空京

校長室

選択の絆 第二回

リアクション公開中!

選択の絆 第二回

リアクション


【5】イーダフェルト発展審査会 1

 由乃 カノコ(ゆの・かのこ)『仮想現実』 エフ(かそうげんじつ・えふ)リゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)エリエス・アーマデリア(えりえす・あーまでりあ)の四人は、審査会場にいた。その場所は、イーダフェルトのどこかの部屋の、どこかの地下にある。
 あえてそれは記さないでおこう。知らずにいたほうが得なときも、たまにはある。
 審査員は五人だった。ポムクルさん、幻の少女 エルピス(まぼろしのしょうじょ・えるぴす)空京 たいむちゃん(くうきょう・たいむちゃん)吉井 真理子(よしい・まりこ)吉井 ゲルバッキー(よしい・げるばっきー)。なかなか個性的な面子が揃っている。
 審査員たちは長テーブルに横一列で並んでいて、書類を参考に一組ずつ審査していく方式だった。
 誰か一人でも、「あ、こいつもうダメだな」って思って、手許のボタンを押せば即アウト。床がガコッと開いて、奈落の底に真っ逆さまだった。
 穴の底になにがあるかは、事前には誰もわからない。ただ噂だと、なんかぬめっとしてたり、ずきずきっとしてたり、びりびりっとしてたり、ぎいぃぃやぁぁだったり……と、なっていた。まったくもって奇天烈。逆に怖い。
 なんにしても、落ちないほうがいいに決まってた。一発アウトのシビアなルールで、妙な緊張感が漂っている。
 さあ、審査の始まりだった。



 カノコが真っ先に取りだしたのは、ぐるぐるに巻かれた一枚の大きな画用紙だった。
「ジャジャーン!」
 口からは古臭い台詞が出てきた。
 画用紙は両手で広げられる程度のものではなく、カノコは後ろにさがると、壁にその画用紙を広げて、テープでべたっと貼った。
 無駄に上手い百貨店の絵だ。しかも上には『カノコ特製設計図!』と書かれているくせに、百貨店に遊びに来てる親子連れとか、ゲームコーナーの若者とか、犬とか花とかも描かれてた。設計的に意味はない。ただ、楽しそうな雰囲気は伝わってきた。
 絵にはいくつも矢印が伸びていて、細かく、ここが玩具屋とか、ここが化粧品、ここが温水プール、ここがアミューズメントパーク、と、各場所の名前が記されてた。
「とりあえず街には必要不可欠、なんでも買える夢のような施設ゆーたら……百貨店! 百貨店やで!」
 大事なことなので二回言った。伝わったかどうかは、さだかでないが。
「駅前にドーンとハデにデカイの立てれば、春夏冬の商売繁盛は間違いなし! あと、屋上に遊園地つくろ遊園地! ポルクルさんもこれで毎日ご機嫌や!」
 カノコはまくしたてるようにアピールした。もはや作る気満々でいる。
 見守ってるエフとエリアスの目は冷ややかだ。エフは恵方巻きをもぐもぐと食べて、エリアスは持ち込んだ自前の本を読みながら、たまに審査員席ばかりじーっと見つめてる。審査員たちの顔は苦笑い。う、うーん……と困っていた。
「なに考えてるんだよ、カノコ! そんな阿呆みたいにコストのかかりそうな建物、立てられるわけないだろっ!」
 さすがに我慢出来なくなって、リゼネリがカノコを叱りつけた。
「そない言ってもしゃーないやん! そんなら、リゼネリさんはいいのつくってきたっちゅーんか!?」
 カノコは言い返した。リゼネリはにやっとした。
「な、なんやその顔……はっ! まさか!」
「そのまさかだよ! とくと見るがいい、僕の作品を!」
 ずざぁっ! と、リゼネリはカノコに負けないぐらいの大きな紙を広げた。
 審査員たちはどよめいた。が、すぐにそれはぽかーんに変わった。紙に描かれていたのは、実に精密に描かれたミニチュアマンションの設計図だった。まるで業者に頼んだみたい。けれど、大きさはポムクルの身長の三倍ぐらいあった。
「な、なんやそれ!」
 カノコはげぇっと叫んだ。
「んな……犬小屋やん……っ。リゼネリさん……そんなもん造ったら、ポルクルさんの人権に関わるで……。最低限文化的ってやつやで……」
「馬鹿でかい百貨店なんか提案する君に言われたくないよ!?」
 カノコとリゼネリはぎゃーぎゃー言い合った。
 ぶっちゃけどうでもいいことだった。どのみちどちらも、実現は難しい。そもそもポムクルさんについてちゃんと知ってるかどうかも怪しいのだから。
 と、カノコはふと、審査員席に座る小人に気づいた。
 今さらながら。
「うわっ! あそこになんか変な小人がおる! なんやあれコワイーッ! ギャー!」
「ばかさわぐな! ……あ、あれがポルクルさんだ」
 リゼネリはカノコに捕捉してあげた。もっとも、名前はすっかり間違えてるし、見るのも初めてだったが。
 むかっ。ポムクルさんの額に怒りのマークがついた。これでも意外と、プライドは高い。
「なまえをまちがえるなんて……しっかくなのだー!」
 ぽちっと押される、赤いボタン。
「へ……」「え」
 がこっと、床が開く。

 あんぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ…………――――!

 リゼネリとカノコの二人は一緒に仲よく穴に落ちていった。
 しーんとなる室内。
「……面白かった」
 エリエスは本を読み終わって、パタンと閉じた。それからすくっと席を立ち、退室する。
 もぐもぐと恵方巻きを食べていたエフは、ぼそっと言った。
「うまうま」



 神月 摩耶(こうづき・まや)ミム・キューブ(みむ・きゅーぶ)クリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)アンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)の四人は、カフェをつくることを提案した。
 ただもちろん、つくるとなれば、単なるカフェじゃつまらない。そこで、やたらと露出度の高いカフェ店員の服に着替えた四人は、ここぞとばかりにアピールした。
「制服はブラウスとスカートのセット! もちろん丈は短く、ブラチラ仕様だよ!」
 摩耶が胸の谷間を寄せて、純白のブラをチラ見させる。
「おいしーお菓子と色んな飲み物。あとごはんもあるの! あ、やーん、これ、パンツが見えちゃいそうかもぉ」
 お菓子とお茶を乗せたおぼんを持っているミムのスカートが、ひらっとめくれた。
「やっぱりね! ポムクルさんにもこういうオイシイ、ザ・エロティックな展開があってもいいと思うわけよ!」
 クリームヒルトの豊満な胸が、ぼいんっと揺れた。
「……こんな風に興奮を呼び起こすことも、大事なわけですわ」
 アンネリースの胸に、ミムが用意したショートケーキのクリームが落ちた。
 四人はお色気たっぷりのポーズでポムクルさんを誘惑しようとした。どこから出てきたものなのか、ピンクの背景とムーディな音楽が流れる。生クリームがからまって、指先についたそれをちゅぱちゅぱ舐めた。
「むうっ……す、すごい……」
 興奮しているのは、ゲルバッキーだけ。エルピスは顔を真っ赤にしてあわあわなり、真理子は怒りでわなわなと震えてる。肝心のポムクルさんはきょとんと首をかしげていて、たいむちゃんがにこっと笑った。
「ボッシュートッ♪」
 ガコッと床が開いた。
「どうしてダメなの〜〜!?」
「いやぁーーんっ♪ 良いと思ったのにぃ〜!!」
 摩耶とクリームヒルトはひしっと抱き合う。
「高いのイヤーーーー!?」
「あぁ、そんなご無体な」
 ミムとアンネリースはぎゅっと抱き合う。
 四人二組の女たちは、ひゅるるるる〜っと、真っ逆さまに落ちていった。