空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

リアクション

 黒い砂が堆積して、小高い山が幾つも幾つも連なっている。
 始めこそ平らな場所が多かったのだが、進めば進むほど次第に20m級の、比較的緩やかと言われる砂の山が連続して現れたのだった。
 砂丘というよりは完全に砂漠地帯のそれと化している。不安定な足場と繰り返す傾斜の昇降が契約者たちの足に疲労を蓄積してゆく。
 それに加えて何よりも厄介なのが、だった。
「しかし……改めて見ると、あれだな……」
 少し息を整えようと足を止めた所で酒杜 陽一(さかもり・よういち)が言った。
「……意外と面白い絵になってるよな」
「まぁ、そうだな」パートナーのフリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)もこれに賛同する。
「巨大ロボとヒヨコとレモンが先導だからな」
 黒い砂が堆積する砂漠。黒一色の世界の中、隊を先導するのは三体のイコン―――
 黄龍合体を果たしたグレート・ドラゴハーティオン!!
 謎の生命体ピヨが巨大化したよ! ジャイアントピヨ!!
 見た目はレモンのような巨大猿! レモンちゃん!!
 そんな三体が並び立って隊の先頭を歩いていた。
「とは言っても、歩いていると言えるのは、あのデカいのだけじゃがのう」
 やれやれ、といった風にルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)は言ったが、彼女は自分では歩かずにピヨに引っ張ってもらっていた。『歴戦の飛翔術』で地面から僅かに浮いて、紐で引いてもらっているのだ。地味に地道に歩いているアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)にすれば、何だかずっと楽をしているように見えた。
「っていうかさ、明らかに楽してるよね? ズルいよねぇ?」
「それは誤解じゃ。この風の中で浮いているというのも意外と骨が折れるものなのじゃぞ」
「……その割には汗一つかいてないよね? 見て、俺、汗びっしょり」
「そうじゃな、わしも喉が渇いてきたのう。ほれ、水をおくれ。背中のリュックの中に入っておるのだろう?」
「あぁ、はいはい、ちょっと待ってくれ………………って! だから浮いてるならリュックくらい持ってくれたって良いだろ―――」
 当然というか、男らしくないというか。そんな抗議をアキラがした所で、それは起こった。
「くっ……」
 Mサイズのイコンですら体を屈めないと吹き飛ばされてしまうような、そんな爆弾突風が一行に襲いかかった。砂丘から砂漠へと景色が変わった辺りから不規則ではあるがこうした突風が吹く、その度に一行は歩みを止めて、じっと風をやり過ごしていた。
「ぐっ……今度こそっ……」
 こんな風如きに負けてなるものか、とコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)はイコングレート・ドラゴハーティオンの上体を起こして正面を切った。
「大型の敵でも居れば楽しめると思っていたのだがな! こういうのも、たまには悪くない!!」
「ガオオオオン!!」
 パートナーの龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)も同意のようだ。爆弾突風は短くても10分は吹き続ける。その間、膝を折ることなく立ち続けてみせようぞ!
「うぉおおおおおおおお!!!」
 風と対峙し直立するるグレート・ドラゴハーティオン、機体が直立したおかげで股下には爆弾突風が素通りになってしまったわけだが………………一行の前にはジャイアントピヨレモンちゃんが並んで壁の役割を果たしていた。



「どうぞ。紅茶です」
 蔵部 食人(くらべ・はみと)がティーカップを手に笑顔を見せる。外は砂降り、ここは荷馬車の中、それなのに何とも優しげな顔で皆に紅茶を振る舞っていた。
 『爆弾突風が過ぎた後にはほぼ同じ時間だけ風が止む』というのは、これまでの道中で何度も経験している。この法則が正しいなら、今回は15分弱は風が止むはずである。
 荷馬車の中でのティータイムなんて雰囲気もへったくれもないが、休める内に休んでおこうという事で、各々にイコンや荷馬車や屋外において体を休めていた。
「お疲れかな?」
 食人がカップを差し出すと、ルシアは「ありがとう」とそれを受け取って笑みかけた。
「平気よ。この程度なら、まだまだ」
「強いな」
「そんなことないわ。それにリファニー({SNL9998711#リファニー・ウィンポリア})が居なくなって「私が弱くなった」なんて思われるのは癪だしね」
「なるほど。それはそれは」
 寂しいと言わないんだな……。
リファニーさんか……彼女も強かった。俺がいつもボロボロになるような激しい戦いでも、彼女は常に戦闘の要として皆を守ってくれていたし」
「うん、でもダーリン(食人)がボロボロになったのは、ダーリンの無自覚なセクハラ行為に怒った周囲の女性陣がよってたかってボコボコにされるってパターンが多いよね」
 配膳を手伝っているのだろう。パートナーの魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)が背後を過ぎながらに茶々を入れてきたが―――もちろん無視だ!
「彼女が居なければ俺たちもここまで来れなかったと思う。でも、それでも彼女は……そんなに強くても俺よりも小さくて柔らかい女の子なんだよな」
「柔らかいってのは普段からセクハラしてる証拠だよね? 自白だね? あー、ルシアさんも気をつけて」
 またしても余計なことを。せっかくの良いムードが台無しだ。シャインヴェイダーには灸を据えてやらねばならないが、食人は「今度は俺たちが彼女を助ける番だと思ってる。手伝わせてくれ」とだけは最後まで言い切った。
「ありがとう」
 そう言ってルシアは先程よりも柔らかい笑顔を見せてくれた。
「うーん。せやなー」
 大して見渡すスペースもない荷馬車の中を、上條 優夏(かみじょう・ゆうか)はねっとりと見つめていた。
「んー、まぁ、やっぱり、そやな」
「何なのよ、さっきから」
 焦れてフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)優夏に訊く。「何を唸ってるのよ」
「いや……なに、大したことやない」
 優夏は如何にも深刻そうな顔で―――
「ただ」
「ただ?」
「ん。ここで暮らすのもありかもな、なんてな」
 絶賛「引きこもり計画」練り練り中だった。
 こりゃダメだ……。フィリーネは今後の予定でも確認しておこうと荷馬車を出て、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)の元へと向かった。
 風は止んでいるが砂は降っている。そんな屋外で長曽禰は……アウグスト・ロストプーチン(あうぐすと・ろすとぷーちん)に尻を狙われていたっ!!
「何してやがんだっ!!」
「あぁん、そうはいかないわ〜」
 長曽禰の尻にロックオン! 体を寄せて手の平で尻をねっとりと―――
「させるか馬鹿野郎っ! 離れろ!!」
「ぁん。でもわたくしは少佐の盾、少佐の御身を守るために、こうして片時も離れることはできませんのよぉ」
「盾ならなぜに後ろに回る! いいから離れろ! 出発するぞ! 全員に伝えろ!」
 これにソフィー・ベールクト(そふぃー・べーるくと)が応えた。
 荷馬車やイコンはもちろん、屋外で待機している者たちにも伝令して回る。パートナーのアウグストが邪険に扱われている間にも、ソフィーはコツコツと信頼を勝ち得ているようだ。
「ようやく出発か」
 アラム・シューニャは軽く腰を上げて立ち上がった。休憩など必要ない、なんて言っていたが、しっかりと地面に腰を下ろして足を投げ出していたのを山田 太郎(やまだ・たろう)は見ていた。
 『見ていた』といえば言葉足らずか。正確には『観察していた』である。というのも―――
「そういえば、あなた」
 実にさりげなく、召集に応じる最中に何気なく話しかけたという雰囲気でロサ・アエテルヌム(ろさ・あえてるぬむ)アラムに訊いた。
「『ニルヴァーナの遺跡で見つけられた』って噂を聞いたけど。それって本当?」
「ん? あぁ、まぁ、僕もそう聞いてる」
「なぁに? ひとごとみたいに言うのね」
「まぁ……実感は無いよ。1万年以上、眠っていたかもしれないなんて。……僕の発見は探索隊をガッカリさせただろうね。皆、“膨大なエネルギーを必要とするギフト”に関する何かが眠っていると思ってたんだろう? なのに、見つかったのは、ニルヴァーナ人ですらない、僕みたいな平凡な人間で――」
アルベリッヒ・サー・ヴァレンシュタインという名に聞き覚えは?」
 唐突に訊いた。
アルベリッヒ……? さぁ、知らない名だね」
「そう」
 そっと太郎と目を合わす。やりとりを聞いていたはずの彼の反応もロサと同じだった。嘘をついているようには見えない、「アラムアルベリッヒ」という予想はどうやら外れたようだ。