空京

校長室

浪の下の宝剣

リアクション公開中!

浪の下の宝剣

リアクション


●海京に迫るイコン部隊を迎撃する:page07

 大吾からの情報は、すぐに天司御空によって全軍に伝えられた。
「正体不明機接近中、突出し過ぎない様戦線を維持し危急の事態に備えて下さい」
 湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)も索敵を怠らない。正体不明機を含む増援が押し寄せているのは、まさに彼のいる方向なのだ。間もなく、凄まじい速度で航行する紅いイコン(?)を彼は見た。
「あれか……!?」
 搭乗機アンズーの性能があるから、なんとか亮一は正体不明機(この頃にはライゼ・エンブによって、『レッド・スティングレイ(アカエイのこと)』という不確定名がつけられていた)に照準を合わせることができたのだ。
「亮一さん、魚雷が使えます!」
 という高嶋 梓(たかしま・あずさ)に頷く間も惜しみトリガーを引く。魚雷が生き物のように、『レッド・スティングレイ』を狙って飛びかかる。
 魚雷は正体不明機の航行軌道を読み、これ以上ないほど的確な位置に飛んだ。アンズーの面目躍如といったところだろう。
「……! なんだ!」
 続く反応は亮一の想像を遙かに超えていた。命中の瞬間、『レッド・スティングレイ』はまるでゴムでできているかのように異様な形に湾曲し、魚雷を回避して進み続けたのだ。目の錯覚だろうか。あれがイコンの成せるわざなのか。
 亮一が答を出すより先に、不明機は反撃を行い、彼のマシンの行動を封じた上で射程外に去ってしまった。
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)も同様の目を見ることになった。
「面倒事は嫌いなんでな……ここで止めさせてもらう」
 大型ブースターを使って急迫、敵の攻撃を予測し真司は二度ほど砲撃を回避したが、
「一筋縄ではいかないようです……!」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は悔しげに声を洩らすのみだった。赤エイのような不明機は、ゼリーのように身を震わせて変形し、予想が追いつかないような角度から攻撃してきたのである。
「もー、なんなんだよあれ、本当に」
 真司と共同戦線を組み、平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)もイコンを駆って不明機に迫った。
「イコン新世代機といったところかのう、わざわざ我らの縄張りでお披露目してくれるのなら、存分にその調査をさせてもらおうではないか」
 イスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)が姿を撮影しようと試みるも、不明機の速度はそれを許してはくれなかった。真司とレオのイコンは、『レッド・スティングレイ』からの射撃を受けて、それぞれ戦闘不能級のダメージを負った。
「なんて速さ……!」
 叶 白竜(よう・ぱいろん)も不明機の速度に息を呑んだ。しかし白竜は積極攻勢をとらなかった。彼は今の自分の役割を忘れない。
(「水中戦に慣れたパイロットは限られている」)
 この事実は否定できない。不明機のフィールドたる海中で、徒手空拳の戦を挑みたくはなかった。
「水中戦が得意の奴と水中で戦いたくはないよねえ」
 白竜に代わってメインパイロットを務めつつ世 羅儀(せい・らぎ)が言った。この状況で何が必要かについては、今さら孫子の言葉を引用するまでもない。水中用に調整したイコン『仙霞』で、白竜はまず敵を追うより、周囲の地形と現時点の潮流を調べた。
「あの不明機、海流や地形はほとんど無視して航行してるよね」
 なら勝ち目はあると羅儀は請け負った。彼は白竜の意を読み取り、地形と潮流を利用したベストのルートに機首を向ける。するとどうだろう、一時絶望的なまでに開いた『レッド・スティングレイ』との距離が、ぐんぐん縮まっていくではないか。しかも当の不明機は、『仙霞』の接近に気づいていないのだ。
(「これだけ近づいてもこちらを察知しない……」)
 明らかに射程内だ。ロックオンし引き金を引けば、最低でも一撃は与えられよう。
 だからといって白竜は、敵機に奇襲をかけたりはしなかった。なるだけ近づいた状態で動画撮影を終えると、正体不明機が感づくより先に離脱した。ここで退くのも勇気である。実際、(「今なら敵の不意を突ける……」)という心の声を振り払うのには苦労した。
「データさえ記録できれば今後に利用できるだろう」
 囲碁と同じだ。目先の利益にとらわれ大局を見誤れば、それはすなわち敗北となる。
「このまま棺桶入りしたくないからねー」
 羅儀は笑った。戦闘を仕掛け返り討ちに遭えば、せっかくのデータを無為にすることになる。
 イコン『仙霞』は海流に乗って味方機に接触すると、入手した情報の伝達と拡散を急いだ。