空京

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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 空中での激しい戦闘の最中、もちろん地上でも契約者と魔族たちの熾烈な戦いが繰り広げられていた。

「イナテミス、まだかなー?」
「まだだよー」
「まだなんだー」

 高速で駆けるナベリウス軍、それに混じって突き進む四魔将が一柱、魔神ナベリウス。実は三名の獣の風貌をした幼女、ナナモモサクラで『ナベリウス』を名乗っていることは、ザナドゥでは有名でも地上人は――悪魔や魔鎧から聞いていた場合を除き――まだ知らない。

「あそべるかなー」
「あそべるよー」
「あそぼっかー」

 戦争を『遊び』と表現する彼女たちが、ヒュン、と森の中を通り過ぎていく。
(……よし、ナベリウスの正体を掴んだぞ。早速この情報をエミリエルに……)
 ナベリウスの動向を探るべく物陰に潜んだ鈴鳴 傑(すずなり・すぐる)が、自分が見聞きした情報をパートナーのエミリエル・ファランクス(えみりえる・ふぁらんくす)に伝える。彼女は今、後方で負傷者の手当てと連絡要員として行動しているはずであった。
『……以上だ。エミリエル、この情報を頼む』
『分かりましたわ。あの……あまり無茶をしないで欲しい、ですわ』
『大丈夫さ。魔族と正面から戦っても正直、勝てはしない。無理はしないさ』
 エミリエルとの会話を終え、傑が魔族に気付かれないうちに、場所を移動する。


(ニーズヘッグは無事帰還したか。どうなるかと思ったが……)
 巨体がクリフォトへ向かい、イルミンスールに反転する様は、森に潜んでいた瓜生 コウ(うりゅう・こう)の目にも見て取れた。生徒たちを守るため必要な行動ではあっただろうが、もしものことを考えるとギリギリの選択ではなかったか、そんな事を思っていると、HCを通じ、前方の敵軍を率いているのが三名の幼女、ナベリウスであるという情報がもたらされる。
(確かナベリウスは獣相を持つ魔神……なんだ、この幼女は!?)
 これもパラミタ故か、そう思い至ることにして平穏を保ったコウは、ナベリウスの位置が大将にあるまじき近さであることにも気付く。
(軍として統制が取れていないのか……やりようによっては、短時間で勝負を決することが出来るな)
 森に潜み、不意を打って目立つ大物、あわよくば大将を仕留めてしまえば、脅威を取り除くことが出来る。
「マリザ、以上の通りだ。ナベリウスの進軍路次第では、もうじき接触する」
「分かりました。……コウ、お気をつけて」
 マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)に頷いて、コウが気配を消し、森を進む。
(私も、出来る限りのことをいたしませんと)
 コウの背中を見送り、マリザは騎士の一人として、正面からナベリウス軍と相対するべく準備に取り掛かる。

 やがて、ナベリウス軍の先鋒と、布陣していた契約者の集団がぶつかり合う。


 『聖なる森 知識の泉
 イルミンスールは我等の母校ぞ
 平穏なる理性の大地を
 踏み荒らす愚者に
 魔法の英知で 裁きを与えん
 知勇の軍勢よ 光の勝利 信じて進め!』


 アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)の勇壮な歌が、契約者に力を与える。
「おいたの過ぎる悪い子達は、革命的魔法少女レッドスター☆えりりんがお仕置きよ★」
 名乗りをあげた藤林 エリス(ふじばやし・えりす)の、撒かれた酸性の霧に突っ込んだ魔族の一人が、身体を溶かされ悲鳴をあげながら転がり回る。それを見て、後続の魔族たちが霧を避けるべく迂回しようとするが、それこそがエリスの狙いであった。
「今よ!」
「よしきた!」
 エリスの指示を受け、駿河 北斗(するが・ほくと)が仕掛けていた罠を発動させる。一つ二つは回避されても、五つ六つと発動する罠に魔族は足を取られ、手を取られ、隙を晒したところに契約者の集中砲火を喰らう。
「動きがヤベェったって、所詮は地面に足着くんだ。こういうのが地味に効くはずだろってな」
 作戦がひとまず成功して上機嫌な北斗とは反対に、クリムリッテ・フォン・ミストリカ(くりむりって・ふぉんみすとりか)はどこかしょぼんとしていた。
「あーあ、いっそ皆纏めて燃やしちゃえばいいのになー」
 『森→木々が一杯→燃える→燃やしたい』の単純理論で燃やすことを提案して即却下され、クリムリッテは消化不良状態であった。
「それは最後の手段だ、クリム。今はまだ――」
 こちらが優勢、そう言おうとした北斗の耳に、数名の生徒たちの悲鳴が届く。
「チッ、そう簡単には行かねぇってか? クリム、付いてこい!」
「ほいきたー」
 悲鳴の聞こえた方角へ、二人が進んでいく――。


 悲鳴が響く、少し前のこと。
「このままではイルミンスールが危ない、だけど、どうにか魔族と共存は出来るようにしたい……!」
 ザナドゥの魔族侵攻を知った神条 和麻(しんじょう・かずま)が、胸に抱く思いを口に、装着したエリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)をなびかせて森の中を進む。一足先にナベリウスに接触し、どうにかして彼女たちの気を引き、魔族と仲良くなるきっかけを作るためであった。
(ザナドゥですかぁ。よく覚えてませんけど、気になりますねぇ。とりあえず、何があってもカズ兄は守るのですよ〜)
 そんな思いを抱きながら、エリスが和麻と共に行く。

「ふーん、ザナドゥから何かいろいろ来たんだって? ……へー、こんなちっさいのまでいるんだ。
 ちょっと気になるな、でもボクの力じゃ手か足のどっちかが出れば儲けモン、かな」
「似た者同士、だよね。だからなんとなーく戦法は解るような気がするけど、それでも三体二で負けてるし……
 そもそもフラット弱いし……」
 うーん、とミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)が同じ格好で考える。
「うーん、やっぱり気になるなー。負けるつもりはないから、ちょっといちゃついてみる感じでどうかな」
「どうかな? そうしてみようか」
 ひとしきり考えて、とりあえずナベリウスに接触を持ってみようということに決まって、二人は森を進む。

「ナベリウスって子達の一人が、サクラ、って聞いたよ! 私と名前が被ってるなんていい度胸だよ!」
 そんな理由で闘志を燃やすサクラ・フォーレンガルド(さくら・ふぉーれんがるど)を見、夜月 鴉(やづき・からす)は大変なことになったな、と頭を掻く。
「まあ、頑張るしかねぇか。……何かサクラが違う方向に張り切ってる気がするんだが……」
 ヘマをしないように見ていようと思いながら、鴉は意気込むサクラに付いて行く。


 そして、悲鳴が聞こえた地点では。
「あれー? もううごかなくなっちゃったよー? もっとあそんでくれるんじゃなかったのー?」
「こっちもだー」
「こっちもだー。あーあ、あのふくおきにいりだったのになー」
「やだー、サクラすっぽんぽーん!」
「すっぽんぽーん!」
「なんかたのしそー。わーいすっぽんぽーん!」

 じゃれ合う三人の魔神、その周囲には六つの人影が壊れかけのおもちゃのようにふるふる、と身体を震わせながら倒れ伏すか木々にもたれかかるかしていた。
 まず最初にナベリウスと接触したのは、和麻とエリスだった。遊び相手になりたい、単刀直入に告げた和麻へ、ナベリウスは「わーいあそんでくれるのー?」と嬉々として“遊んだ”。
 次に接触したのはミリーとフラット、“遊び”の光景を目の当たりにして危険を感じ撤退を図ろうとするも追いつかれ、三人に“遊ばれた”。
 最後に接触した鴉とサクラも、ナベリウスの“遊び”に巻き込まれた。ただその際、サクラがサクラの仕掛けた罠に引っかかって、服を溶かされた。
「あ、アキ君、どうしよう? まさかこんな前線まで、悪魔の大将が来るなんて思わなかったよう」
「お、落ち着こう、エルノ。俺はシュウじゃなくてアキ……あぁあ、違う反対だ」
 ナベリウスの襲撃を目の当たりにし、命からがら逃げてきたエルノ・リンドホルム(えるの・りんどほるむ)が、スナイパーライフルで狙撃を行っていた高峯 秋(たかみね・しゅう)にしがみつく。落ち着こうと言っている秋も、惨劇を目にしてすっかり動転していた。
「し、新参者にはちょーっと、キツイんじゃないかなー? ナカノさん、いつものノリで「ゆる族ナメんなー!!」って行ってきたらどやろ?」
「ようし分かったちょっと行ってくるアル……ゴメン無理アル!」
「ほ、ほら、早くしないと、怪我してる人、治療してあげないと」
「そ、そうだけど、ルクセン、じゃあまずあの子たちなんとかしてよっ」
 運悪く該当する防衛ラインにいた、由乃 カノコ(ゆの・かのこ)ナカノ ヒト(なかの・ひと)ルクセン・レアム(るくせん・れあむ)リリアン・ネイル(りりあん・ねいる)も、見つからないように身を潜めるのでいっぱいいっぱいであった。
「はー、いっぱいあそんだし、じゃあイナテミスにいこっかー」
「いこっかー」
「いこ――」
 ナナとモモの言葉にサクラが続こうとしたところで、サクラの身体が物凄い勢いで後方に吹っ飛ばされる。


「命中を確認。ま、挨拶代わりには丁度よかろう」
「……いい感じに当たったけど、まさか、死んだりしないわよね?」
 Hexennachtを駆る茅野 茉莉(ちの・まつり)の言葉に、ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)がふん、と鼻を鳴らして答える。
「我と同じ名を冠する者が、あの程度でくたばるか。ほれ、行くぞ」
「はいはい、やっぱあんた、悪魔よね」
 ダミアンの態度と物言いに、茉莉が呆れた様子で機体を該当する地点へ向かわせる。


「サクラー、だいじょうぶー?」
「だいじょうぶー?」
 吹っ飛ばされたサクラを、ナナとモモが迎えに行く。そうなったことで結果として、負傷した者たち、逃げ遅れた者たちは互いに手を貸し合い、後方へ下がることが出来たのだった。
「いたたたた……うぅ、ひりひりするよー」
 むくり、と立ち上がったサクラが、獣な手をふるふるさせる。衝撃こそ受けたものの、両手の防御で貫通は免れたのであった。
『あんたがナベリウスね? ちょっと話があるんだけど』
 そこにイコンで降り立った茉莉の声が、ナベリウスに届く。
『悪魔は人間がいてこそじゃない。それなのにこんな堂々と表に出てきちゃってどうするのよ。
 そもそも悪魔と人間って、ギブアンドテイクが基本でしょ? 今やってることに意味あんの?』
「ほへ? ぎぶあんどていく……なにそれ?」
「もちつもたれつ、ってことじゃないかな〜」
「おぉ〜、モモすご〜い!」
「えへへ〜。……あれ、もちつもたれつ、ってなんだっけ〜」
「なんだろうね〜」
「……いっしょにあそぶこと?」
「それだ〜」
「それだよ〜」
 通常の3倍の会話を交わした上で、ナベリウスが出した結論は。
「じゃあいっしょにあそぼう〜」
 であった。三方向に跳んで別れたナベリウスが、茉莉の乗る機体に合流して攻撃を加える。
「このたわけが! 悪魔なら悪魔らしく――」
『なにそれわかんな〜い』
『わかんな〜い』
『わかんないからあそぶ〜』
 ダミアンの言葉も届かず、機体は見る間に装甲を剥がされていく。茉莉のとっさの判断で空に逃げ、大破こそ免れたものの、再び接近することは叶わない。機体の損傷具合もそうだが、彼女たちの下にはあの『敵に回したら絶望しかない』人物がやって来たからである。

「アルコリア、アレ見てアレ。ナベリウス、アレの皮欲しい! きゃははっ」
 ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)がナベリウスを指して、大層愉快に、いっそ不愉快に笑う。
「ああ……最近楽しい相手と戦い過ぎたようです。次は魔神ですか? 見つけましたよ、ふふふ……」
 そして、両手に剣を携えた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がゆらり、と剣を掲げ、振り下ろす。
「「「え?」」」
 そこだけ唯一三名の声が揃い、直後、三名の身体に無数の裂傷が刻まれる。ナナとモモの着ていた服も、ただの布切れになってしまった。
「きゃははは、ナナもモモもすっぽんぽーん!」
「ほんとだ〜、すっぽんぽーん!」
「すっぽんぽーん!」
 身体中から体液を吹き出しながらはしゃぐ三名へ、なおも二発、三発と破壊の力を持った攻撃が飛ぶ。

「魔神、ぶっ殺してやるっ! くきゃはははっ!!」
「くきゃはははっ☆」


 瞬く間に周囲が、ザナドゥでもそうそう見られない惨状へと変化していく――。