空京

校長室

創世の絆第二部 第一回

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創世の絆第二部 第一回

リアクション

 どんな外敵に出食わすか、またどんな自然現象が待ち構えているかも分からない。
 未開の地を探索する時は慎重に、かつ常に万全を期した行動を取るというのが定石、ではあるのだが―――
「キャハハハハハー!! おらおら、道を開けやがれー!!!」
 快速爆進。道など端から無い大空をゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)喪悲漢一番星 スター・ゲブー号で爆走していた。
 分類上ではイコンであるデコトラも『小型飛行ユニット』をつければ空を飛ぶことができる。北へ向かう一行において誰よりも、またどの機体よりも早くに飛び出し、そして先頭を勝ち取っていた。
「ところでよ〜、兄貴」ハンドル片手にバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)が訊く。
「どこまでぶっ放せば良いんだぃ?」
「どーいう意味だ?」
「このまま噴かしてると3日は保たないんじゃないかなって」
「ん? あぁ、燃料の事か? なぁに心配すんな、デコトラの燃料は尽きねぇんだよ」
 そんな事はない。燃料はいずれ尽きる。往復を含めて探索は3日間なので、このまま噴かし続ければおそらく帰りはレッカーだろう。
「一番乗りは譲れねぇ! こいつがぶっ倒れる所まで一気に行くぜ、それが本望だ!」
 デコトラを倒すつもりとは……そこそこの大惨事を起こすつもりのようだ。

 ゲブーは気にしないと言ったが普通は当然に燃料の配分はするもので。先行偵察を志願した非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は変形こそさせているがE.L.A.E.N.A.I.を十分に制御しながらに飛ばしていた。
「木々が極端に少なくなってきましたね」界下に目をやり近遠が言う。回廊出口から僅かに北に行った所までは森のように木が生い茂っていたが、この辺りの木は疎らだ。と、まぁ先程言った森というのも殆どの枯れ木で活気は欠片も感じられなかったが。
「荒廃、と言うべきでしょうか」ユーリカが言う。「少し気が滅入ります」
「そうですね」
 近遠が操縦、ユーリカは火器担当で『ディテクトエビル』による警戒も行なっている。殺気の類の反応は無く、今までの所は非常に順調な航空と言えるだろう。
 大型飛空艇や輸送車で追ってくる探索組の為にも、行けるだけ遠くへ、そして大雑把でも多くの情報を掴んでおくことが求められている。
「灰?」
 不意にユーリカが呟いた。一瞬呼ばれたのかと思ったが、違う。近遠も視線を追って、そして気付いた。近遠は無線を手にして、三船 敬一(みふね・けいいち)へ呼びかけた。
「どうした」
「灰です。黒い灰が降ってきています」
「灰だと……」
 敬一カタフラクトから空を見上げた。遠い先の空に確かに黒い砂のようなものが降っている。
「確認した。機体に異常はないか?」
「今のところは何もありませんわ。視界も問題ありません」
「了解した」
 敬一はすぐに長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)へ報告を入れた。そして彼の判断を近遠へと折り返し伝える。
「警戒しつつ進行、ですか?」操縦席に戻る敬一白河 淋(しらかわ・りん)が言った。「正直気味が悪いですが、私たちにとってはチャンスですからね」
「あぁ。そうだな」
 灰に有害物質が含まれていようとも、パワードスーツであれば問題なく探索を続ける事ができる。もちろん限度はあるが、生身の人間よりはマシだ、当然である。パワードスーツ隊の有用性を証明するという意味では有害物質が含まれている方が彼らにとっては都合がいい。
「それよりも、―――」
「分かってますよ、パワードスーツ以外も記録します」
 はカメラを手に空を見上げた。一時のものか、それともこの一帯特有の現象か。
 本機も間もなく「黒い砂が降る一帯」へと突入してゆく。