空京

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浪の下の宝剣

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●海京に迫るイコン部隊を迎撃する:page09

 不定形、高性能、水中戦特化という強力な要素を持つイコン、不確定名『レッド・スティングレイ』とて、隙間なく包囲され集中攻撃を受けては立つ瀬がなかった。入れ替わり立ち替わり、それでいて徐々に数を増し、海京を守るイコンが立ちふさがる。
 しかしなんといっても今は、ロケットの如く爆発的な推力を見せるこのイコンに注目したい。
 矢のように真っ直ぐに、疾風迅雷迫り来る一機の鋼鉄騎士があった。盛大にブースターをふかし超特急、水中戦用でもちょっと出せない速度で怒濤の勢い、機体の名は『アイビス』、水中戦を想定して設計されたイコンではないにもかかわらず、そのパイロット時禰 凜(ときね・りん)は、常人ではまず考えつかないほどの改造を本機に施していた。燃費最悪、起動時間が極小になってしまう激アツ・ドーピングパーツ『パワーブースター』を着用、手にはまたエネルギーの食いっぷり最高の『イコン用まじかるステッキ』まで握らせて、一撃離脱というか一撃必殺というかたぶん一撃しか繰り出せないという博打仕様に本機を設定していたのである。
「長時間の活動が出来ないなら、短期決戦仕様にしましょう。使ってみたかったんですよ、これ♪」
「まあ、理に適ってはいるけどな……しかし」
 このG、なんとかならんのかという言葉を、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)が口にすることはできなかった。自身の体重の何倍もある圧力がのしかかり、息をするのすら苦しいのだ。重い。猛烈に重い。次に息を吸ったら肺がぺしゃんこになる気がして智宏は呼吸すら恐れた。凜はどういう仕組みで普通に話しているのだろう。
「見えた……!」
 舌を噛みそうになったがなんとか、智宏は口を開くことができた。
 ――この言葉だけは言っておきたい!
「凜、俺の代わりに決め台詞!」
 智宏は操縦桿を押し込み、その操作でイコンは、まじかるステッキを振りかざす。
 そして、
「魔法の力よ、撃ち貫けー!!」
 すかさず凜が応じた。次の瞬間、一発撃ち切りの魔法の煌めきが、深海を真昼のように明るくした。魔力の塊が星の形をとって、エイ型イコンを撃ち抜いたのだった。
 エイ型だったイコンはたちまち、槍のようにシャープで鋭い形状に変化する。不定形イコンは海から飛び出した。しかし、
「逃がさない!」
 その行動、リーゼロッテ・フォン・ファウスト(りーぜろって・ふぉんふぁうすと)は完全に読んでいた。彼女とフィア・シュヴェスター(ふぃあ・しゅう゛ぇすたー)の操作するイコンは、敵を上空から狙うべく海面スレスレの空を滑空していたのである。空中での高速・高機動戦が元来得意なリーゼロッテとフィアだ。不定形イコンがビームで牽制しようとするも、操縦桿を大きく左後方に退いて、リーゼロッテは易々と自機にこれを回避させた。
「敵機接近……そんな攻撃……当たらない」ごく当然のようにフィアは言う。同時に、
「水中戦は得意らしいけど、空は私の領域」リーゼロッテはぐいと前髪をかきあげ宣誓するように言ったのである。「このブリュンヒルデをなめてもらっては困る」
 イコン『ブリュンヒルデ』は、気が遠くなる程刃の長い大鎌を、渾身の力で振り回した。刃はレーザー、緋色の残像を生みながら唸りを上げた。手応えはあった。不定形イコンは瞬時人間型をとって避けようとしたが、鎌はその一部を確実に切り裂いていた。
「逃げる……あの……敵……」
 フィアが追わんとするも敵機はボール状に姿を変えて跳ねて、二人の射程距離外に逃れた。攻撃を受けたことによる運動エネルギーを殺さず、逃走に利用したというのか。
 不定形イコンが逃れたのは海京の方角だ。しかしかなりの手傷は与えられたとリーゼロッテは思った。
 あれなら、海京に到達しようともさしたる攻撃はできまい。