空京

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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●精霊指定都市イナテミス中心部

 人間と精霊が暮らす都市イナテミスは、世界樹イルミンスールの墜落、そしてザナドゥの魔族の襲撃という危機に直面していた。
 今のところ直接の被害は受けていないものの、これでザナドゥの魔族がウィール遺跡や世界樹イルミンスールを突破するようなことがあれば、イナテミスの中心部も戦火に巻き込まれかねない。
 最悪の事態を防ぐため、契約者たちが奔走する――。

「発着場……は、なんとか無事みたいだな。もう少し世界樹がこっち来てたら、潰されてもおかしくなかったな」
 自身が中心となって、イナテミスに建設した『小型飛空艇発着場』に辿り着いた日比谷 皐月(ひびや・さつき)マルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が、格納庫に収められていた小型飛空艇や、離発着用の滑走路、管制塔などの設備に異常がないのを確認して、まずは一息つく。
「早速、飛空艇を住民の避難用に提供しよう。緊急事態だ、多少の文句はあるかもしれんが、納得してもらう他にない」
 そして二人が、保管されていた大中小の飛空艇を、乗ってきたジャイアント七日サマーで運ばせる。イナテミス中心部に向かおうとしたところで、皐月が何かを思いついた表情で口にする。
「ここ、これからの為にも、拡張させられねーかな。イコンを発着させられるようになれば、『イコン発着場』として機能するだろ」
「……ふむ、それは確かに一理あるな。よし、俺が町長や精霊長に掛け合ってみよう。今すぐにとは行かないだろうが、今後各校のイコンが整備出来るようになることは、有用なはずだからな」
 世界樹イルミンスールもウィール遺跡も、イルミンスールのイコン『アルマイン』を整備するための設備は整っているが、他校のイコン――特に、機械部品で成り立っているイコン――については必ずしも万全とは言えない。元々飛空艇に関する設備を持ち、スペースの余地があるこの施設は、そういった可能性を秘めているのであった。
 ともかくまずは住民のためにと、二人は用意した飛空艇を使ってもらうため、イナテミス中心部へ飛ぶ――。


 イナテミス中心部では、避難者の誘導を行う者たちの中に、テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)ウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)の姿があった。
「皆さん、落ち着いて避難してください!」
 声をかけ、テスラが事前に知らされた避難場所へ住民を誘導していく。イナテミスが今の形態を取る前から数えると、既にこの街は四度、何らかの襲撃を受けている。その度に対策が施され、今では『イナテミス精霊塔』の防衛効果も加わって、確かに住民は怯えや恐怖の表情を浮かべているものの、取り乱すことなく秩序だった行動を守っていた。
「へっ、思ったより根性あるじゃねーか。……そうだ、へたり込んでたら、奴ら魔族の思うつぼだ。
 命が失われない限り、何度でも立ち上がれるんだ」
 テスラを手伝いながら、ウルスが住民の姿を見て、改めてそのことを実感するように呟く。
(……彼らを直接守れるほど、私は強くはない。けれども、私のこの小さな力であっても、この場にいるお互いが助け合うことで、一つの大きな力にもなれる。私は、それを知っている)
 だから、私は私の出来ることをやろう。
 テスラも思いを新たに、次の行動に移る――。


「いいえ、私はたとえエリュシオン帝国の皆様が戦う意思を示していたとしても、戦火に晒すことは避けるべきと思いますわ。
 最後まで帝国に忠誠を誓った皆様が、帝国に帰国されるその時まで安全をお守りするのが、私たちイナテミス市民の責務と私は考えます」
「私達だけで守り切れる保証はないわ。街が壊されてしまえば意味がないの。だったら、無理強いはさせなくとも戦おうとする人たちには戦ってもらうべきじゃないの?」
 その頃、『わるきゅーれ2号店』ではちょっとした問題が起きていた。『イナテミス防衛戦』以後、捕虜としてイナテミスにやって来たエリュシオン帝国第五龍騎士団及び団長、アメイア・アマイアの世話をしてきたシャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)の主張と、エリザベートに「私の一存だけでは決められないのでぇ、話をつけてきてくださぁい」と言われてやって来たミーシャ・エトランゼ(みーしゃ・えとらんぜ)の主張が真っ向から対立していた。もし戦う意思をどうしても変えられないのなら、街の警備くらいには就かせてはどうか、という案を持っていたヘルムート・マーゼンシュタット(へるむーと・まーぜんしゅたっと)、ミーシャに同調するエスタナーシャ・ボルクハウゼン(えすたなーしゃ・ぼるくはうぜん)も加わった論争は、一向に収束の兆しを見せなかった。

「団長、こちらです」
「ありがとう。……何やら私の団のことで、揉め事が起きていると聞いたのだが」

 そこへ、話を受けてアメイアがやって来た。それぞれの主張を耳にしたアメイアが考え、意見を口にする。
「……私と私の団が今エリュシオンに帰ったところで、それぞれ第五龍騎士団団長と第五龍騎士団の立場は失われているだろう。ニーズヘッグの際は事情が違ったが、イナテミス防衛戦はれっきとしたシャンバラとエリュシオンの戦争。そこで敵の手に落ちた者の存在を、エリュシオンは失われたものとして認めているはずだ。……つまり、私たちが国に帰ればもう、“騎士”ではなくなるのだ」
 自分たちの置かれた事情を説明した上で、アメイアが言葉を続ける。
「無論、私たちが前線に立てば、それだけでいらぬ軋轢を生む。まだシャンバラとエリュシオンの戦争は続いているのだろう?
 故に私たちは、たとえ戦う意思があったとしても、迂闊に手を出せぬ。事情が変われば、あるいは……いや、不確定な事柄を口にするべきではないな」
 今のは忘れてくれ、と言って、アメイアが最後に、これだけは口にしておきたかったと言わんばかりの言葉を口にする。
「私たちは二度、イナテミスという街に、そこに住まう住民に恩義を受けた。その恩は今後、如何様な形になったとしても必ず返す。
 もちろん、仇で返す真似などしない。それだけは覚えておいてくれ」

●イナテミスファーム

『リス鍋とかアリとスキヤキというのが来ているみたいだな。そんなやつらには負けんなよ。あとで会おう』

 HCにそのように打ち込み、佐々木 八雲(ささき・やくも)がよし、と頷く。……どうやらナベリウスとアムドゥスキアスのことを言っているようだが、だいたいあってない。……いや、イメージだけなら合ってなくもないような気もしなくはない……はさておき。
(こちらの目的は、イナテミスファームの避難が完了するまで敵を引きつけること……。もちろん、敵が前線を突破してこないならそれに越したことはない。だけど、相手はザナドゥの魔族だ。一筋縄では行かないだろう)
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が前方を見据え、心に思う。今のところ、『イナテミスファーム』には普段通りの時間が流れていたが、次の瞬間も同じであるかどうかは誰にも分からない。対策は、しておいて決して無駄ではなかった。


「……リス鍋? 魔族食うのかよ!」
「師匠なら、リスナベもスキヤキも美味しく料理してくださいますわね♪」
 八雲の書き込みを見た泉 椿(いずみ・つばき)ミナ・エロマ(みな・えろま)がそれぞれ思うところを口にしていると、マーカス・スタイネム(まーかす・すたいねむ)に誘導されてやって来た、プラ・ヴォルテールアシェット・クリスタリアといった精霊たちの他、アーヴィン・ヘイルブロナー(あーう゛ぃん・へいるぶろなー)の運転するバイクに乗せられてコルト・ホーレイを始めとした農民たちが合流を果たす。
「すまねぇなぁ、ここまでおらたち運んでもらって」
「なに、礼などいらない。報酬のために俺様達は働いていないのだからな! 平和な日々が早く訪れれば、俺様はそれでいいのだ」
(はは……言ってることはまともなんだけどね……)
 キリッとした表情で言うアーヴィンへ、マーカスの微妙な温度の視線が向けられる。
「アシェ、みんな揃ってる?」
「……うん、大丈夫。これで、全員」
 プラの声にアシェットが頷いて、そして二人の視線がファームの向こうを指す。

「この戦いが終わったら俺の手料理をご馳走するので、楽しみに待っていてください」
「ちょ、大地それ死亡フ――」

 抗議の声をあげかけたメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)を抑えて、志位 大地(しい・だいち)が二人に言った言葉が思い出される。
「大地クンには苦労かけてばっかりだねー」
「……うん。カヤノ様やサラ様のようにはいかなくても、今よりもうちょっと戦う力があったら……」
 お手伝いができるのに、という言葉はしかし、引っ込められる。多分大地は、そっちの方向でのお手伝いを望まないような気がしたから。
「帰ってきたら、大地クンの料理のお手伝いしよっか! 『看板娘のあたしたちは、これがお仕事なんだよ?』って」
「プラ、それいい案。ぜひそうしよう」
 二人頷き合い、そしてもう一度だけ向こうを見て、トラックの方へと向かっていく。

「……うし! これでやれることはやった、って感じだな」
 作業を終え、イナテミスファームの民を乗せたトラック、特攻天女に乗り込み、椿がハンドルを取る。ファームの前には突貫工事ながら見事な出来栄えのバリケードが設置されていた。
「あら、悪魔相手に暴れてきてくださってもよかったですのに」
「そりゃ、暴れたい気持ちがないわけじゃねぇ。けど、大地たちがいればそっちの方は大丈夫だろ。
 ……それにな、おまえを放っておくと看板娘の二人が、な」
「「?」」
 椿に視線を向けられ、プラとアシェットがよく分からないとばかりに首を傾げる。
「こんな時に不埒なことなんてしませんわよ?」
「どうだか」
 そんなやり取りを交わしつつ、椿の運転するトラックがイナテミス中心部へ向かう――。

「……よし、ファームの避難が完了したか」
 書き込みを見た八雲が、弥十郎と今後の方針を定めようとする。前線部隊がよく頑張ってくれているのか、ファームに向かってくる魔族の姿は見られない。
「大地君に連絡を取ってみようか。援軍が必要ならそっちに向かうってことで」
「分かった」

「避難が完了、こちらに魔族の影なし、指示を乞う……ですか。そうですね……」
 今度はまともな書き込みが来たなと思いながら――最初の『リス鍋とスキヤキ』の時には、「美味しそうなのか可哀想なのか分からない呼び方ですね」と苦笑していた――、大地が指示を送る。自分たちは今、水神 樹(みなかみ・いつき)カノン・コート(かのん・こーと)と共に『イルミンスール進撃部隊』の進軍を援護する役を担っていること、合流を果たすよりはファームで即動けるようにしてくれた方が有り難いことを連絡する。
「大地さん、そろそろ行くそうです」
「分かりました」
 樹の報告を受けて、大地と樹が前衛、千雨とカノンが後衛という形で、イルミンスール進撃部隊とつかず離れずの距離を保ち、先に攻撃を仕掛けてきたナベリウス軍を迂回する形で、アムドゥスキアス軍へ痛打を加えるべく進む――。