つ……五つ……七、八……十三……いや、もう……これは無理だ!!
 蟻地獄にハマったような。一体一体が巨大なために、気付けばすでに逃げ場は僅か。しかも浮遊して全身が露わになると、ゴム鞠のようにピョンピョン跳ね出したのだ。
「なるほど、つまりあの猫ちゃんたちは体は軽くて皮膚も柔らかいのに高温発熱が出来る、と」
 カノンは最後まで太陽猫を分析していたが、正直そんな事をしている場合ではない。ジャジラッドの機動要塞も数体の太陽猫に体当たりされて外装が焦がされている。地面から現れる数もすっかり増えていて、気付けば30近い数の太陽が宙に浮いては跳ねていた。
 恐るべし太陽猫サン・ニャー
 これ以上の探索は不可能。
 一行は全力でその場から逃げ出した。