|
|
リアクション
長曽禰隊の面々が北ニルヴァーナ特有の自然現象『黒い降砂』に遭遇した、正にその時―――
「これは……」
西へ向かった一行もまた北ニルヴァーナの自然現象を体感していた……というより―――
「……ぜひ冗談であって欲しいねぇ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)は『銃型HC』を向けるのも忘れて見入っていた。
僅か200m先の地点、その一帯では―――
地面から噴き上がった稲妻が渦を巻き、10m級の竜巻の姿を成しているのだ。それも複数。ざっと数えただけで10は超えている。
「殺意や敵意は無いようですが」クナイ・アヤシ(くない・あやし)が言う。『禁漁区』には何の反応も無いが「あれが既に十分猟奇的ですからね」
「いや、良く見ろ」そう言ったのは大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)だ。「竜巻と竜巻の間に道が出来てるだろ? そこを行けば通れないことはない」
「道……ですか」
正直ちっとも「道」には見えなかったが、クナイはもう一度、そのつもりで一帯を見渡してみた。当然といえば当然だが、竜巻同士が触れ合っている箇所は一つもない。剛太郎の言うように竜巻の間を通れば進めるかもしれない、が……しかし。
「危険は承知だ。だが、いや、むしろちょうど良い。なぁ望美!」
「そうね」
綿のように軽い身のこなしでフライトスターから降りてきた鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)は、笑顔で「訓練にはもってこいだわ。この子がどこまで出来るか、ふふっ、楽しみだわ」
ワクワクが顔に滲み出ていた。新機であるフライトスターを早く試したくてウズウズているようだ。
「アタイたちはパスかな」宵神 和穂(よいがみ・かずほ)がお手上げといった様子で言う。「お宝の匂いはしないし、なんか死にに行くみたいな感じがするしさ」
和穂のこの言葉に長久手 優香(ながくて・ゆうか)も小さく頷いた。二人の目的はあくまで「お宝探し」、金銀財宝の情報も無いのに危険に飛び込んだりはしない。
「あんたは行くんでしょ?」
和穂が無限 大吾(むげん・だいご)に訊いた。彼はパートナーの西表 アリカ(いりおもて・ありか)と共に、アペイリアー・ヘーリオスの機体内から、これまでの道程を撮影していた。目的は北ニルヴァーナ西部の地形データを取るため。ゆえに雷竜巻が蠢く一帯の先に何があるのか是非とも撮影して収めたい所だが―――
「そうだね。でも、さすがに竜巻の間を抜けていくのは危険過ぎるかな―――」
「あの雷竜巻の中を行くのは危険だ! と諸君ら凡人は考えるだろう!」
高飛車で高圧的……それでいて鬱陶しい声が大吾の言葉を遮った。訊く間もなく、声の主は自ら名乗りを上げる。
「フハハハ! 我が名はドクター・ハデス(どくたー・はです)! オリュンポスの名の下に、我らが先陣を切るとしよう!」
高笑いと共に機動城塞オリュンポス・パレスへと乗り込んでゆく。パートナーである天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が続くはもちろん、同じ「秘密結社オリュンポス」の一員である鵜飼 衛(うかい・まもる)とメイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)もこれに続いて『聖邪龍ケイオスブレードドラゴン』と『スレイプニル』に騎乗し、出陣の準備を始める。
そしてここに、
「ここで出るか……よかろう、我らも行くとしよう」
今回手を組むマネキ・ング(まねき・んぐ)とセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)も大型飛空艇ゴールデン・キャッツに乗り込んだ。
「いざ行かん! 我らが新領地へ!」
機動要塞と巨大招き猫が並んで竜巻地帯へと進んでゆく。竜巻の間を抜けるとは言ったが、どうやら同じ道ではなく別のルートを通り進むらしい。
直径にして10m近い竜巻と竜巻の間へ、二機の大型イコンが差し掛かる。
十六凪の操縦が上手いからか、巨大で重厚な機動要塞は少しも竜巻に触れることなく「道」へと侵入していった。
「フハハハ! 見ろ! 竜巻といえど所詮はこの程度、我が牙城に傷を付けるなど土台無理な話なのだ!!」得意げにハデスが笑う。
「言うほど簡単ではないのですよ。今だって触れていないから傷付かないだけで、少しでも気を抜けばたちまち―――」
「ほぉ? 手を抜くのか?」
「抜きませんよ。それに手ではなく「気」です。まぁ……気も抜きませんが」
なんて言っていたのも束の間―――もちろん十六凪は最大限に注意も警戒もしていたのだが―――
「なっ?!! なんだこの揺れは!!」
竜巻とは風が渦を巻いて成っているもので、そしてこの雷竜巻は地面から噴き上がった稲妻が渦を巻いて成っている。風は互いに吹き引きあうが、この場合は強力な磁場が発生している。故に―――
「ぬあぁあああああああ!!!!」
一気に容赦なく巨大な稲妻の渦の中へ引きこまれていった。
「おぉ、見るがいい、セリスよ。ハデスの要塞が墜ちてゆくぞ」マネキは声を弾ませて言った。「これは、チャンスだ……ここで我らが力を示せば、その貢献が後々我に還元される―――」
「よからぬ企てごとの思案中に悪いが……」遅ればせながらといった物腰でセリスが言った。「この艦もだいぶ削られてるぞ……」
「なんだとっ?!!」
二人を乗せた巨大招き猫(ゴールデン・キャッツ)も雷竜巻に引き寄せられ巻き込まれてゆく。
その愛らしい耳も、ふっくらした頬も、お髭でさえもが見るも無惨に抉られていた。
「おーおー、落ちてゆく落ちてゆくー」
墜落してゆく二機を前方に見る衛、その横を―――
「何を呑気な。行くぞ」
幻獣に跨がるメイスンが飛び過ぎていった。
「カッカッカッ、分かっておるよ」
今回はこれまでのようじゃのう、と仲間の失敗を憂いながらに衛もそれを追った。
巨大招き猫の全身が雷竜巻に飲み込まれる直前に二人はセリスとマネキを助け出した。もう一機の機動要塞はというと、
「ふぅー、間に合ったぁ」
望美がフライトスターを要塞に接機させて、中からハデスと十六凪を救出した。
途中、侵入のために壁部の一部を『ガトリングガン』やら『ミサイルポッド』などで破砕しなければならなかったが、機体が全て飲まれる前にどうにか離脱する事ができたのだ、大目に見てもらいたい。ハデスには悪いと思いながらも、フライトスターに搭載した武器の威力や機動性能に関しては満足のいくものだったと望美は確かな手応えを感じたようだ。
雷竜巻と一帯の様子はアリカがしっかりと撮影した。これ以上の探索は危険だろう。
西方面の探索はここで中止、回廊の拠点へと引き返すのだった。