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リアクション
無限の敵 2
「ワロニエン、サオリさんから通達。押されつつも抵抗、盛り返しに成功。
引き続き攻撃を続けるとのこと」
「頑張っていただいていますね。全体的な状況は?」
「全イコン善戦。だけど、数が多すぎて負傷イコンも多数。
あと、小型がいやに増えてきたって」
「では私たちの出番ですね」
オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)、ヘンリッタ・ツェーンリック(へんりった・つぇーんりっく)が運転するランゲマルクに乗り、状況を整理していたのは水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)とマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)。
次から次へと舞い込んで来る情報をマリエッタが精査後にゆかりに報告、それを受けてゆかりが行動案を練り命令する。
「私たちも動きます。オットーさん、ヘンリッタさんはランゲマルクの操縦に専念を」
言われたオットーとヘンリッタは頷きながら運転を続ける。
「アルフレートさんとアフィーナさんは負傷イコンの応急処置、
シャレンさんとヘルムートさんは負傷兵のフォロー」
それぞれ、アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)、アフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)、シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)、ヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)も頷いた。
「そして、ジェイコブさんは敵の撃破、フィリシアさんはそのフォローをお願いします」
「了解した」
「かしこまりましたわ」
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)及び妻であるフィリシア・バウアー(ふぃりしあ・ばうあー)も返事をする。
「皆さん! 敵でございます! 迎撃を!」
オットーが叫び、ランゲマルクを止める。
「ようし、オレが手本を見せてやるから、貴様らは後に続け!」
「あなた、あまり熱くなりませんように」
ジェイコブの檄、フィリシアの制止。
その二つはほどよく混ざり合い兵士たちの指揮を高揚させる。
ひとたび外に出れば、そこには多数の敵がいた。
通常の人間サイズの敵が何の意志もないように、
ただぼんやりと光ながらイーダフェルトへ向かっている。
「オレたちは人間だ。イコンほどの強さもない、単なる歩兵だ。
だが、それがどうした! 等しく戦い、命を危険に晒している。
そして今はイコンも歩兵も関係ない! 目の前の敵を倒し世界を救う……
それがこの世界からの命令だ! 各自攻撃を開始しろ! 先頭にはオレがいく!」
ジェイコブが大地を蹴り、その地にヒビをいれる勢いで敵へと向かう。
あっという間に敵へと詰め寄りしゃがんと思えば、
低い体制を思い切り上昇させ下から上へと思い切り拳を振り上げる。
間髪いれず、右手にいた敵の下腹部へとひじうち、かがんだところへ回し蹴りを叩き込む。
その気持ちの高揚から、更に敵陣へと進もうとするジェイコブを見てフィリシアが一喝。
「それ以上無謀になるのなら、今日より一年間、晩御飯抜きですわ!」
その言葉にジェイコブの意識は一気にヒートダウン。
「……すまん」
「いいえ、わかっていただければ。ですが他の兵士たちはあなたのように強くはないのです」
「ああ、ちゃんとフォローする」
冷静になったジェイコブは味方の兵士をフォローしながら、次々と敵を打ち倒していく。
「アルフレートさん、シャレンさんたち!
右手方向に損傷イコンとその搭乗者がいます。負傷していますのですぐに向かってください!」
戦場を見渡していたゆかりが指示をだす。
「了解です! すぐに向かいますわ」
「こちらも了解です」
その指示にアルフレートとシャレンも即応して、損傷イコンと負傷した搭乗者の救援に駆ける。
彼が駆けつけてみたのは、ピクリとも動かない搭乗者たちの姿だった。
「イコンの損傷は……そこまででもありませんな」
「敵はジェイコブさんたちが引き付けています、直すなら今かと」
「そうですな。ちゃちゃっと直しちゃいましょうか。
っと、ここをこう直してやれば……」
アルフレートたちがすぐに作業を始めるが、シャレンたちはそう上手くいかない。
「あなたたち、すぐにここから離れて……」
「……いいんだ。どうせ、無理だよ。世界を産むなんて」
「そうよ。私たちはここで死ぬだけの駒。ならもう、動きたくもない、もういいのよ……」
「……無数に来る敵の姿、そして撃墜のショックからくる軽いショックでしょうか」
ヘルムートがそう告げる。
だからと言って助けないわけにもいかない。シャレンが手を差し伸べる。
「とにかく今はここから」
「ほっといてくれよ!」
パシンッ
シャレンの手は、弾かれた。重い雰囲気があたりに立ち込める。
その雰囲気を消し飛ばしたのは、アルフレートの言葉だった。
「“それだけの力を持ちながら、ただ滅び去る事しか出来ないって本気で思ってる?
こう言っちゃあなんだけどねぇ、ちょっとばかし、諦めるのが早過ぎるんじゃないですか?”
創造主とやらも、あんたたちもさ」
「ちから、なんて、僕には」
震える手。その手にアフィーナが手を重ねる。
「“確かに生命ある者はいつかは死にます……でも、あなたはまだ死ぬべきじゃない”」
優しい心からの言葉に負傷兵の心が救われていく。
「でも、もう生きていたって、何にも、どうにも……」
「“生きるのに疲れたからと言って、死を選ぶのはいかがなものでしょうか?
もう少し時間を置いてゆっくりと考えてみてはいかがでしょうか?
……私のパートナーのように、ね”」
ヘルムートがそう言うと、パートナーであるシャレンを見た。
それに釣られるようにして負傷兵たちもシャレンを見やる。
シャレンは少しだけ笑って、こう言った。
「“かつて、私が夫を亡くした時、私も生きるのに疲れたと感じましたわ。
でも、パラミタに来て、多くの人に出会って、それを乗り越える事が出来たのですよ”」
パラミタに来て救われた、その重き優しき言葉に負傷兵の心が、ここへ帰ってくる。
二人は立ち上がる。その瞳には弱いながらも生きる意志が再燃していた。
「みなさん、すいませんでした。俺たちのためにきてくれたのに」
「私たちも頑張ります。ありがとうございます!」
「おやおや、まあまあ。でもとりあえず、下がりましょうね」
シャレンは二人に微笑を浮かべる。
「お二人さんのイコン、とりあえず動くからな。護衛も兼ねて乗ってくれんかね?」
「「……よろこんで!」」
アルフレートの粋な提案に二人は嬉々として、イコンに乗って四人を護衛して後退。
その後、ランゲマルクも護衛を兼ねて、ゆかりたちと行動を共にすることになった。
「それじゃ、ランゲマルク移動するでございます」
「……オットー、少し機嫌わるいですか?」
ヘンリッタの言葉に、オットーはこう答えた。
「“あれだけの力、滅びのために使うなんて勿体ないと思いませんか?
生きるために使ったならば、きっと素晴らしい事が沢山できる筈ですよ”」
オットーの祈りにも似た発言に、ヘンリッタは「優しいですね」と答えた。
「私もそう思います。ですから、今は戦うのです」
「この戦いの先には新しい未来があるからな」
ゆかりとジェイコブもオットーの言葉に同意した。
その上で、この戦いの勝利をより強く願い、そのための行動は惜しまないと望んだ。
とゆかりに無線連絡がはいる。
「失礼。こちら水原 ゆかりです。……はい、こちらは順調です。
洋中尉たちも善戦しているとのことです。
はい、引き続き小型の撃破、負傷兵の救護、イコンの応急手当をします。
そちらも気をつけてください、翔子さん」
そう言ってゆかりは無線を切った。