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リアクション
現状打破 2
『こばっ!』
「小ババ様が、出撃許可を求めてるぜ」
小ババ様からの内線を受けて、三船甲斐拠点移動ラボの司令室で、猿渡 剛利(さわたり・たけとし)が三船 甲斐(みふね・かい)に言った。
「にっしっしっ。当然許可だよ。そのために、ここに来ているんじゃないか!」
待ってましたとばかりに、三船甲斐が言った。
戦闘空域後方、イーダフェルトの中央近くにラボは位置している。
「加速カタパルト臨界へ。キャリーフック解除。小ババ様専用イコン発進!」
気ままな増設に次ぐ増設で、研究施設の寄せ集めのような外観をしたラボから、小ババ様専用イコンがシュポッと射出された。もはや、どこが射出口か分からないので、敵にとってはいきなり生身の大ババ様が現れたかのようだ。
イコンとは言っても、ベースはイコプラ級のパワードスーツである。その外観は、等身大の大ババ様そっくりであった。
「――辛いこともあったけど、たくさんの素敵な人たちに出会えた。だから、悪いものじゃないと思う」
「――にっしっしっ、俺様はまだまだ色々と創り足りないんじゃぜ? 破壊の美学も分からんでもないが、やっぱ創作の楽しさには及ばんじゃろう」
それぞれの思いをいだいて、猿渡剛利と三船甲斐が小ババ様専用イコンを見送る。
「いっけー、小ババ様!」
「こばっ!」
背中に背負っているランドセル型ミサイルポッドから、小ババ様がマイクロミサイルを一斉発射する。風に流れる蜘蛛の糸のような不規則な軌道を描いて、多数のミサイルが四方八方から光り輝く敵に降り注いだ。小型ミサイルと言っても、同時着弾時の瞬間火力は侮れない。中型の敵が爆炎に呑まれて消滅した。
だが、敵はまだまだやってくる。
「こばば!」
小ババ様が、バックパックからもふもふビットを射出した。このもふもふした飛翔体に触れた者は、もふもふを愛さずにはいられないという兵器である。今回の敵も、もふもふの誘惑からは逃れられない。すっと、もふもふビットに撫でられて、光り輝く敵たちが悶絶した。
「掩護射撃開始!」
そこを、ラボの火力を総動員して、猿渡剛利たちが攻撃する。
もふもふの飛翔体の後を追うようにして光芒が広がる。だか、それをもすり抜けてきた敵たちが、小ババ様専用イコンを攻撃した。三船甲斐の設計で攻撃力の高い小ババ様専用イコンだが、防御力は見た目通りでさほど高くない。あっけなく撃墜された小ババ様専用イコンが、イーダフェルト遺跡の一つに不時着した。
「こ、こば……」
煙をあげる小ババ様専用イコンのハッチから、小ババ様がふらふらと出てくる。そこへ、小型の光る人型が迫った。
「小ババ様、メカの……じゃない、小ババ様の素だあ!」
そこへ、三船甲斐拠点移動ラボから分離した三船ラボ3号棟で駆けつけた猿渡剛利と三船甲斐が、赤と青のキャンディを投げ渡した。
「こばあ!!」
しっかりとそれを受け取った小ババ様が、二色のキャンディをいっぺんに口に頬ばる。その瞬間、小ババ様の身体が光り輝いて爆発した。そして、100人の光り輝く小ババ様に分裂する。小ババ様が命をかけた最後奥義、小ババ100人拳である。
「こばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
迫りくる敵たちにむかって、果敢にも小ババ様たちが小ババ百烈拳を放っていく。
いくつもの敵を原型が分からぬほどに叩き潰すと同時に、輝く小ババ様も次々に潰されては消滅していった。
「まずいぞ、このままじゃ、小ババ様が全滅だ」
「冗談じゃない。一人だけでも救出して撤収だよ!」
猿渡剛利の言葉に、小ババ様ほどの研究材料を失ってなるかと三船甲斐が叫ぶ。そのまま、三船ラボ3号棟のハッチから戦いのさなかに飛び下りると、かろうじて一人の小ババ様を確保してだきかかえた。
「撤収!」
急いで三船ラボ3号棟に回収してもらうと、三船甲斐たちは慌ててその場を脱出していった。
一方、イーダフェルトの周辺。
そこに浮遊するのは武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)、ヒルデガルド・ブリュンヒルデ(ひるでがるど・ぶりゅんひるで)が乗艦する飛空機動要塞戦艦ミッドガルド。
二人は防衛に専念。言わば最終防衛ライン。
他のイコンから無線連絡を受けていたのはヒルデガルドだ。
「かしこまりました。よろしく、お願いします」
「では、作戦通り行こうか。敵がくれば迎撃。
それ以外は常に敵を中央へと寄せるための威嚇、こうすることで主力イコン部隊に敵を叩いてもらおう」
幸祐はこの作戦を計画し、ヒルデガルドと協力して実行していた。
幸祐は常に攻撃を続け作戦に忠実に動いていた。
しかし敵は無数。それにふとした瞬間、どこからともなくやってくる。
その脅威に幸祐も例外なくぶち当たる。
「マスター。敵の反応あり、迎撃を」
「ああ。……ヒルデガルド、最後まで戦ってくれるか?」
「マスター……いえ。
“幸祐が封印を解除していなければ私は世界が終わるまで虚無と破壊しか知らず眠り続けていました。
幸祐が進み続け、共にある限り私は前へ進めます”」
「そうか……。
“ヒルデガルド、妲己、ローデリヒ、ルーデル……。
そして、只生きているだけだった俺の人生を大きく変えてくれた全ての人達に感謝する。
これはラグナロクではない、全ての始まりなんだ……。行こうぜ、ヒルデガルド。俺達の新世界へ……!”」
「イエス、マイ、マスター!」
お互いの結束を再認した二人は向かってくる敵をターゲットに切り替える。
ヒルデガルトの索敵を受けて、幸祐が撃ち落す。
それでもなお、その思いすら覆してしまうほど敵が幸祐に襲い掛かる。
「それ以上は、いけませんねぇ」
「いいなりのお前らが、意志のある者の前に立つな!」
佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が三機の援護に入る。
アルシェリアは照準を確実に合わせ、一つ、また一つと目標を破壊する。
「近距離に敵は?」
「敵だらけ、ですが後方にはいません。前方の身に集中してください」
アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)の言葉にルーシェリアは頷き、前方のみに集中する。
更にルーシェリアたちのほかにもう一機。
高度限界まで飛び出す真紅の機体。操縦するのはグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)、その表情は不敵に、笑っていた。
「シィシャ、索敵切っときなさい。目で見て対処した方が、速い」
『……良いのですか?』
グラルダの声を聞いたシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が問う。だがその問いかけは考えを正すというよりは最終確認の意味合いが強かった。
「2本の剣、それに強靭な装甲と高い機動力に、敵を認識する目。
加えて、鉄族最高の戦士と一騎討ちして負けなかった。……それで十分でしょ」
『……ふっ』
シィシャの顔に、確かに、笑みというものが浮かんだ。
『それは自慢でもありますし、驕りでもありますね。
……ですが、事実でもあります』
シィシャの指がコンソールを踊り、索敵を担っていたレーダーの反応が消えた。
その代わりに前方のモニターにいくつか情報ウィンドウが展開される。
「……何よ、コレ」
『とある方から助言を受けたものをアレンジして実装してみました。一度標的に定めたモノは、活動を停止するまで逃しません』
そう口にしたシィシャの脳裏に、「これでグラルダちゃんがしーくんを見失うことはなくなるから♪」と実に楽しそうに笑った女性の顔が浮かんだ。
「……そう」
対するグラルダは、見た目は素っ気ない反応だった。――だが二人とも、異世界の戦友、“紫電”と“大河”の事を忘れたわけではない。
そして見た目同様、冷めてなどいない。このような所でやられるつもりなぞ、毛頭ない。
そんなグラルダへルーシャエリが微笑みながら通信をする。
「援護は私たちのほうでやっておきますので、気兼ねなく暴れて下さいね」
「……ふっ、」
「戦闘開始……行くわよ!」
それを戦闘開始の合図として、最初の敵――光る人型のような何か――を標的に定めた。
「アタシは!」
まず右の一刀を光る人型へ打ち込み、グラルダの声が想いとなり力となって、致命的な一撃となる。
「世界を! 創造! しようだなんて! 恐れ多いこと! 出来ない!」
左、右、左、右、そして両方。2本の刀は契約者の搭乗するイコンと相対する光る人型を、ことごとく切り伏せていった。
「ですが、これだけの意思が収束する先を、私達は見てみたいのです」
グラルダの叫びを、シィシャが引き継ぐ。
グラルダは一心不乱に前へ前へと向かい、
押し寄せる敵を、なぎ払い、切り倒し、ぶん殴る。
「あら、元気ですねぇ。これは援護して差し上げなくては」
その様子を見ていたルーシェリアはにこにことした笑顔を浮かべて、グラルダを援護する。
「やるじゃない。助かったわ」
グラルダからの無線に、ルーシェリアは穏やかな声で返事をする。
「いえいえ〜。イーダフェルトは私や他の一機、それに中で戦ってる人、契約者みんなで守りましょう。だからその援護、させてくださいねぇ」
「この身を賭してでも、守りきってみせましょう。お互いに」
アルトリアの問いかけに、グラルダはイエスとは言わなかった。
「冗談でしょう。そんなたいそれたこと、言わない。言えないわ!」
グラルダは無線を切った。
剣を振るい、振るい、振るい続け、
最後の一太刀に己が全ての思いをのせて、二人は咆哮する。
「“思考する事を諦めるな! 未知なるものを恐れるな! 知れ! 知れ! 知れえー!!”」
「“貴方も私たちも全ては事象の一部。知りなさい、己の小さきを。己の弱きを、愛しさを!”」
それはグラルダ自身にも向けられた叫び。
それはシャシィが繋いだ叫び。
無数の意思がぶつかり合って、そして生まれる世界。そこで自分たちは何を思い、何を目指すのだろう――。
「少なくとも、全てを知った時、きっとまた一歩前に踏み出せますよ。きっと、ねぇ」
グラルダの叫びに寄り添うように、手を差し伸べるようにルーシェリアが言葉を紡いだ。
イーダフェルト外の戦闘は、数に押し切られそうになりながらも、どうにか抵抗。
善戦、いや、猛戦していた。思いをぶつけ、敵を倒していた。
それはイーダフェルト内にいる契約者も同様だった。