空京

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浪の下の宝剣

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●海京に迫るイコン部隊を迎撃する:page04

 鏖殺寺院のイコンはすべて水中戦カスタム機、対するこちらは最低限の改造だけで挑む格好となっている。当然、戦いにおいては藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)のように、なかなか本来の動きができない者が少なくない。
「いつもこちらが受け身と言うか、いろんな手で攻撃をしかけて来るなあ……」
 ここまで被害最小限で抑えてきたものの、裄人は水に慣れるのに四苦八苦していた。水中戦の訓練はほとんど経験がなく、このような状況下での戦闘など夢想だにしなかった。
「今度はどっちに移動すればいいの!? はきはき指示出してくれよお坊ちゃん!!」
 主座のゼドリ・ヴィランダル(ぜどり・ゔぃらんだる)が裄人に叫ぶ。ゼドリがメインパイロットなのだ。彼の『お坊ちゃん』という呼び方には多少の皮肉が感じられた。
「さっきガネットと教導団の混成部隊が前方に向かった。あの方面はとりあえず抑えられるはずだ」
 そのとき天司御空から通信が入った。
「海京北部Bブロック、一部新兵のバイタルに緊張の色が見られるようです。興奮状態に陥ると突出する危険性もあるかと思われます。フォローに回ってくれる味方機はありませんか」
 これを受け裄人が「ベテランのつもりはないが、まったくの新米でもないつもりだ」と言うや、
「判ってるって」
 ゼドリは冷笑気味に告げて、イコンをそのブロックに向けた。ゼドリの口調には、裄人を評価するようなところはまるでない。しかし彼も内心では(「裄人も過剰でない程度に自信が持てるようにはなったか。結構結構」)と笑みを洩らしているのだった。
 同じ報を受け、
「方向転換します」
 受けた機体損傷の手当もそこそこに、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)はクェイルを急旋回させた。水が渦巻き、引っ張られるようなかたちでGがかかる。コクピット壁に肩を押しつけながらエリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が声を上げた。
「もー海京で遊ぼうと思ったのにー。なんでこんな目にっ」
「あ、あの……ごめんなさい。方向転換、急すぎましたか……」
 レジーヌが申し訳なさそうに言ったが、エリーズは「ちがうちがうっ」とやや早口で答える。レジーヌを困らせる意図はエリーズにはない。
「ううん、私が怒ってるのは鏖殺寺院だからっ。せっかく海京で遊ぶつもりが、寺院のせいで邪魔されて気に入らないだけ」
 だから、とエリーズは優しく、本当は自分のほうが年下だが、レジーヌの姉になったような気持ちで言うのだった。
「鏖殺寺院なんて早くやっつけちゃって海京で遊ぼうよ、レジーヌ」
「……はい」
 二人を乗せたイコンは瞬間、イルカのように身を躍らせ加速した。
 レジーヌが駆けつけたその場所では、彼女にとって後輩となる永久 道(ながひさ・とおる)が難渋していた。
「そんな無茶をするな。俺たちの操縦技術じゃ……」
 道は声を上げていた。彼の乗るクェイルは、ワルツでも踊るように足を滑らせている。ダンスホールなら様になる動きだがここは戦場だ。危なっかしい。それというのも、
「道がなかなか前に出ないからです! 後方支援ばかりでは強くなれません。前に出ます」
 彼のパートナー福崎 あこ(ふくさき・あこ)が、操縦権を奪って全力前進をしようとしていたためだ。止めようとする道の操作とあいまって、彼らのクェイルは優雅なダンスじみた動きを演じるはめになっていたのだ。
「待ってくれ、この機体はライフル装備なんだ。接近戦向きじゃない。支援機もなしにそんな無謀を……」
「支援なら、私たちが」
 レジーヌが駆けつけ、マニピュレーターを伸ばして道のクェイルを支えた。
「ありがとう! あなたは……?」
「同じ教導団のレジーヌ・ベルナディスと言います」
「俺は永久道……よろしくな、先輩」
 二人の会話にエリーズが割り込んだ。「ちょっとあんたたち、自己紹介しあってる場合じゃないでしょ! ほら、敵が来てるわよ、敵機!」
 あこも叫ぶ。「はい。シュヴァルツ・フリーゲ型です。道! 構えて下さい!」
 レジーヌと道、二機のクェイルはライフルを構えた。暗い装甲を有するシュヴァルツ・フリーゲは、メインカメラを鈍く輝かせながら迫り来る。こちらが水中用でないことをみくびっているのか、敵機はからかうようなジグザグ泳法を見せ、その合間に射撃を仕掛けてきた。
「ほら、道、歓迎会に行くにはあれを倒さなきゃいけませんよ!」
 というあこに負けじと、
「せっかくの歓迎会なのに……絶対無傷で遊びに行くぞ」
 闘志を剥き出しにし道は、最初の一撃を放った。ライフルは命中しなかった。しなかったが、その閃光は味方への合図となり、さらに二機の味方機を呼び寄せていた。
「敵である以上、倒すのは道理!」
 決して速度は出ていないものの、着実な操作でやってくるクェイルは、円谷 舞(つぶらや・まい)比良瑠儀 燐音(ひらるぎ・りんね)の乗る機体、そして、
「水中では武器の射程距離が短くなると思うから、なるべく近づいて攻撃しなきゃね」
 しかと海底に立ち、大型キャノンでターゲッティングを行うもう一台の味方機はグリフォン、これを駆るパイロットは桐生 理知(きりゅう・りち)であった。
「キャノンの反動は大きいと思うから、しっかり足を踏ん張らないとね。機体制御は任せてなのっ!」
 理知のパートナー、北月 智緒(きげつ・ちお)が元気に告げた。
 レジーヌ、道、舞、彼ら三機の教導団機に加え、理知の天御柱学院イコン、この四機による即席編成のチームとなったが、指揮官として一日の長のあるレジーヌが指示を飛ばし、道と理知が牽制、加えて舞が撹乱を狙うという役割分担を行うことによって、機動性で上回る敵機を追い詰めていった。
 ついに、
「このキャノン、ここまであえて見せずに来たけど連射もできるって知ってた!?」
 理知が撃つ。激しく撃つ。敵の右側を攻撃した上、敵が左に避けると見越してキャノンを連続で流していく。ついに一弾が敵機を捉え、そこに舞、道とレジーヌが集中砲火を浴びせてついにこれを討ち取ったのだった。
「あの……長時間行動は難しいので、一旦後退しませんか」
 レジーヌが告げると、
「それがしも従おう」
 血の昂ぶりを押さえかねるように、息も荒く舞が答えた。道、理知も応じ、かくて四機は指揮官機撃墜という戦果をもって、意気揚々と引き上げるのだった。