空京

校長室

選択の絆 第二回

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選択の絆 第二回

リアクション


【5】イーダフェルト発展審査会 3

 月詠 司(つくよみ・つかさ)は審査員たちの前で、一枚のメモを読み上げさせられていた。
「えー……と、いうわけでその……こうした提案を……」
 おおまかに言うと、内容は以下の通りだった。

 ・温泉とかプールみたいな施設が欲しい
 ・ついでに人間サイズの同様の施設も。
 ・温泉は混浴(ここ重要)

 要するに、誰でも楽しめる混浴付きの温泉とプールを作れというのだ。
 こんなむちゃくちゃな話があるもんか! 司はだらだらと汗をかき、自分がどれだけ馬鹿げたことを言っているものかと後悔した。けど、逆らえない理由がある。司が持っているのは使役のペンというもので書かれたもので、それは読む者に、書いた通りの行動をさせることが出来るのだった。
 後ろでは、メモを書いた張本人のシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)がにやにや笑っている。
 審査員が躊躇なくボタンを押し、ガコッと、司の足もとの床が開いた。
「ですよねええぇぇぇぇぇぇ!」
 司は涙をどばっと流しながら、真っ逆さまに落ちていった。
「あーははははははっ! 愉快! 愉快よツカサ! 百点だわ!」
 びしっと、シオンは親指を立てて、ポムクルたちと一緒にゲタゲタ大笑いした。

「学校?」
 書類に書かれた内容と、実際に声に出した提案を耳にして、真理子は訊き返した。
「はい、そうです。特に、弁護士の学校を」
 ジア・アンゲネーム(じあ・あんげねーむ)はほほ笑みながら穏やかに話した。
 どういうことかというと、ジアはポムクルたちに勉強を教えてやりたいというのだ。特に、その特徴的な口調に目をつけたジアは、ポムクルさんの弁護士を育てたいと言った。小さく愛らしい姿をしていても、それだけでは世の中、切り抜けられないことはたくさんある。ポムクルさんたちに、弁論術を教えるのはどうか。
「うーん」と、審査員たちは頭を悩ませた。
 ジアは礼儀正しい。多少は無茶な提案でも、可能な限りはそれを実現させてあげたい。が、いざ実行するとなると、費用も実益も未知数で、なかなか難しそうだった。
「……いかがでしょうか?」
 ジアは不安げに瞳を揺らしながらたずねた。
 審査員たちは頭をひねる。エルピスは、「ポムクルさんたちに知恵をつけさせるのは良いことだと思います」と言う。一方、真理子やゲルバッキーは「もうすこし内容を詰めてから、考えたほうがいいんじゃないかしら」と言う。意見は上手くまとまらなかった。
 と、後ろでジアを見守っていたダンケ・シェーン(だんけ・しぇーん)のところに、ポムクルたちがちょこちょこ来ていた。
 ダンケが、おいでおいで、というように手で誘う仕草をすると、ポムクルたちは「なのだー」と言いながらダンケのもとまで近づき、その膝の上に乗っかった。
「ジア、ジア。見てください。可愛いです」
 ダンケは笑いながらジアに言った。
 審査員も、ジアも、ダンケとポムクルたちがたわむれるのをじっと見る。しばらくして、エルピスが言った。
「ジアさん」
「はい」
「この件は、すこしあいだ保留させていただいてもいいでしょうか? どうするのが正しいのか、まだ私たちにも、わかりません。ですから、もっと時間を見て、ポムクルさんたちを見守っていきたいんです」
 耳を傾けていたジアは、すこし黙ってしまった。それでいいのか、自分にも問いかけていたのだ。それで、自分のなかでも答えが出た。
「……はい。よろしくお願いします」
 ジアは静かに、頭をさげた。

 次百 姫星(つぐもも・きらら)が提案したのは、「ポムクルマンション」だった。
「広々1LDK、風呂トイレ別、空調完備! その他、家族など大人数で住むための複数部屋あるところ、さらにリッチなロイヤルルーム! 誰でもご満足できる、素敵なお部屋をご提供いたしますよ〜!」
 ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋って、審査員に猛アピールする。
 その様子を、後ろで、呪われた共同墓場の 死者を統べる墓守姫(のろわれたきょうどうぼちの・ししゃをすべるはかもりひめ)が呆れたように見守っていた。
 ポムクルマンションとは言ってるけど、結局は、姫星はそこに自分の願望をむきだしにしているのだ。喋れば喋るほどにボロが出て、ついには「あ〜、ぶっちゃけ私が住みたいです〜」とまで言ってしまった。
「あっはっはっは」
 真理子が渇いた笑いを浮かべながら、右手でボタンをぽちっと落ちた。
 ガコンッ! と、床が開く音がした。姫星のとこ。そして、墓守姫のところで。
「なして私までええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!?」
 ずどおおぉぉんっと、墓守姫は落下した。
 いわゆる連帯責任というやつだ。自動的に、床は墓守姫までトラップにかけた。
 しばらくして、這い上がってきた墓守姫が言った一言は、鬼の一言だった。
「あ〜ん〜た〜た〜ち〜ね〜!」

 ドクター・ハデス(どくたー・はです)はイーダフェルト改造計画を持ちこんできた。
 その格好は、いつも通りの悪の科学者に扮する白衣姿。左右には無理やりミニ白衣を着せたポムクルさんたちを従え、ハデスは審査会場の中心に立った。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! アーンド、白衣ポムクルさんたちだっ!」
「……なのだー」
「……むりやりいわされてるのだー」
「こら、ネタバレするな!」
 ハデスはポムクルたちを叱りつけた。
 もっとも、言えば言うほど、ポムクルたちは「うるせえのだー」とへたりこんでしまうが。
「ぐぬぬ……部下のくせになんと生意気な……」
「はい、ハデスさん。いいですから、提案があれば説明してください」
 審査員顔のたいむちゃんにうながされる。ハデスはしかたなく、ポムクルたちに言うことを聞かすのは諦めて、イーダフェルト改造計画について審査員たちに語った。
「ククク、この俺が、提案するイーダ−フェルトの大規模な開発計画とは……ズバリ、超巨大神殿遺跡ロボット、アースガルドだ! これは、イーダ−フェルトを中心として、各種機動要塞を合体させ、さらに人型に変形させた、究極の超巨大イコンなのだ! これがあれば、光条世界との戦いも有利に進むこと間違いなし! さらにポムクルさんの住居問題も解決だ!」
 審査員たちはきょとんとなった。真理子にいたっては、はっ、と肩をすくめてる。
「……実現可能性がありませんね。失格です」
 天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が落下勧告を告げ、ボタンを押した。
「って、なんでお前がそっちにいるんだあぁぁぁぁぁぁ……――!」
 一緒にイーダフェルトに来たはずのパートナーが、いつの間にか審査員席に座っているのに絶叫しつつ、ハデスは落下していった。
「やれやれ。ハデス君も、もう少し現実を見てくれると助かるのですが……」
 十六凪はため息をついた。

 また懲りずに、改造計画なんぞ打ち立てる男がやってきた。
「いますぐに、イーダフェルトを人型兵器にしようじゃないか!」
 そうやって熱くロマンを語るのは、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。
 まるで子どもみたいに、きらきら輝く目で宙を見つめてる。きっとそこには、人型巨大兵器になったイーダフェルトでも見えているんじゃないだろうか。
 そんな恭也を後ろで見守るのが、柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)だ。
 唯依はふぁぁとあくびをかみしめながら、愚弟のくだらない計画に耳をかたむけていた。
「インテグラルルーク、正体不明のイコン、ガーディアン……それに、インテグラル、ソウルアベレイター、グランツ教、光条世界……パラミタはいま、かつてない脅威にさらされてる! これに対抗するには、もはやイーダフェルト改造計画しかないのだ!」
 恭也はぐっと拳を握った。
「名付けて、超時空神殿イーダフェルト! 変形機構は応龍やフィーニクスを参考にすれば、ポムクルさんの力があればきっと実現出来る! どーよっ!? このロマン溢れる開発計画!」
 恭也は審査員たちに迫った。けれど、誰もそのロマンを理解する者はいなかった。
 そもそも、どう考えても不可能そうだし。
「却下♪」
 真理子が笑って、ボタンを押した。
 ひゅるうぅぅぅぅと、奈落に落ちていった愚弟を見て、唯依は言った。
「やれやれ」

 シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)はハンバーガーショップの開店を提案した。
「バーガーショップ……ですか?」
 エルピスが小首をかしげながら訊き返す。
 こくりとうなずいたシャノンは、そこからバーガーについて熱く語り出した。
「ハンバーガーはいいですよ。美味しくって、低価格、それに頼んでからすぐ出来る。まさに至高の料理です。その至高の料理たるハンバーガーを提供するバーガーショップこそ、ポムクルさんたちには必要なんです!」
 無茶苦茶な理論だったけど、エルピスは素直に聞いていた。
 真理子やたいむちゃんはとっくに苦笑している。
「ねっ、そうよね?」
 シャノンが同意を求めるように、グレゴワールに話を振った。
「うむ。バーガーは素晴らしい物であるな」
 グレゴワールはうなずいた。ただ、棒読みではあったが。
 その後、シャノンはハンバーガーの実食を交えてプレゼンしたりした。
 意外とポムクルさんたちはバーガーの美味しさにハマったりした。けれども、いまさらバーガーショップなんて開店するのは、あまりにも娯楽的な気がする。シャノンを見る限り、明らかに自分が食べたいからだろうし。
「……ボッシュート」
 真理子がボタンを押し、床がガコッと開く。
 シャノンとグレゴワールは肩をすくめて、無言のままひゅ〜っと落ちていった。
「うまいのだー」
 ポムクルさんはもぐもぐとバーガーを食い続けていた。

「え〜っと……僕はですね……」
 キラ・ガロファニーノ(きら・がろふぁにーの)はそんなふうに話を切り出すと、なんと『炎の大都市計画』なんていう実に奇抜なアイデアを提案した。審査員たちはぽかんとしている。
「な、何言ってるのよ! そんなんでポムクルさんたちが燃えたらどうするのよ! もっとこう、レストラン〜! とか。工場|〜! とか。まともなアイデアにしなさいよ!」
 ティア・ジェルベーラ(てぃあ・じぇるべーら)が実にもっともな意見を言った。燃えるという危険な言葉を口にされたポムクルさんたちも、慌ててこくこくとうなずいた。
 キラはぶーっと唇を尖らせた。
「そんなありきたりなんじゃ、つまらないんじゃなーい?」
 キラはよっぽど炎が好きらしい。
 あらゆるところに炎の仕掛けを作って、ごうごうと燃える大都市で遊びたいそうだ。
 エルピスががくがくぶるぶると震えていた。
「と、いうわけで、さっそく『おいでませ! 炎地獄温泉!』を――」
 キラが言い終える前に、エルピスがばしぃっとボタンを押した。
「こんなのありいいぃぃぃぃぃぃっ!?」
「なんであたしまでええぇぇぇぇ!」
 キラとティアの二人は真っ逆さまに床の穴に落ちていった。
 間もなくして、穴からぼっと火が噴き出した。