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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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【帝国を継ぐ者】追う者と追われる者 第二話

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octo  武闘大会トーナメントinツァンダ!
 
「トオルくん?」
 火村 加夜(ひむら・かや)は、運営の本部テントで、見知った姿を見かけて声をかけた。
 スタッフと打ち合わせをしているのは、イルミンスール生徒のトオルだ。
「スタッフ参加ですか?」
「おう、審判のバイト。
 本当は大会参加しようかと思ったんだけど、シキが来なくてさ」
 トオルは、肩を竦めて笑う。
 コンビを組もうとしたパートナーには、一緒に出るという選択肢が全くなかったらしく、行ってらっしゃいと笑って送り出したらしい。
「一人で出るのも何なんで、見物だけでもと思ったけど、審判募集中っていうから」
「そうですか。頑張ってくださいね」
「サンキュー」

 大会の運営スタッフとして、山葉 涼司(やまは・りょうじ)を手伝いながら、加夜は彼に訊ねた。
「涼司くん。
 蒼空学園としては、セルウスくんとキリアナさん、どちらかに協力するの? それとも静観するの?」
「……静観、かな」
 涼司は答えた。
「どちらを助ける義理も理由も無いし、だが、どちらに協力する生徒達が間違っているとか、そういうのも特に無いと思う」
 蒼空学園校長としての立場は中立。
 涼司の言葉に、加夜は頷く。
 じゃあ、校長としてではなく、涼司個人の感情では? とは、訊ねなかった。彼を困らせたくは無い。
「大会、応援してますね。頑張ってください」
「カッコ悪いところは見せないさ」
 涼司は自信たっぷりに笑ってみせた。


 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、私服警備員として、観客に紛れて涼司の周囲を警備した。
「別に必要ないぜ」
「お二人さんの邪魔なのは解ってるけど、一応、護らなきゃ」
 冗談めかして言うと、涼司はくそっ、と毒づいて顔を逸らす。
 それにくすくすと笑ってから、ルカルカは真面目な表情になった。
「不安だから。ちゃんと護らせて」
 パートナーの剣の花嫁、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に、八人の親衛隊を引き連れ、会場内の警備に当てている。
「この大会、以前は影龍が現れて大変なことになったじゃない」
「ああ、そんなこともあったな」
「あの時は何とかなったけど、この場所は特別だから。
 何かが起こるような気がして仕方がないの」
 ルカルカは、苦笑して肩を竦める。
「考えすぎよね」
「……まあ、気が済むようにしたらいい。
 警備を厳重にするのに越したことはないしな」

 午前中、涼司は何度か加夜やルカルカ達と会場を見て回り、大半は本部に常駐していた。
 午後は出番まで、大会を観戦する予定だ。

「ルカルカも、本音は大会に出場したかったんじゃないか?
 山葉との真剣勝負。剣に生きる者として興味はあるだろう」
 何度も共に戦ったことがある。だが、対戦をしたことはなかった。
 ダリルの言葉に、ルカルカは笑った。
「そだね。一度手合わせしたいな♪」
 嬉々として言ったルカルカに、薮蛇だったかな、と苦笑する。
「ところで山葉、何故に今、武闘大会なのだ?」
「それは企画を立てた奴に訊いてくれ。俺は書類に判を押しただけだ。
 こんな事件? と重なるとはな」
 ダリルの問いに、涼司は肩を竦めてそう答えた。


◇ ◇ ◇


「たーいへん、クトニウスさんが賞品にされちゃってますよ〜」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、そう驚いた後で、はたと思った。
「あ、でも、これって、セルウスさんに協力する詩穂達の誰かが優勝すれば、クトニウスさんを取り戻せるってことですね」
 勿論、既にセルウスは出場するつもりでいる。ドミトリエも、粗方諦めているようだ。
「もしもトーナメントで当たったら、セルウスさん、ドミトリエさん、全力で挑んで来てくださいね☆」
「うん、わかった」
「それはこっちの台詞だ、くらい言え」
 ドミトリエが呆れる。ふふっ、と詩穂は笑った。
「詩穂達が優勝して、クトニウスさんを取り戻してあげる♪」
「それには、作戦が必要ですよ」
 パートナーのヴァルキリー、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が言った。
「詩穂は防御力は高いが、遅いけん、わしの力を貸したるけん」
 魔鎧の清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が言葉を継ぐ。
「わしを装備して補うのがええけん」
「ん。皆で頑張ろ!」


 セルウスの武闘大会参加には、冷静に考えれば無謀な行動で褒められた話ではない。
「そう、護衛としてはあまり薦められる行為ではない。
 だがしかし、彼も師匠であるクトニウス殿と別れてしまい、気が動転しているのであろう。
 ここは、彼の気持ちを汲んで、大会への参加くらいは許してあげようではないか、皆!」
 キラッ、とその瞳が輝く。
「うざっ」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)の台詞を、パートナーのハーフフェアリー、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が一言で斬って捨てた。
「……確かに、罠間違いない大会に出場するのはどうかと私も思うが」
 英霊の馬 超(ば・ちょう)が言う。
「……判っている、セルウス。
 ここまでお膳立てをされて、それを無視するなど、男の行動ではないな。
 私とて、同じ立場なら出場しただろう」
 セルウスは、ぱちぱちと瞬いて、
「うん!」
 と頷いた。
「ちょっと今、何か突っ込みたい気分なんだけど」
 ラブがジト目で睨む。
 的確な突っ込みを入れてくれそうなドミトリエは、とっくに会話の輪から逃げていた。
「ラブ様達も試合に出るの?」
「いや、我々はセルウスのセコンドにつく」
 セルウスの問いには、馬超が答えた。
「……我等が蒼空学園のリーダーである山葉校長が参加するのであれば、気楽に大会に参加して戦うというわけにもいかなくてな」
 ラブの言葉に地の底に叩きのめされていたコアが復活する。
「そうなの?」
「いや、これは個人的な感情だ。
 とにかく、我々はセルウスの護衛に徹することにする」
「護衛なんて、儲かりそうにないけどね〜」
 ラブが溜め息を吐く。
「貴様が何か、儲けに貢献するようなことをしたことがあったか」
 超がぼそりと突っ込みを入れた。
「ま、いいわ。セルウス、絶対に優勝して、あたしに優勝賞品を貢ぐのよ!」
「えっ、それはダメ」
 セルウスは断る。
「優勝賞品は、クトニウスじゃろうが」
 同じく試合以外の場所での襲撃を危惧して、パートナーのアーヴィン・ウォーレン(あーう゛ぃん・うぉーれん)と共にセルウスのセコンドについた光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)が言った。
 セルウスは、それを取り戻そうとしているのだから、ラブに貢いでしまうわけにはいかない。
「えっ、そうなの!?
 豪華賞金1億Gとかパラミタ一周旅行とかヴァイシャリーのプライベートビーチ付別荘とか貰えるんじゃないの?」
 ラブは愕然とした。
 がっかりしたものの、無いものは仕方がない。ラブは気持ちを切り替えた。
「はー、じゃ、いいわ。護衛代は後払いで許してあげる。
 ま、そうと決まれば、応援してあげるから」
「俺等も応援するけえ、優勝目指して頑張れや!」
 翔一朗も、そう言ってばんとセルウスの背を叩く。
「うん、ありがとう」
 セルウスは頷いた。


「セルウス。こっちを見て笑って」
「何それ?」
「写真だ」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、正式にスタッフ登録し、カメラマンの腕章を付けて、大会会場を歩き回っていた。
 許可されたカメラマンなら、堂々と望遠レンズのついたカメラを持ち歩いていても不審がられない、と考えてのことだ。
 スタッフならば、一般よりも立ち入れる場所も多くなる。
「あ、俺も俺も」
「私も」
「僕も」
 セルウスの周囲の友人達が、次々に集まってポーズやピースを決め、下らないと離れようとしたドミトリエの腕を掴んで引っ張り込んで、記念写真を数枚撮った。
「そういう担当じゃないんだが。……まあいいか」

 牙竜は、警備や会場の状況を逐一把握しながら、試合の様子を写真に撮って行く。
 特に、試合中のセルウスの写真を、多めに撮った。後で渡してやろう、と思う。
「セルウスさん以外も、ちゃんと写真に収めておいてくださいね。
 何かあった時、何が役に立つか解りませんし」
「解ってる」
 パートナーの魔鎧、龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)の言葉に、カメラを構えたまま、頷く。
 控え室では、その出場者達から、面会に来ている部外者まで、念入りに写真に収めて行った。



「このスタッフTシャツ、胸がきついんだよ」
「それ以上言ったら、首を絞めるぞ」
 溜め息を吐くレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の言葉に、パートナーの魔女、ミア・マハ(みあ・まは)は剣呑な表情で言った。
 二人は、受付担当スタッフで、大会開始前の仕事に追われている。
「桜庭忍さん。30番、15試合です。第二控え室へどうぞ。
 選手用のフリードリンクは、控え室と、あちらのテントにあります」
「了解。ありがと」
 受付を済ませた選手達が、控え室へ行ったり、売店の方へ行ったりしている。
「あ、セルウス!」
「あ、えーと、レキ」
「そうだよ。お互い無事だったみたいだね」
 現れたセルウスに、レキは笑いかける。
「ドミトリエさんと組んで出場?」
「うん」
 元気に頷くセルウスと対照的に、ドミトリエは軽く肩を竦めている。意欲に差があるようだ。
 レキはくすくす笑った。
「はい、7番、第4試合だよ。頑張ってね」
「うん」
 セルウスの事情は知っている。知らない者はいないだろう。
 正々堂々、勝って、自身の手でクトニウスを取り戻して欲しい、と、レキは応援している。応援しかできない。

「ところで、ミア、何やってるの?」
 受付で、ミアは参加者以外の者にビラを配っていた。
「優勝者予想のアンケートを取っておる」
「……トトカルチョ?」
 それはダメなんだよ、と言うレキに、違うわ! とミアは答えた。
「賭け事ではない。純粋なデータじゃ。
 ちゃんと運営に提出もするものじゃ」
「ふうん。……で、今のところ、誰が一位予想?」
「話にならんのう」
「やっぱり、キリアナだね」
 つまらなそうなミアに、レキは苦笑する。
「穴や大穴もいくつかあるが……」
「やっぱりトトカルチョ?」
「違うっ。解り易く言っておるだけじゃ!」
「受付、お願いしまぁす」
 声に、レキは素早く対応した。
「はい。騎沙良詩穂さんですね。
 20番、第10試合です。第二控え室になります」
「案内するぞよ」
 ミアが控え室に案内する。
 とりあえず、出だしは好調だ。
 このまま、何事もなく終わってくれればいいけど。
 そう思いながらも、もしもの時の為に、レキは武器を隠し持っている。
 出場者達の身を護るのも、仕事の内だ。


「あっれー、これってタッグ戦なん?」
 申し込みをした後で、その事実に気付いた鳴神 裁(なるかみ・さい)、に、憑依する物部 九十九(もののべ・つくも)は頭を抱えた。
「一人でも参加はできるみたいだけど……うーん」
と唸っていたところに、知り合いの姿を発見する。
「あっ、あそこにいるのは落ちるおと……げふげふ柊さんだっ」
 一人だ。ラッキー!
 同時に、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の方も、九十九に気付いた。
「ごにゃ〜ぽ☆ 柊さんも大会参加するん?」
「ああ、そのつもりだがタッグマッチみたいでな、組まないかと誘おうかと思ったんだが……」
「おーけ、おーけ! 一緒に出ようよ!」
「……その前に、さっき何か言いかけただろう」
「ん? 気のせいじゃない? 気にしすぎるとハゲるよー」
 笑ってごまかす九十九に、恭也の笑顔が更に引きつる。
「……いいだろう、気のせいってことにしといてやる。で? 受付は済ませたのか?」
「これからだよん。
 それにしても、うっかりい〜とみ〜連れて来ちゃったんだけど、この子やることないよね」
「い〜とみ〜」
 ポータラカ人である蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)は、必死に何かを訴えようとする。
「一人にしておくわけにもいかないし……。………………邪魔?」
「い〜とみ〜!!」
 ショックを受けた様子で、更に何か訴えようとするいーとみー。
 しかし全く九十九には通じていなかった。
「で、どうすんだ」
「誰かに預かってもらおっか」
 九十九はにっこり笑った。



 そんな会場の様子を、蒼空学園屋上から国頭 武尊(くにがみ・たける)が見ていた。
 現在、学園は一般に開放されている。
 教室の窓から、双眼鏡を手に大会を観戦している生徒達もいた。

「キリアナ派は、山葉にゴタゴタを持ち込むなと釘を刺されてるんだ。大会中に何かするわけねーだろ。
 するとしたらセルウス派だ、セルウス派。
 きっとクトニウスを力ずくで奪おうとしてくるに違いないぜ。
 なんて卑怯で卑劣な連中だ」
 後半は殆ど、わざとらしい棒読みである。
 まあゴタゴタを持ち込むなと言っても、セルウスとキリアナとクトニウスが会場に揃っている時点で、何も起こらない方がおかしいだろうという話だ。

 不機嫌極まりない顔で、パートナーのゆる族、猫井 又吉(ねこい・またきち)が戻ってきた。
「どうだ、首尾は」
 騒ぎを起こすつもりは毛頭ないのだが、やったことは知って貰わねばならない。
 そんな主張のもと、又吉は、坑道でキリアナの邪魔をしてきた者達の顔を憶えていて、それをソートグラフィーでデジカメに念写、パソコンに取り込んで指名手配写真風に印刷し、会場内の壁に貼りまくってきたのだった。
「……パフォーマンスの一環と思われた……」
「ま、速攻で効果はなくとも、じわじわと外堀から、ってやつさ」
「……そうだな。
 何かあったら、セルウス派の仕業だと騒いでやる。
 大会が中断された後なら、騒いでも文句は言われないんだろ?」
 又吉はにやりと笑った。
「邪魔をした奴等、覚悟しとけよ」