空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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●ウィール支城

 イナテミス防衛戦では、少なからぬ損傷を受けながらエリュシオン龍騎士の攻撃を凌ぎ切ったウィール支城は、今再び戦火の炎に晒されようとしていた。
(むぅ……ニーズヘッグの協力を借りて一応の修復が済んだとはいえ、遺跡方面からの侵略は些か想定外じゃ。時間が足りぬやも知れぬが、出来る限りの備えを施すしかなかろう。……本当は、前線で頑張っとる妹を助けに向かいたいところじゃが……)
 魔族の襲来に際し、取れる方策を検討していたサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)が、再び『ウィール支城臨時司令官』の任に就いた土方 伊織(ひじかた・いおり)を見遣る。イナテミス防衛戦の時には欠かさず隣にいた、セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)の姿は、今はない。彼女はウィール遺跡を守護する龍、ヴァズデルと共に、戦闘の最前線へと向かっていた。
(セリシアさん……心配ですけど、僕には僕のやらなくちゃいけないことがあるんですよね? だから、僕はそれを一生懸命やるです。
 無事でいてください、セリシアさん……)
 ぐっ、と拳を握り、伊織が構築されつつある情報共通網の確認へ向かう。各地に点在する情報拠点を繋いで、必要な情報を必要な場所へ伝えるための機能が、有志によって驚異的な速度で構築されようとしているのであった。

●精霊指定都市イナテミス:田中さん家

(大ババ様が戻ってきたと聞いたらこの大騒ぎか。……とりあえずは、魔族を押し返すことだけ考えないとな)
 【アルマゲスト】の本拠地、通称『田中さん家』には、閃崎 静麻(せんざき・しずま)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)がイコンで持ち込んだ機材が空間を埋め、それらは対魔族戦線の情報整理に動員されていた。
「最新データを取得、モニターに映します」
 レイナの声の後、モニターにイルミンスールの森周辺の戦況を示す図が映し出される。森の半数近くが崩れて瓦礫が積み上げられたような状態になり、敵である魔族は世界樹イルミンスールへ直進せず、迂回するようにウィール遺跡方面へ進軍している様子が映し出される。
(世界樹を狙わず、イナテミスを占拠することで結果として無力化を図るつもりか? 確かに、イルミンスールが墜落した今ならそれも考えられるな)
 普段はのらりくらりとしている静麻だが、ここでは持てる知識と知恵と技術をフル回転させ、敵の攻撃目標を割り出す。
「ウィール遺跡、氷雪の洞穴、イナテミス中心部……そしてイルミンスール。これらが四辺形の四隅を形成している。
 イルミンスールを敵が落とさないとなれば……狙うは、ここだ」
 静麻が指し示したのは、ウィール遺跡。ここを敵が取れば、残る三隅に対して『いつ狙われるか分からない』というプレッシャーを強いることが出来る。
「静麻の予測に基づく敵の戦力予想を反映、各地に伝達します」
 再びレイナの声が聞こえ、情報は絶えず更新を続けながら各地に伝達されていく。

●精霊指定都市イナテミス:ミスティルテイン騎士団イナテミス支部

 一方、つい最近本部から正式に支部として認められた『ミスティルテイン騎士団イナテミス支部』には、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が詰めていた。
「イルミンスール、ウィール支城、その他各地との中継は良好です。ルーレンさんは既にザンスカールの皆さんと対面を終え、先代当主さんの下、統制を取り戻しつつあるとのことです。校長先生の契約者への演説要請も、受理されました」
 ルイーザからの連絡を受け、フレデリカも当初に比べ幾分、落ち着きを取り戻す。
(……正直、まだ事態がよく飲み込めてない。……だけど、今はあれこれ詮索するより先に、私達の居場所を守らなきゃ!)
 アーデルハイトらしき人物がイルミンスールを襲撃したと聞いた時は、迷いも戸惑いもあった。しかし、自分たちが迷っている間も、時間は待ってくれない。自分たちが迷えば、イナテミスの住民も同じように迷う。
 ただ勝てばいいという話ではない。多くの住民の、普段の生活を守った上で勝利すること。
(……その為に、お願い、皆の力を貸して!)
 刻一刻と迫り来る敵、それに対抗するために整えられていく準備、それらを見守りながら、フレデリカが心に思う。

●イルミンスール:アルマイン基地

 イルミンスールのイコン、アルマインが格納されていた基地は、イルミンスールの“墜落”の後もほぼ通常の機能を発揮していた。ウィール支城がイナテミス防衛戦の時のように完全な基地としての機能を発揮できない現状では、ここの役割は必然、高まっていた。
「やれやれ、一難去ってまた一難、かね。つーか難多すぎじゃろう……」
 そんなことを呟きつつ、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が構築されつつある『情報共通網』から得られた情報を、アルマイン乗りに伝えられる手筈を整える。無論、大きな損傷を負った、または魔力補給のための帰還の手順も整えておくことも忘れない。
「魔神アムドゥスキアス、アムトーシスを治める魔神自らご登場でございますか。これはザナドゥも本気でございますね」
 傍らでファタのサポートをするローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら)の発言に、ファタが続けて発する。
「……もしそのアムトーシスとやらを訪れるようなことになれば、その時は案内でも任せようかの。……今はともかく、こっちをどうにかせんとな」
 いずれザナドゥに行くことになるかどうかは、これからの戦いにかかっている。ここでもし魔族の侵攻を防ぎ切れなければ、ザナドゥではなくナラカ逝きになってしまうであろう。

●イルミンスール:校長室

 ぶわり、と風が吹き、ニーズヘッグがイルミンスールへの帰還を果たす。
「イテテ……掠っただけでこのザマかよ。ありゃあ、ヤベェな」
 生徒たちを降ろし、自らも人の姿に戻ったニーズヘッグの、身体のあちこちには裂傷が刻まれていた。驚異的な回復力を誇るはずのニーズヘッグにこれだけ痕が残る傷を負わせたアーデルハイトの力は、推して知るべし、である。
「だけど、やっぱ追ってこねぇ所を見っと、直接は手ぇ出してこねぇな。ってことは、ウィール遺跡さえ守りきりゃ、なんとかなるってことか?」
 ニーズヘッグの言葉に、明確な答えを出せる者はいない。だが一つ、確実に分かることは、今ここでウィール遺跡を守り切れなければ、自分たちは酷く危機に陥る、ということであった。

『あなたたち、ウィール遺跡を魔族の手から守り抜くですぅ!』

 エリザベートの、生徒たちを鼓舞する声が伝達され、そしてついに、第二のイナテミス防衛戦が幕を開ける――。