空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

リアクション

 時間で言えば「夜」という事になるのだろうか。
 北ニルヴァーナ北部、砂丘前に設けたベースキャンプ周辺は「黒い砂」が降っている影響だろう、月はもちろん星も見えない。だというのに―――
 砂の降る中、ルシア・ミュー・アルテミスは一人、空を見上げていた。
「風邪ひくぞ」
 神条 和麻(しんじょう・かずま)がそっと傘を差し出した。
「いや、ひかないか。ひくわけないな。何言ってんだ俺」
「ふふっ…………ありがとう」
 傘を手渡して隣に並んだ。さすがに一つの傘に入る勇気は無かったからだ。
リファニーが居なくて、寂しいか?」
「寂しいわ。思ってたより……ずっとずっと寂しい」
「そうか」
 昼間もずっとやっきになって探索をしていた。リファニーの手掛かりになりそうな物が何かないだろうかと、誰よりも必死になって―――
リファニーの代わりにはなれないけど、出来るだけ俺が傍に居るよ。だから、俺と一緒にいる時は無理に自分を作らなくていい、泣きたいなら泣いていい」
「泣きたいなんて言ってないでしょ」
 相変わらずキザな台詞を……。まぁでもここまで。この後しばらく二人で並んで空を見ていたが、手を繋ぐことも頭を撫でることも抱きしめる事も出来ず、進展なし。
 カズ兄(和麻)らしいなぁ、と思いながらも最後までエリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)は二人の間に割って入ることは出来なかった。



 探索二日目、朝方。
 北ニルヴァーナの回廊から砂丘前のベースキャンプまでの道中のこと。
「間もなく……到着……致しま……す」
 イコン赤城内。操縦桿を握るクレア・セイクリッド(くれあ・せいくりっど)が、その異変に気付いた。
「携帯?」
「ううん」香取 翔子(かとり・しょうこ)が応える。「無線よ」
「無線?! 故障しちゃった?」
「どうかしら」
 長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)への報告した、その音声が所々に何度か途切れていた。確かに無線機の故障という可能性も無くはないのだが、翔子の見解は「黒い砂の影響ではないか」というものだった。
「砂? この降ってるやつ?」
「たぶんね。ほら、携帯も電波が揺れてる」
 2本立っているかと思いきや急に0本、点滅するように1本になったりと何とも不安定。ここから先は使い物にならないかもしれない。
 任務は順調、オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)ランゲマルクは大きなトラブルもなく走行を続けている。
 降砂のせいでランゲマルクもそれを護衛する翔子赤城も速度を落とさざるを得なかった為に若干の遅れは出ているものの、長曽禰隊の出発にはどうにか間に合う事ができた。
 ベースキャンプに到着するや否や、ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)が物資の荷下ろしを始めた。その荷を荷馬車に積み込むのはレジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が担当した。
「イコンでなくて良いのですか?」レジーヌが問う。長曽禰は「あぁ、構わない」と応えた。
「朝になって余計に風が強くなってな。飛行は難しいかもしれん」
 要塞をはじめとした飛行タイプのイコンは適さないと判断したようだ。
「ということはトラックも、もちろん―――」
「あぁ、ここまでだ。砂丘越えはあくまで徒歩で行く」
「分かりました。すぐに準備します」
 レジーヌはすぐに部下10名を動かして荷の積み卸しを急がせた。
 砂丘越えに同行させる荷馬車の数は既に決まっている。現在、荷馬車の護衛を担当するサオリ・ナガオ(さおり・ながお)藤原 時平(ふじわらの・ときひら)が警備の配置と計画について協議しているはずだが、彼女たちに迷惑をかけないためにも、こちらの準備は迅速に済ませる事が求められている。
 護衛と言えばもう一つ、
「なぁなぁ長曽禰さんや」
 と風馬 弾(ふうま・だん)が声をかけて訊ねる。
「ここからは基本『徒歩』でって聞いたけど、あいつ、連れて行っていいかな」
 言ってシヴァを指差した。「地図を作りたいんだよ。空からの情報は欠かせない」
「その情報をまとめるのは私ですけどね」ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)に茶々を入れられた、がは止まらない。
「敵が居るかは分からないけど、戦闘になる事だって考えられるだろう? 敵の力を計るにもアイツは打ってつけだと思うんだよ」
「きっと戦闘になれば敵の力を計る事なんて忘れてしまうのでしょうけれど、まぁ、護衛に役立つという点は賛同するわ」なんてまたしても茶々を入れられながらもは続け―――
「構わんぞ。戦力として歩行可能なイコンは連れていくんだ、そいつも同行させるといい」
 ただし医療船やら機動要塞の類はここまで。ここからは歩行可能なイコンと荷馬車のみを帯同させるという。
「………………あ、そう」
 続ける前に、言われて終わった。悲しくはない、悲しくはないのだが……手応えがない。
 荷馬車の準備と帯同イコンの選定が終わったところで長曽禰隊の一行は、さらなる北「砂丘」越えに挑むのだった。