空京

校長室

浪の下の宝剣

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浪の下の宝剣

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●海京に迫るイコン部隊を迎撃する:page05

 性能で負けていようと団結力では一歩も引かない。卓越したコンビネーションを見せているのが、ジェシカ・アンヴィル(じぇしか・あんう゛ぃる)前原 拓海(まえばら・たくみ)新月 亜美(にいつき・あみ)の乗る三機、名乗るチーム名は『蒼い三連星』、海中ゆえジェットとはいかないが、熱い絆でストリームする。
「皆、水中用カスタムが成されているとはいえ、元より水中型の敵機に比べれば我らの不利は否めまい」ジェシカは盟友二人に告げた。「いみじくも水無月睡蓮さんが言われたように無理は禁物、限界を感じたらその前に離脱し地上へ戻ろう」
「無論だ。……さあ、三機編隊が来たようだ」
 いち早く拓海が前に出て、迫り来るシュメッターリング三機に向かう。
「ふふ、拓海様も亜美様も、ジェシカ様も張り切ってらっしゃいますわね〜。ふぁいと、おー☆ですわ」
 拓海と同じコクピット、フィオナ・ストークス(ふぃおな・すとーくす)は身を起こし、様子見がてらグレネードを投下した。これを追うのが亜美だ。
「天御柱学院のお膝元こと海京に迫ってくるとは、いい度胸だよっ!」
 天誅、と一声叫んで、グレネードに動きを止めた敵機に斬り込んだ。
「あ〜あ。熱くなっちゃって、まぁ……」
 そんな亜美に思わず、同乗の庭坂 信司(にわさか・しんじ)は苦笑してしまう。しかし亜美と意識が逆なのではない。信司だって彼女と同じ方向を向いている。
「でも、君が赤い炎なら、僕は青い炎ってとこだね」
 亜美にちらと笑みかけて、撃ち尽くす勢いでアサルトライフルを連射した。
 鏖殺寺院め、とステイア・ファーラミア(すていあ・ふぁーらみあ)は、ジェシカの副座で呻いていた。「くだらぬ戦いばかり……エリュシオンと変わらないな、やつらは。力の求道にはどうしても、他の排除が必要だというのか」
 ステイアにはトップスプリンターの瞬発力並の戦術眼がある。このときも手早く敵の行動を予測し、指示を回した。
「ジェシカはアサルトライフルで狙撃、敵の先頭を挫け。亜美は左翼の一機を牽制せよ。残る一機、拓海に任す」
「了解だ」
 ジェシカの放った弾丸が、先頭の敵の頭部を撃ち抜いた。
 このとき湧き起こった大きな気泡に包まれ、左翼の敵機は速度が落ち、これを、
「ちょろちょろと鬱陶しいんだよッ! 天誅ッ!」
 亜美が切りつけて足止めした。そして、足並み乱れた左翼機の陰を利用し、死角から拓海機が吶喊をかけたのだ。
「この一撃で……決めるッッ!!」
 片手に握ったソードが、水平に走る精確な斬撃を決めた。
 一瞬、拓海に斬られた敵は何が起こったか理解できなかっただろう。
 この間わずか数秒、数秒で、自分の前にいた僚機は顔面を撃ち抜かれ、隣の僚機は足止めされ、そして自機は……胴を真っ二つにされていたなどと、どうして理解できよう。
 爆発が起こった。三位一体蒼い三連星、ジェシカ、拓海、亜美、この三機と正面から戦って、無事で済む鏖殺寺院機はおるまい。

 海底は平坦な場所ではない。ところどころ隆起し陥没し、そして希に、クレバスを暗い口のように、ぽっかり開けて来る者を待ち受けている。
 そんな海溝に身を潜ませつつ、シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)はデータ収集に余念がない。敵は水中カスタムという利点を過信しているのか、マシン同士の連携力に欠けるようだ。彼女はそのことをあきらかにしつつあった。
 無論、シフはデータ分析をするためだけに来たのではない。ひとたび敵の姿を目にするや、
「ミネシア、今回は限られた時間内で如何に効率的に戦闘が出来るか試す良い機会です。手加減も、様子見も、無用。最初から全力でいきますよ……!」
 戦闘モードに頭を切り換える。どっとアドレナリンが吹きだし、髪の毛が逆立つような興奮を覚える。肌が粟立っているのは恐怖ではなく興奮の現れだ。
「おーけー! 最初ッからクライマックスってヤツだね!」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が元気に答えた。時間が長引けば長引くほどこちらに不利、深緑色のシュメッターリングの姿が見えるや、彼女はありったけの弾を撃ち込んだ。これと機を一にして、同じ海溝から天貴 彩羽(あまむち・あやは)機も奔る。
「新型のガネットに乗れなかったのは残念だけど……」
 なんとかガネットを入手しようとした彩羽だが叶わなかった。しかしその分、水中用カスタムには多めのパーツを回してもらうことができたのは幸運だったといえよう。ガネットほどではなくとも、彼女のイコン『イロドリC』は目覚ましい動きを見せていた。彩羽と同じコクピットにあって天貴 彩華(あまむち・あやか)はけらけらと笑う。
「あーあ、ガネットをスイスイ泳がせたかったですぅ〜。でもでも、いまでもスイスイなんですぅ〜っ!」
 細く目立たぬ海溝に潜んでの迎撃ゆえ、防御側圧倒有利なのである。実際、この地点にさしかかった敵は不幸だったといえよう。海溝で待ち構えるシフや彩羽らが強力だったのは言うまでもないが、さらにここには『魔物』が潜んでいたのだ。
「戦いを決するのは数と戦術だ」
 魔物と呼ぶにはクールすぎる外見だが、この青年ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、一種の魔物であるのは間違いない。有機コンピュータの異名を取るダリルは、海図を参照して短時間でこの戦略を編み出していた。
 しかも『魔物』は、『ローレライ』と同じイコンに乗り込んでいた。本来のローレライは歌声で船を沈めるが、このローレライは味方の士気を高める。彼女はルカルカ・ルー(るかるか・るー)、歌うようにして近場の味方と連絡を取り合い、この地点に敵を誘い込むよう依頼していたのだ。
「侵略には戦います。事情はどうあれです!」
 侵略者には決して屈しない、容赦もしない。それがルカルカの信念だ。
「今なら当る、まだ動けるわ」
 ルカルカの唇から洩れる鼓舞の歌はたしかに、鏖殺寺院のイコンにとっては魔性のものであったろう。
「撃墜王の称号はワタシたちで貰ってくぐらいの勢いで、ドンドン敵さん落してこーっ!」
 ひょっとしたらこの、ミネシアの元気な宣言すら、敵には魔性の歌に聞こえたかもしれない。