空京

校長室

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

リアクション公開中!

【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆
【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆 【蒼空のフロンティア最終回】創空の絆

リアクション


世界産み儀式準備完了

 では終わらない。
「大分遅れた! 総員、敵を殲滅しろ!」
 ようやく駆けつけたカルの部隊が転々といる敵を滅多打ちにする。
 前線の敵ほどの量ではなく、瞬く間に敵を一掃していく。
 カルも思いのたけを叫びながら、敵を倒す。
「“生まれたくない、なんてもったいない。
 親の顔は知らない僕だけど、それでも世界はきれいだぜ?
 知ろうとしないなんてもったいない! 実際に生まれてみたら、結構いいかもしれないぜ?
 捨て子の僕が言うんだ、間違いない!”」
 自分の生来を恨みもせず、いい笑顔で言ってのけるカル。
 それに乗ずるかのように一寿も叫ぶ。
「“まだ僕は、恋らしい恋もしてないものね。
 だから、その前に世界に終わられてしまっては困ってしまうよ!”」
 ブーストソードを振るいつつ、この世界を終わらせまいと必死に戦う二人。
 カルの参入により戦局はあっという間に契約者側に傾き、全ての敵を倒すことに成功した。
「次は、“滅びを望まないあなたになりますように……”」
 ジョンがそう呟いた。深く深く、祈るように。
「ああ、皆いなくなってしまいましたぁ」
「そのようだね」
 ニル子の護衛に当たっていた尋人は、敵がいなくなったことを確認し武器をしまった。
「そういえば……愛を学ぶって言ってたみたいだけど、学べたかい?」
 尋人はニル子に言葉を投げかける。
「あなたは、愛を知る人ですかぁ?」
「ええと……多分、知ってる、と思う。明確に、じゃないけど。誰かを想う気持ちは」
「それは、ウゲンちゃんにも?」
「……ああ」
(カケラは、ウゲンが復活する方法をニル子が知っているかもと言っていた。……でも、それは……)
「ウゲンちゃんが居なくて寂しい?」
 ニル子がその大きな瞳で見上げてくる。
(ウゲンの復活、それはパートナーであるニル子の身体を乗っ取り、その精神を消すことで行われるのだとしたら?)
 尋人はニル子を見つめながら逡巡した。
(いや、迷うことなんてない)
 微笑み、彼女へ告げる。
「大丈夫だよ。ニル子がこうして元気で居るってことは、ウゲンはカケラに溶けても、ちゃんと存在しているってことだから。――きっとウゲンを復活させてやれる方法はある。例えば、これから産まれる新しい世界とか……ね」
 そう、尋人は告げ、ニル子の頭を優しくなでたのだった。
「……危なくなったら、必ず逃げろ」
 雷號がショコラティエのチョコをニル子に差し出しながら、そう言った。
 ニル子はといえば、それを聞いてるのかいないのか、今はチョコを食べるのが嬉しくて仕方ないようだ。
「……“新しい世界でウゲンが体を取り戻す方法をきっと見つける”。
 誰も犠牲にしないような方法で。
 だから、今できることを全力でするよ。ウゲン」
 尋人は少し遠くを見て、思いに馳せる。
 
 マリー・ランチェスター(まりー・らんちぇすたー)は尋人らの様子を覗き見て微笑んだ後、ふぅ、と嘆息した。
「ともあれ、ウゲンくんが何を狙ってたか分かるのは随分先のことになるのかな?」
 ウゲンのおでこをペチるつもりだった彼女の手が、しゅっしゅと空を切る。
「カケラちゃんのおでこをペチペチして出てくるものでもなさそうだしね」
 ローリー・スポルティーフ(ろーりー・すぽるてぃーふ)もパートナーのマリーの隣で、手をしゅっしゅっと振っていた。『ウゲン・カイラスは私にビアーの力を届ける役目を持っていたのだと思います』
 ウゲンとの融合が進み、より意識が確立してきたというカケラが告げる。
『かつて、光条世界の使者だったビアーは創造主に逆らう際、その中に“欠片”を仕込み、地球へと逃れました。そして、時が熟すまで力を方々へ散らしながら身を潜めた。ウゲン・カイラスは、その力の一端を身に秘めていました』
「つまり、ウゲンくんの意志とは関係なかったってこと?」
『……どうでしょう。欠片を持つ者は他にも存在していたと考えられます。それでも、辿り着いたのはウゲン・カイラスだった。彼自身の野心……いえ、欲望がなせたことだったのかもしれません』
「創造主の力を奪って好き勝手するつもりだけだったかもしれないってことか……」
 マリーの手は、想定ウゲンのおでこに対し、ぺちぺちから強めのデコぴんへと変わっていた。

「完成なのだー」
 ポムクルさんがそう言う。ようやく準備は万全となった。
「それではこれより儀式を開始します。
 リファニーさん、カケラさん……参りましょう」
「……はいっ!」
『頑張りますっ』
 ネフェルティティ、リファニー、カケラが集まる。
「さて、このまますんなり終わっていただけるとありがたいんだけどね」
「不穏なことは口に出して言うものじゃないわ」
 祝福ムードの儀式場で、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に油断はなかった。
 こんな時、考えたくはないが、警戒しないわけにもいかないもの。
 裏切りだ。
 どの時代、世界でも行われてきた裏切り行為は、積み上げてきたものを一瞬で無に帰す。
 最後の最後でそんなことにならないように、セレンは余念なく殺気看破を使用する。
 最愛の相棒であるセレアナもポイントシフトの準備は怠らない。
 味方が持つ武器の方向、不自然な挙動はないか、その挙動一つ一つを確認する二人。
「良くいるのよねー。最後になると、突然、裏切りや叛乱に走るヤツって」
 セレンが小声でそう漏らし、セレアナは鼻で笑った後にこう返した。
「まあ、ここにはいそうにないけれどね」
「……それでいいわ。こんな予想、杞憂で終わるのが一番いいもの」
「誰もやらないを率先して行う……素敵だと思うわよ、セレン」
 セレンを素直に褒めるセレアナ。
 一方のセレンは突然の言葉に、だけれどニッと笑った。
「……ふふん、私は『壊し屋セレン』だもの。いい加減で大雑把で気分屋の。
 だから、例え裏切り者がいようとも壊してあげるわ、そんな悪夢」
「なら相棒の私も付き合いましょう。どこまでも、いつまでも、ね」
 決して目を合わせることなく、周りの警戒に集中しながらも、
 二人のこれからもずっと一緒だと確かめ合う二人だった。

 この一部始終を六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)麗華・リンクス(れいか・りんくす)が撮影している。
「護衛だけでは終わらせません。
 この儀式は大きな一歩……その重要で貴重なシーン、これは後世にも伝えなくてはなりませんからね」
「そうだな。邪魔にならない程度に撮影しよう」
「はい。別の場所にいる泪さんと一緒に、このことを世界に伝えていきましょう」
 新たな一歩であるこの瞬間を世界へと。
 優希はそのために、撮影を行う。
 この儀式の様子を全て見逃さないように、カメラを増し続ける。
 すると、周りから契約者たちの祈りが聞こえてくる。
「“死にたくない。だってまだシャヘルを幸せにしてやってない。
 たくさん辛い目にあったシャヘルを幸せにする前に、世界を滅ぼされてたまるか。
 だから、俺たちはまだ死なない!”」
「“記憶を失っていた自分が、シャレムと出会って、まだ少ししか経っていない。
 強化人間となっていた自分の境遇は解らないが、これから、だと思っている。
 だからきっと、創造主も……”」
 互いに互いを思うシャレムとシャヘルの祈り。
「“私達の冒険はこれからよ♪”」
「“世界はいつだってフロンティアよ”」
 これから先もずっと進んでいけるという美那子と奈留の祈り。
「“世界は怖い所じゃないよ。オレたちと一緒に、新しい場所へ行こう”」
 優しい微笑を浮かべて、手を差し伸べるかのような英虎の祈り。
「“美味しい物食べて幸せになりましょう!”」
「“グダグダ言わずに生きろっての!”」
 自分たちの本心を乗せたペシェとエルサーラの祈り。
 その祈りは儀式を進行する三人へと、集まっていくようだった。
「……
 “いつも立ち止まって動けなかった私ですが、色々な人々と出会い、変わる事が出来たんです。
 この世界だって、変わる事が出来る筈ですっ!”
 ってわわ、私の声入っちゃいました!?」
「それもまた、この瞬間を彩る紛れもない真実であろう。
 しかし、まだまだ一流には程遠いな」
 笑う麗華に少しだけ赤面す優希。その間も、撮影はずっと続けられた。


 儀式の開始。それは怪物たちに異変をもたらした。
 彼等は更に凶暴化し、その身のことなど一切気にせず、なりふり構わずイーダフェルトに向かうようになる。
 更には、巨大な人型も大きく動きだす。
 たったの一歩で、想像以上にイーダフェルトへ近づいてくる。
 これまでよりも早く、その手をより大きく振り回しながら――。