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リアクション
長曽禰を筆頭とする隊が再びに進行を開始した直後、止んでいた風も再びに吹き荒び始めた。
風に「黒い砂」が混ざり飛ぶことで、あっという間に視界も遮られてゆく。次に爆弾突風が吹くまでにできるだけ距離を稼ごうと、一行は歩む足を急がせた。
そんな中、
「ん?」
エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が「それ」に気付いた。
「どうしました?」同じく魂剛を操縦する紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が訊ねた。
「いや……今、そこに……」
機体左部を映したモニターの中、吹き荒ぶ風の先に―――
「やはり! 何か居るぞ!!」
「なんですって?!」
風の中、砂埃のその中に「影人間とでも呼べそうな黒い人影」が見えた! しかもそれは1つではなく―――
「ルシア! 下がってください!!」
一個隊に奇襲をかけられたような、いや、襲いかかって来ないだけマシか。それでも「黒い人影」はあっという間に30近くにまで増えていった。それは一行の横腹、イコンや荷馬車ではなく徒歩で砂漠を行く者たちの正面に当たる位置だった。
「くっ……」
彼女たちの視界を遮ることになるが……今はそんな事を言っている場合ではない。ルシアの前に魂剛が、アラム・シューニャの前にキャロライン・エルヴィラ・ハンター(きゃろらいん・えるう゛ぃらはんたー)のアウクトール・ブラキウムが立ち塞がり、壁となった。
「黒羽(鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう))!」
「ええ! もちろん!!」
鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)と共に黒羽はシュヴェルツェ シュヴェルトを離陸させた。風にだいぶ煽られるが、飛べない程じゃない。
「ちょっと気が早い気もするけど」
『銃剣付きビームアサルトライフル』で、一行と「黒い人影」の間の地面を狙撃して牽制した。
発砲する度に砂が舞い上がる。そうして視界が更に遮られてゆくのと同時に「黒い人影たち」の姿も、蒸発したかのように消えてしまっていた。
と思った次の瞬間! 今度は一行の後方にそれらの影が現れた!
「そんなバカな……」
唯斗は『超感覚』も『殺気看破』も発動していたが、高速で動いた形跡はもちろん気配すら感じなかった。
「いよいよもって妖しいわねっ!」
今度は容赦なく黒羽がアサルトライフルを連射した。
直接当てはしないが、この隙にルシアたち歩行者組と荷馬車組が対面へ駆け出しているはずだ。少しでも時間が稼いで距離を取れれば―――
「きゃあぁあああああ!!!」
後方からの声。契約者たちの声―――そしてそれらの中にルシアやアラムの声もある。
突如現れた巨大な崖。
黒砂と土埃で視界が不明瞭だった事も要因の一つだろう。それに気付かずに進んだために一行はバラバラと崖底めがけて落下してしまった。
「あ〜〜〜これは……ダメだ」
落ちながらにアラムは放棄した。思った以上に崖から離れているから手は届かない、届いたとしても崖壁を掴んで止まろうものなら先に自分の指が折れモゲる事だろう。飛行の手段も術もない、たとえ飛べたとしても、すぐに荷馬車が落下してくる。何にしても助からない。
目覚めて数日か……短い人生だった。
生きることを放棄した。短かった人生を惜しみ、絶望した―――ときだった―――
「残念……まだ死ねない」
見覚えのあるイコンが急降下してきて―――それがアウクトール・ブラキウムだと気付いた時にはすでに彼は機体の掌にすくわれていた。
「死の瞬間を自分で選択するなんて贅沢……死ぬ気で生き続けたって出来るものじゃない」
「こんな時でも理屈っぽいのねっ」
続けてキャロラインが言う。でも嫌いじゃないわ、なんてトーマス・ジェファーソン(とーます・じぇふぁーそん)に言ってから、
「あんたが諦めても、あたしたちが居る限り、簡単には死ねないんだから」とアラムにもそう宣言した。
アウクトール・ブラキウムは次に落下してきた荷馬車も空中で抱き止めて保護していた。
ジェファーソン等がアラムを助けたように、魂剛がルシアを、またシュヴェルツェ シュヴェルトとグレート・ドラゴハーティオンが他の契約者たちやら荷馬車やらを空中で受け止めて助けたようだ。
事態としては実に間抜けだったが、一人の犠牲者も出なかった事は何よりだった。
落下した者たちの救出を終え、地上で合流したときには『影人間たち』の姿は消えていた。落下を免れた者たちの話では、目を離したのは悲鳴を聞いた直後だけだが、その僅かな間にあれほど居た影たちが一斉に消えてしまったのだそうだ。
幸か不幸か、未だ風は止んでいない。姿を隠すのは簡単だ。
アレは一体なんだったのか。襲いかかってこなかったのは、こちらの様子を窺っていたからだろうか。
そしてルシアたちが落下した崖。黒砂混じりの強風でよくは見えないが、少なくとも対岸は見えないし、こちらの崖の両端も見えない。これが崖ならば「ここが砂漠の終わり」とも「北の大地の縁」とも言えるのではないか。
今回の探索は三日間。復路に要する時間を考えると、もうさほど時間はない。
残された時間の中で懸命に調査を行ったのちに、一行は北の回廊へと引き返したのだった。