空京

校長室

浪の下の宝剣

リアクション公開中!

浪の下の宝剣

リアクション


●海京に迫るイコン部隊を迎撃する:prologue

 大空から見下ろせば晴れ渡る海、どこまでも蒼。
 静かな水面はかすかに揺れども、立てる音は絹が擦れるに似て、ときおり混じる海鳥の声を除けば、まるで無声映画の一場面だった。永遠に時間が止まった場所、そのような錯覚を抱く者があったとしてもおかしくはなかろう。
 だが錯覚は錯覚に過ぎず、永遠もまた幻想でしかない。
 蒼く静かな海原が、予告もなく白い波濤に切り裂かれた。コンマ五秒も経つ頃には、もうあの穏やかな海の面影はない。荒れ狂う高波と水飛沫が嵐のように、散々に渦を巻いていた。巨大人型兵器――サロゲート・エイコーン(イコン)の集団が、波を蹴立て群狼のように、死と破壊を撒き散らすべく邁進しているのだ。人間で言えば頭にあたる部分は、いずれも一様に海の都、海京の方角を向いていた。
 何機あるのか、少なくはない大編隊だ。一般的にはテロ組織として知られる塵殺寺院だが、その規模と兵力は既に、軍隊と呼べる域に達しているのだ。
 先陣切る無骨なシルエットは、機体名シュメッターリングの姿だろう。徹底して無駄を排除した姿にはある種の機能美があるとはいえ、大抵の者はそこに、硬質の冷たさしか感じまい。
 シュメッターリングの緑影に入り交じり、上級機シュバルツ・フリーゲも点在している。黒基調の装甲には、量産型にはない曲線的なパーツが組み込まれているものの、これは決して柔和さや優雅な印象を与えるものではなく、円月刀(シミター)の刀身のような、空恐ろしい威圧感ばかりを醸し出していた。
 いずれも、水中戦用にカスタマイズされた特殊なマシンだ。背嚢(バックパック)に搭載された推力源で乱暴に、我が物顔で海を押しのけ掻き分けて進む。当然、耳を聾するほどの音が上がっているものの、彼らは隠密という言葉を知らないようだった。
 浪の合間より一瞬、薄紅い機影が姿を見せた。これも塵殺寺院のイコンなのだろう。大きさ、機動性、いずれから考えてもそれは明らかだ。速度に限っていうのなら、これは他の二機種を大きく上回っていた。しかしそれでも、この薄紅い影をイコンと呼ぶのは躊躇させるものがあった。
 なぜならその機体は、あまりに水中生物――エイに似た姿だったからだ。