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リアクション
戴冠式 3
「ヒャッハァ〜!
聞いてくれ右府様にミョー案があるってよ」
南 鮪(みなみ・まぐろ)が、
玉座の間についたジークリンデたちに走り寄ってくる。
「うむ、しばし待つがいい。
ここは、すぐに戴冠すべき時ではない。
まずは、信を得るまで力をエメネアに託すべきだ」
織田 信長(おだ・のぶなが)が、
ジークリンデやネフェルティティたちを説得する。
「己の身を挺して、おぬしをかばったエメネアなら信頼できるであろう。
グランツ側の想定外の絡め手で、
シャンバラ側が力を確保すれば優位に事を運べる可能性も高いだろう」
信長は、まずは、信用を得ることが大切だと、
ネフェルティティたちに説く。
「グランツ側に力が渡るは論外。
なれど、おぬしも、過去の所業で信が無いのは事実。
姉と共に下々で働き信用を得るが先かと思うが。
突然現れ戴冠してはそれだけで国が荒れるだろう」
「右府様の言うとおりだぜ、
そのために、エメネアを助け出そうとしてるからよ」
鮪が、仲間たちのことを伝える。
「ですが……」
「ダークヴァルキリーの件。
民草は知らずとも各国重鎮には知れ渡っておる。
信を得る前の突然の戴冠は戦の引き金や再びの国の分裂に繋がりかねぬぞ」
反論しようとしたジークリンデに、
信長が厳しい言葉で告げる。
「戴冠の儀は民草の祝福の中でこそ価値有りぞ」
そう、付け加え、ジークリンデやネフェルティティを制止しようとするが。
「待ってください」
エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が進み出て、
ネフェルティティの弁護をする。
「今から4年前、そして5000年前、
ネフェルティティ様が鏖殺寺院の主、ダークヴァルキリーとして
テロ行為を行った事は間違いない事実です。
ですがそれは呪われ、狂わされた為です。
だからと言って罪が消える事はありませんが、
だからこそ、二度と同じような事は起こさない」
エメは、【鏖殺寺院回顧派首魁】として、その役目を全うしようとしていた。
「もはやダークヴァルキリーが蘇る事はないのだと、どうか信じてくださいませんか」
「それはわかっておる。
だからこそ、まずは信を得よと言っておるのだ」
「それが必要なら」
信長に、エメは、うなずき、決意の表情で言った。
「勿論、罪は罪として償う必要があると思います。
呪われ、狂わされていたからといって、
ダークヴァルキリーとしての行動に、責任が消えるわけではありません。
ネフェルティティ様が元ダークヴァルキリーである事は、
シャンバラの民は皆覚えている事でもあります。
ですから、私が鏖殺寺院回顧派首魁として
主、ネフェルティティ様が女王としてのお役目を終える時まで
必要ならば代わって監獄に入り刑に服します」
エメのパートナーの片倉 蒼(かたくら・そう)が、
ネフェルティティを気づかうと、
彼女は、うなずき、一歩前に進み出た。
「ありがとうございます、エメさん」
ネフェルティティは、エメに礼を言うと、
決意を伝えた。
「私にダークヴァルキリーだった頃の責任があるのはわかっています。
しかし、だからこそ、今度こそ、
シャンバラを守るために、全力を尽くしたいのです」
ネフェルティティの決意は、
言葉だけのものでないことが明らかだった。
女王として、シャンバラを支えること。
それは、アイシャが、シャンバラのため祈り続けたように、
けして生半可なことではない。
シャンバラの地、この地に住む者たちの暮らしを、背負い立つことになるのだ。
それが、国家神としての責務であった。
信長は、ネフェルティティを鋭く見据え、その瞳が揺らがないのを確認すると、うなずいた。
「あいわかった。
わしとて、ネフェルティティが戴冠することに異議があるわけではない。
この場で、我らが争うべきではない。
少しでも早く戴冠の義を行うべきだ」
それに、今のままの状況では、
エメネアはまだアールキングと一体化していて、
戴冠式をするのは難しそうでもあった。
また、実際に、エメネアが女王の力を受け継げないのは別の理由もある。
エメネアはアムリアナ女王の因子を分け与えられた十二星華ではあるが、
かつて、シャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)が、
ゾディアックを必要としたのと同じく、
不完全な資格はあるが手段が足りない状況なのである。