空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

リアクション

 北ニルヴァーナへと繋がる”回廊”の遺跡。

「はいはーい。まずは名前、それから行き先も書いてね」
 回廊の出口部はちょっとした渋滞になっていた。
 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)が率いる探索隊はここより更にに向かうことになるが、それとは別に東西南の方向への探索を志願する者もいるようで、それらを把握しておくためにも回廊の出口部で名簿の作成が行われていた。取り仕切っているのはガタイの良いオカマさんニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)」である。
「ほーら、さっさと書いて進んだ進んだ。ノロノロしてると後ろが詰まっちゃうでしょ? 早くしなさい」
 すでに長い行列が出来ている。列の中には夏來 香菜(なつき・かな)や{SNL9998689#キロス・コンモドゥス}といった面々も見えるが、キロスなんかは明らかに苛立っているというのに―――
「あら、アナタの後ろも詰まっちゃってるわねぇ。アナタなら特別に私が掘ってあげるわよ♪」
「あぁ゛?!! テメェ何キモいこと言ってやがる―――」
「冗談よ、赤くなっちゃって可愛いわねぇ」
 ニキータに弄ばれていた。すぐに「……うちのオカマが失礼しました」とタマーラ・グレコフ(たまーら・ぐれこふ)がフォローに入ったおかげで事なきを得たが、下手すれば大乱闘になるところだっただろう。
「さすが天使ちゃんねぇ、気が効くわ」
「……ウザイ」
 頭をわしわし撫でてくるニキータの手を、彼女は”ブスゥ”と払ってみせた。
 長蛇の列を抜けて回廊を出れば、そこはもう北ニルヴァーナ。今回の探索の拠点となる場所であり、探索隊の面々の顔合わせの場となっている。
 知った者同士で雑談をする者もいれば、初顔合わせの者に積極的に声を掛けている者もいる。早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)もそのうちの一人だった。
「私は早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)よ。創世学園では、先生の先生をしているの」
 彼女は笑顔で自己紹介をしたが、応えるべきアラム・シューニャは名乗りながらに首を傾げた。
「先生の先生って……。その若さで?」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。これでも私、息子がいるのよ」
「子持ち?!! ますます不安だ……」
「まぁ、息子と言っても血は繋がっていないけれどね。今頃何処で冒険しているか……やっぱり心配になるわ」
「……なんでもない事のように言ったけど、今、さらっと凄いことを告白された気がする」
 話す度に疑問が増してゆく。足元に居る「鳥のぬいぐるみ(メメント モリー(めめんと・もりー))?」の視線も気になるし、適当に言ってこの場を離れようとした時だった―――
「そういえばアラム君には家族は居るの?」
 切り上げ失敗。会話が続く。
「家族……か。そういえば覚えてないな。家族……居たと思う」
 アラムは少し黙り、しばらく考えるようにしてから。
「確かに居たと思うんだ。ただ、思いだそうとすると混ざり合ったように……記憶の像が濁るっていうか……」
 独り呟くようになっていき、やがて黙り込んだ。
「そう。ごめんなさい……」
「いや……そのテンションで謝られると『家族を失った子』みたいになるんだけど」
 彼に家族が居るのか、はたまた居たのか、それは彼自身にも分からない。ニルヴァーナ遺跡で発見されるまで永い眠りに就いていた彼には、眠りに就く前の記憶が無いのだという。ニルヴァーナの各地を巡ることが記憶を取り戻すキッカケになればと今回の探索に加わったのだそうだ。 
「余計なお世話だと思うんだけど……ちょっといいかな」
 こう切り出したのは五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)だ。しかもアラムにではなく、彼はルシアに問いていた。幸い距離も離れているし、声を抑えれば聞かれることもないだろう。
アラム君に言ってた言葉なんだけど」
「?」
「冴えないとか、地味だとか。面と向かって言う事ではないと思うんだ。言ってただろう?」
「あれは……」
 先程の会話を聞かれていたようだ。ルシアは苦笑いを浮かべた。
「別にアラム君の代弁のつもりとかではないけど、なんだかルシアさんらしくないと言うか……そんな気がして」
「だからあれは……」
 口ごもるルシアに、上杉 三郎景虎(うえすぎ・さぶろうかげとら)が「もしや」と問う。「アラムという少年の心を揺らすつもりだったか?」
「そんな大それた事じゃないけど……でも、そうね、もっと怒るかと思った」
ルシア……」
 東雲は改めて感心した。パートナーと離れ離れになりながらも、一刻も早く探しに行きたいであろう心境にあっても、ニューフェイスへの配慮を怠らないなんて。余計なお世話だったようだが、この後も彼女のパートナー探しに協力したいと気持ちよく、そう思えたようだ。
「そう、少し離して、そう! そこから並べて、えぇ、3列でお願い」
 沙 鈴(しゃ・りん)の指示に教導団の兵たちが従い動く。回廊出口周辺に建てられたテントはみな彼らが建てたものだ。長曽禰の部下として「この場所を今回のベースキャンプ地にする」という意向に添って設置を急いでいるのだという。
「電波は悪くないですね」
 携帯を手に綺羅 瑠璃(きら・るー)が言う。「回廊付近だからでしょうけど、南との連絡はつきそうです」
「そうね、どこまで使えるかも探索対象にしてもらいましょう」
 既に瑠璃はニルヴァーナ校に「電波塔」の運搬を依頼している。もちろん回廊を通る規模の塔になるだろう、組み立てタイプは簡易式ならば可能だろうが完成までに数日を要するものは適さない、何しろ今回の探索は3日間しかないのだから。

 ベースキャンプの設置が着々と進む一方で、長曽禰を中心とした探索隊は出発の時を迎えようとしていた。長曽禰の隊はここより北を目指す予定になっているのだが―――
「南よ! 南方面へ出発よー!!」 
 ジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)がこれに反対した。
「南に行けば大瀑布があるんでしょ? だったらまずはそこを攻めるべきなのよ!」
「なら南方面を探索する組に加われ。俺達は北へ行く」
「ガーン」
 あっさりと長曽禰に拒否された。それもそうだ、人数こそ少ないが南方面を探索する契約者も居るのだ、南を探索したいなら、そちらに加わればいい。
「むぅ……」
 パートナーのマーク・モルガン(まーく・もるがん)は……アラムに話しかけている。彼と仲良くなりたいと言っていたのは知っていたが早くも動くとは……。
 ……これで援軍は無し……と。
「まぁ…………いいわ、分かったわよ、北に行くわよ、行ってあげるわよ! 北というからには万年雪の見える場所があるに違いないわ! 一番乗りは譲らないわよ!」
 意を決してからの急速沸騰は、お見事。まぁ殆どが自己完結だったわけだが。
 そんなジェニファを含め、すっかり出発準備の整っている者たちを見て高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が言った。「彼女たちにも手伝ってもらいますか?」
「いや、まぁ……大丈夫だろう」歯切れ悪く応えたのはアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)だ。彼は大型飛空艇ドール・ユリュリュズに医療物資を運び入れている。
「作業自体は間もなく終わるし、他に手伝ってもらいたい箇所が無いこともないけど……正直手伝って欲しくない」
 思わず本音が零れた。アンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)は単に人を運ぶだけでなく「医療船」として帯同するつもりだ。診察と治療は主に結和が行うだろうから、彼女の効率が少しでも上がるように器機や物資を配置しているつもりだ。この段階であれば一人のほうが作業は捗る。
長曽禰少佐、準備が整いました」
 猿渡 剛利(さわたり・たけとし)鳴神 裁(なるかみ・さい)が並んで報告した。の後方には3機のパワードスーツ(宝貝・補陀落如意羽衣)が並び立っているのが見える。
「パワードスーツ隊の準備も万全だよ。パワードスーツなら狭い洞窟も毒ガスがあってもへっちゃらへーさ☆」
「あぁ、期待している」長曽禰が応えた。
 剛利の輸送車両(クラッシャーズ)もパワードスーツと物資の搬入を終えている。既に三船 甲斐(みふね・かい)が乗り込んでいるという。ちなみに宝貝・補陀落如意羽衣ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が運転手を務めるようだ。
「名簿作成は……終えたようだな。よし、出発だ」
「護衛致します」
 長曽禰の強さならば必要ないだろうが「一応」という形で剛利が護衛につくという。北ニルヴァーナに関する情報は極端に少ない。長曽禰に万が一の事があれば隊は分裂、最悪全滅だって有り得る。適切かつ迅速な判断をしてもらうためにも彼の身柄だけは何としても守らねばならない。
「さーて、どんな冒険が待っているのかなー☆」
 ルンルン気分で宝貝・補陀落如意羽衣に乗り込む。未知との出会いはもちろん、今回は「PS(パワードスーツ)の性能をアピールする」という目的もある。複雑怪奇、危機満載の方が彼女たちにとっては嬉しい限りだ。
 同時刻の出発。長曽禰の隊は北方面へ、また東西南方面への探索を開始した。