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リアクション
無限の敵 3
「今の所、私たちの作戦は順調ですね」
「そうだね!」
「ところで、鋼鉄の獅子や他イコン機との連絡はどうですか?」
「問題なくできてるよ。ダリルさんとも挨拶できたし、他のイコン機からもよろしくー! ってさ」
ユーゲントに乗っている香取 翔子(かとり・しょうこ)と白 玉兎(はく・ぎょくと)が現在の状況を話し合っていた。
ユーゲントの操縦はゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)と鶴 レナ(つる・れな)に任せている。
「ガーディアンヴァルキリーは?」
「ルミナスヴァルキリーと共闘しつつ、母艦として動いてる。
どこへ行っても敵だらけだから気をつけてって」
「成程。未だどの艦、イコンも健在ということですね」
「そうみたいだね!」
その時、ユーゲント内に警報が走る。
「複数の敵の接近を確認しました! 数7!」
「今友軍機はいない、か。僚機に連絡!
敵はユーゲント及び君たちの戦力だけで迎撃する!」
「“月並な台詞だけど、あたしに言えるのはこれだけよ……生きる事を諦めないで”」
レナの静かな温かみのある言葉。僚機の搭乗者は深く噛締めて「了解!」と叫んだ。
実際無茶な話だが、やる他ない。敵はすでにこちらを迎撃せんとしているのだから。
「翔子さんは下がっていてください」
「いいえ。ここに残ります。この状況を見届け、連絡しなくてはなりません」
翔子は冷静に、自分の命さえも作戦遂行をするためならばなげうつ覚悟ができていた。
「なら、なおさらどうにかしないといけませんね。
何があろうと、イーダフェルトや皆には指一本触れさせないよッ!」
僚機が攻撃をして、敵がかわした後の位置を予測した上で、ユーゲントがソニックブラスターを発射する。
その予測、攻撃は的確で、見事に敵を迎撃する。
しかし更なる増援を前にして、さすがのゴットリープも苦戦を強いられる。
敵が近づかないように、高初速滑腔砲なども使用するが、敵はどんどん増えてくる。
「敵の数どんどん、増えていきます。後退しましょう!」
「できない! ユーゲントは落ちるまでここを死守する! それにもう少しの辛抱だ!」
だが、ユーゲントと僚機だけでは最早抑えられるはずもない。
このまま落ちれば【新星】部隊の指示系統はボロボロになる。
にも関わらず、ここで大型の怪物がやってくる。最悪のタイミングに誰もがもうダメだと感じた。
ゴットリープを除いて。
「こうなったらがむしゃらにでも艦載用大型荷電粒子砲をっ!」
「だめだ! ここは耐えるんだ! 仲間を信じろ!」
「でもこのままじゃ僚機も私たちも死んでしまう!」
「……!」
「ゴットリープ!!!」
レナの悲痛な叫びの刹那、ユーゲントに大型怪物が襲い掛かる。
ザシュッ――
「悪いことはそこまでだよ!」
「そういうことだ」
大型怪物の両サイドから武器を突き立てるのは辻永 理知(つじなが・りち)と北月 智緒(きげつ・ちお)が操るヒポグリフと辻永 翔(つじなが・しょう)のイーグリット。
シンメトリーという言葉を彷彿とさせる、見事なまでの攻撃に怪物が雄たけびを上げる。
「理知! 俺が時間を稼ぐ!」
「わかったよ!」
理知が新式ビームサーベルを引き抜き後退。
大型怪物相手に、翔は卓越した操縦技術で相手を翻弄しつつ攻撃を続ける。
暴れに暴れる怪物。と、ここで翔が体制を崩し相手の攻撃をモロに喰らう。
どうにかビームサーベルで受け止めたものの、そのまま後ろへ吹き飛ばされる。
「くらいなさいっ!」
理知は大形ビームキャノンの照準を、先ほど攻撃した怪物の傷に合わせ発射する。
矢継ぎ早の攻撃を前に怪物の身体は焼け焦がれ、墜落する。
一方吹き飛ばされ翔も敵陣でビームサーベルを振るい、一騎当千の強さを発揮していた。
だが数の暴力がそれを阻まんとする。
「あそこで戦っているわ! 出力全開、いっくよー!」
智緒の索敵情報に理知は頷くこともなく、ブーストを吹かす。
「翔くんに近づくなー!」
覚醒した理知が切り込み、瞬く間に敵を蹴散らしていく。
「負けてられないな!」
呼応するかのように翔も覚醒、二機のイコンはまるで手と手を取り合って踊る様に動き、
敵に反撃すらさせずに次々と敵を打ち倒していく。
「……! 翔くんっ!」
「ああ、わかった」
二人はいきなり旋回し、後退。それを追いかけるように多数の敵が動く。
まるで生徒を引率する先生のような光景だ。
しかし、それは誘導だった。
「それじゃ!」
「あとは頼んだ!」
二機が左右に離脱する。
そして敵が見たのは、艦載用大型荷電粒子砲をチャージ終えていたユーゲントの姿。
「準備いいわよ!」
「荷電粒子砲、撃てぇー!」
ほとばしるエネルギーの塊が、多数の敵を一気に消滅させる。
分厚い光の柱がなくなるとあれだけいた敵の姿もきれいさっぱりなくなっていた。
「お二人とも、ありがとうございました!」
ゴットリープの礼に、辻永夫妻はそんなことはないと返した。
「まだまだ敵はいるからね!」
「その通りだな」
二人の言う通り、既に敵の第二陣が来ていた。
「この数は、少々辛いか」
「……
“辛いことを乗り越えると今まで見えなかったものが見えてくるよ。
怖かったら傍にいてあげるから安心してね!”」
理知の言葉に翔は驚きつつも、優しく返事をした。
「“ああ、共に生きよう。今も、この先も、何があっても”」
(……一応私もいますが、黙っておきましょう)
二人の愛を前に智緒は苦笑いしながら、その愛を祝福していた。