空京

校長室

浪の下の宝剣

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●海京に迫るイコン部隊を迎撃する:page02

 ビームは最初、光だけの存在で、近づくにつれ熱と音を引き連れてきた。海面すれすれを走るその攻撃が、モーゼの物語のごとく海を割り、噴き上がる水分をまたたく間に蒸発させる。
 ビーム砲はアルマイン・マギウスの真横を掠めた。『ツァラトゥストラ』と名づけたこの機を駆るのは師王 アスカ(しおう・あすか)、彼女は迎撃部隊最前線に到達していた。
「敵影……!」
 言うが早いか彼女のマシンに、敵の第二射が着弾した。しかしイコンは多少揺れたものの無傷だ。
「さすがツァラトゥストラ、なんともないぜ!」
 思わず叫ぶアスカである。
「何の真似だ、それは」
 アスカの恋人蒼灯 鴉(そうひ・からす)が言うも、
「気にしない気にしない。お約束お約束っ♪」
 アスカは軽くいなして、今回チームを組んだ二機に呼びかける。
「作戦通りいくわ。みんなで敵さんをバンバン撃沈させてあげよ〜!」
「さすがジョバンニ、なんともないぜ……」
 気恥ずかしげに応じるのはセルマ・アリス(せるま・ありす)だ。セルマも自機『ジョバンニ』の肩に軽く被弾したのだった。セルマはぼそりと呟いたつもりなのだが、妙に感度のいいマイクはこの発言を上手に拾い、明白にアスカのコクピットに届けてくれた。
「ルーマ、攻撃受けちゃったけど今何か言った?」
 幸か不幸か同じ機体内のミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)に、セルマの発言は伝わらなかったようだ。キョトンとするパートナーに、
「いや、何でもないです。聞かなかったことにして……」
 と言葉少なに述べてセルマは、ここで一気に戦闘モードに切り替わる。
「海京には近寄らせない!」
 体重を乗せるようにして操縦桿を前に倒した。地上とは異なる圧がかかる。
「海中ではビーム兵器の威力は格段に落ちるよ! さっきのを見れば一目瞭然、ルーマ、砲撃は気にせず距離を詰めよう!」
 ミリィは計器に目を走らせながら応じた。
「援護は任せてくれ。ターゲットの足回りは封じてみせる」
 アスカとセルマの機体を追い、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が愛機『ヴィゾーヴニル』を水中に躍らせた。
「イコンの水中戦は初だ。ここで俺も景気づけに『なんともないぜ!』を……」
「ちょっと、それって『被弾する』って意味!?」
 レーダーの微調整の手を休めぬまま、正悟と同乗のエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)が声を怒らせた。
「……複雑な言い方をするとそうなる」
「どこが複雑なのよっ!!」いまここにハリセンがあったら、きっとエミリアはそれをふるっていただろう。「イコン乗るんだったらちゃんと操縦してよね!」
「俺の場合、ネタまで含めてきちんとこなすことが『ちゃんと』なのだよ」
「もう、いい加減に……」
 エミリアの言葉はここで途切れた。決してわざとやったわけではないが、正悟はシュメッターリングの砲撃を回避しきれず、これを機体脚部に受けた。ダメージは少ないものの、二人の乗る機体はぐらりと震動する。こうなったら言うほかない。よく濡らした雑巾のごとく魂をギュウギュウに絞り正悟はシャウトした。
「流石はヴィゾーヴニルだ、なんともないぜ!」
「なんともないことないじゃない! むしろ危ないわよ!!」
 かみつかんばかりにエミリアが叫ぶが、はっはっはと笑って正悟はこれを受け流し、
「ならお返しと行こうじゃないか。狙撃モニター照準合わせ、任せる」
「任せ……って、全操作こっちに回す気? 正悟の側から照準合わせできなくなるわよ」
「構わない」正悟は一度だけエミリアに笑みを向けると、正面を凝視して操縦桿のトリガーに指を乗せた。「エミリアを信じてる。俺は移動と攻撃に専念する」
「む、無茶振りはやめてよね!」いきなりそんなことを言われたものだから、エミリアは戸惑いながらも頬を染めていた。「もうっ、全部私任せだなんて、どうなるか分からないから! セルマ機、アスカ機、そのまま前進して下さい。援護します」
「如月君も張り切ってるじゃない。じゃ、遠慮無なく!」
 アスカは機体のブースターを限界まで吹かし、敵機シュメッターリングの眼前に飛び込んだ。
「水中では敵が有利だが、攻撃を回避しすぐに動く場合にはタイムラグが発生する」
 鴉がアスカにアドバイスを送る。了解、とアスカは切り返し、鴉がフェイント攻撃を行うと同時に機体を半回転、水中に小さくも強烈な渦を生み出した。これに足を取られた敵目がけ、
「悪いが……俺達の練習相手になってもらうぞ!」
 鴉がカノンを放った。これが敵のライフルを叩き落とし、続けて、
「殺す必要はない。けれど無力化はさせてもらうよ!」
 というミリィの声を受けながら、同じ相手目がけセルマがサーベルを薙いだ。
「これだけ近づけば……!」
 ビーム粒子が四散した。水中のことゆえ光の粒はたちまち溶けて消えるも、ジョバンニの一刀は相手のマニピュレーター――人間で言えば手にあたる――を斬り落としていた。それも右側だけではなく、返す刀で左椀も切断している。
「よし、この調子で行こう!」
 正悟は声を上げ、さらなる攻撃で味方を鼓舞した。