|
|
リアクション
世界を産むために 4
『こちらは問題ない。そちらは?』
「こちらも特に問題ありません。儀式ももう始まります」
カルからの連絡に堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)は和やかな声で答える。
その後ろにはランダム・ビアンコ(らんだむ・びあんこ)の姿がある。
「このまま敵、現れないといい」
「そうですね。滅びを望むものさんには空気を読んでほしいものです」
「ホロビ……難しい、わからない」
「皆、それは嫌なんですよ」
一寿がランダムにそう言うと、ランダムはハッとした。
「嫌……ランダム、一寿と一緒じゃなくなるの、イヤ。
嫌なこと、ダメ」
「ええ。ですが彼らは怖いんですよ。新しい何かをすることに」
「……やってみないで、怖がる、よくない。違う?」
「いいえ、その通りです。だから僕たちが先にやってみるんです。
何も怖いことはないんだって、ね」
優しい一寿の言葉にランダムを笑顔を返す。
だがその笑顔は長くは続かなかった。突如として敵が出現したのだ。
「! カル大尉! 敵が内部に出現、応援を!」
『了解! すぐ行く!』
敵の数はそう多くはない。しかし油断して誰かが傷付けば、すべてが台無しだ。
「あれはなんでしょうか〜?」
ニルヴァーナの地祇 ニル子(にるう゛ぁーなのちぎ・にるこ)が調子はずれの声で、敵へと近づいていく。
彼女にとっては彼らが敵という認識はないのである。
「ちょっと、失礼!」
その様子を見かねた鬼院 尋人(きいん・ひろと)がニル子と敵の間に割ってはいる。
寸前で敵の攻撃を受け止めて、弾き返した後、一太刀の元に斬り伏せる。
呀 雷號(が・らいごう)も攻撃に加わり、ニル子周辺に集まっていた敵を瞬く間に沈めていく。
「僕たちも加勢します!」
一寿とランダムも手伝い、一度は敵を制圧するが敵の第二陣が現れる。
先ほど撃ち漏らした敵がカルがいた場所とは別ルートからここに辿りついたのだ。
「ったく、迷惑極まりないっちゅうねん! ノックくらいしたらどうや!」
「敵がそんなことするわけないでしょ!」
漫才のようなやりとりをしながら、上條 優夏(かみじょう・ゆうか)とフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が駆ける。
「HIKIKOMORIの神になるべきやった男の根性見せたるで!」
とんでもない単語ではあるが、その根性に陰りはない。
うじゃうじゃいる敵の真ん中へと堂々走り込み、豪快に武器を振るう。
「こんな時でも優夏はブレないのね、まぁそれも魅力かな☆」
呆れ半分、尊敬半分で笑い、フィリーネは魔法を使って敵を滅ぼす。
「“皆の明日の為、あたし達は歩みを止めないのよ!”
それに、あなたたちもいつも楽しく明るくいこうよ! 毎日がステキになるから☆」
フィリーネの言葉に一瞬だけ敵の動きが鈍ったように思える。
だがすぐに敵は攻撃を再開し始めた。
「“新世界、面白そうやない? 未来は解らんから楽しいんやで!”
よっしゃ、特別や! 今日だけ本気出すでぇ!」
遂に優夏が、長年の時を経て本気を出すときが来たらしい。
その言葉に嘘偽りはなく、破竹の勢いでもって敵をなぎ倒していく。
その様子をリィン・リヴェニが記録する。
後の研究のため、世界が新しくなった時に、役に立てるように、細かに記録をし続ける。
「リィンの研究は面白そうやからな、記録はバッチリ頼むで」
優夏の言葉にリィンは頷いた。
「お金を持っていない人に用はありませんです!
さっさと退いてくださいです!」
エメネア・ゴアドー(えめねあ・ごあどー)が酷い言葉を敵に投げかける。
慈悲は一切ない。
その側にはリリ・マクレラン(りり・まくれらん)、ルーク・ナイトメア(るーく・ないとめあ)がいた。
二人はエメネアのフォローをしつつ、敵を退けて、近づけさせない。
ある程度落ち着いたところで、リリがエメネアに問いかけた。
「随分と変わったよね? 本当にあの時のエメネアさんなんだよね?」
「? 私は今も昔も私ですが?」
即答するエメネアに、リリは思わず言葉をなくした。
「……まあ、今幸せならそれでいいけどね」
「幸せなんかじゃありません! 毎日貧乏で困っているのです!」
「そう? リリは幸せだよ、シャンバラに来てからは。
寝るところもあって、ご飯も食べられる。
仕事をすればお金がもらえる、それがすっごい幸せで……
なにより、眠りから目覚めた時に、誰かが近くにいるっていうのはたまらなく素敵よ」
リリの言葉にエメネアが押し黙る。そしてぽつりと呟いた。
「それだけで、幸せですか?」
「幸せなんてどこにだって転がってるのよ」
何でもないように言うリリ。すると、ルークが口を開く。
「……
“絶望して自棄になった事もあるけど、その後に希望も芽生えた。
これが終わったら、それがしの希望に愛を告げたいと思う”」
それまで一言も喋らなかったルークが、そう言った。
リリを見て、確かにそう言ったのだ。
「ルーク……」
リリもその意図を察したのか、ルークを見つめる。
そして心に決めた。必ずこの局面を抜け、新たな世界で二人手を繋いで生きていこうと。
そう言おうと。
「……幸せはどこにでも転がってる、ですか」
「エメネア殿、危ないでござる!」
呆けていたエメネアに敵の魔の手が迫る。
その危機を救ったのは、巫女への愛情を燃やし続ける、坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)だ。
前蹴りで敵を吹き飛ばして、追随。
「この刀の錆になるでござる!」
接近肉薄、そして両断。流れるような動きは見事という他になかった。
「これでモテモテ間違いなし!(エメネア殿、ご無事でござるか?)」
これさえなければ完璧なのだ。
「逆ですわ逆」
スパンッ
姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)が的確に突っ込みを入れる。その突っ込みは存外重く、鹿次郎をむせさせる。
「ごほっごほっ!? ……おほんっ! エメネア殿、ご無事で?」
何事もなかったかのように仕切りなおしたが、それまでのことが消えるわけでもない。
「平気も何も、あの攻撃もわかってました。何の問題もないです」
「そ、そうでござったか」
「ところで、ジークリンデさんはいいのですか?
私のような貧乏娘より、バイトに成功しまくりのジークリンデさんの方がいいのでは?」
エメネアの問いかけに答えようする鹿次郎だったが、
その後方に敵の影を見つけて、言うよりも早く体が動く。
「お待ちなさいって」
雪がそのフォローをし、敵がエメネアを攻撃する前に稲妻の札で敵を牽制。
そこでようやくエメネアは自分の後方に敵がいることに気付いた。
そして目視した。
颯爽と自分の前に現れた、サムライの姿を。
「忠義よりも大切な事が時にはあるでござる!」
叫びと共に敵を右肩から左脚の付け根までを切りつけ、床へと倒れ伏せさせる鹿次郎。
その様を見てエメネアは何も言えないでいた。と、鹿次郎が口を開く。
「それに最後の時であっても新たな第一歩の時であっても、
それが大切な時なれば、拙者はエメネアさんと共に居たいでござる。
二人の約束もまだ果たせておらぬでござるしな」
振り返り、いい笑顔でそう言った。
「だから結婚して下さいお願いします!」
台無しである。これには感心していた雪も頭を抱えざるを得なかった。
それに対し、エメネアは。
「は?」
『何言ってんだ、この人は』といったような表情で鹿次郎を見やっていた。
「何を寝ぼけたこと言ってるんですかぁ〜?」
エメネアも容赦ない。さすがの鹿次郎もへこみそうになる。
しかし。
「もう式場は抑えて日程も決まってるですよぉ?」
エメネアは既に“結婚を決定していた”のだった。
「え、ちょ、拙者まだ……、え? あれ?」
「鹿次郎さんの縁者の方々にもご挨拶済みですよぉ?」
容赦なかった。まったく逆方向で。
「え? むしろ、なんで準備してないんですかぁ〜! 酷いですよぉ〜!」
鹿次郎は終焉の迫る世界で、純然たる狂気を垣間見たのだった。