空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

リアクション公開中!

【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

リアクション

 生じた閃光、そして爆音を物ともせず、ナナリー・プレアデス(ななりー・ぷれあです)ヴィオレット・プリマ・プレイアデス(う゛ぃおれっと・ぷりまぷれいあです)のサポートを受け、高められた魔力を電撃へと変換、炸裂させる。
「雪だるま王国宮廷魔術士にして魔法少女の火力を、侮るなかれ」
 今頃はもう一方の敵将、アムドゥスキアスと接触を図っているであろう女王を思い、ナナリーは間髪入れず周囲に酸の霧を生み出す。それだけでは効果が薄いと見るや、霧の漂う地点に氷嵐を舞わせ酸の吹雪とするなど、工夫も見られた。
「こいつら一体なんなんだよ、いきなし人の土地に攻め入ってきやがって! とっとと帰れよ!」
 カレン・ヴォルテール(かれん・ゔぉるてーる)の生み出した光が、反撃を受けて弱っていた魔族を貫き、最後の抵抗力を奪い取る。
「くっそう……炎熱の精霊から炎を取ったら何が残るんだよ……あぁあ、でも確かに、自ら森を燃やすのは抵抗あるよなぁ……」
 自らの炎で燃やし尽くしたい衝動を抑え、カレンが敵を食い止める。
(カレンは……大丈夫そうだな。
 奴らがイルミンスールに攻め入ってきた理由は分からない……だが、このまま侵攻を甘受するわけにもいかない。
 ここは何としても持ちこたえなくちゃな)
 相田 なぶら(あいだ・なぶら)が周囲を確認し、攻撃の手が比較的薄い箇所を補うように、貫く光を生み出し魔族の抵抗力を奪い取る。
「孫、右から3、左から2、来る!」
 滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)の研ぎ澄まされた感覚が、近付く敵の気配を察知する。敵は奇襲の混乱から回復しきってないらしく、気配を察知するのに苦労はさほど必要としなかった。
「雑賀衆頭領の真骨頂、お受けなさい!」
 雑賀 孫市(さいか・まごいち)の構えた銃が火を噴くと、狙撃された一体の魔族の他に、二体の魔族が弾丸で撃ち抜かれて地面に伏せる。素早い動きで弾をこめ直し、狙いをつけて放った弾丸は、今度も二体の魔族をほぼ同時に撃ち抜き、抵抗力を奪い取った。
「イルミンスールの料理をまだ完食してないんだ。そっちには後で食べに行ってあげるから、今はお帰りくださいってねぇ!」
 霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)の操縦する飛空艇に据え付けた機関銃で、月谷 要(つきたに・かなめ)が敵の多く集まっている箇所を無数の弾丸で撃ち抜く。上に逃げればそのまま上に、味方に射線が被る時は飛空艇で移動して、やはり射撃を見舞う。
(要、その理由はどうなの? ……まあ、私も人のこと言えないわね。
 イルミンスールに思うところがあるわけじゃない、だけど……攻め込まれているのに大人しくしていられない、だからこうして襲撃に参加している)
 思いを巡らせつつ、悠美香が周囲の殺気を辿り、より多く敵が密集している地点を要へ伝える。その地点へ要が射撃を行い、敵の抵抗力を徐々に、かつ確実に減らしていく。
(ザナドゥ……そして、アーデルハイト……何があったのかは、知らない。
 だが、私達に仇なすというのなら……私は鬼にでも戦神にでもなる。
 人を守る覚悟というのは……生半可な気持ちで成す物ではないのだから!)
 両手で刀を構えた九十九 昴(つくも・すばる)の、振るったそこから無数の衝撃波が飛び、向かってきた魔族へ裂傷を作る。数を減らした敵軍へ、踏み込んだ昴の神速の突きが繰り出され、抵抗力を奪い取った。
(……あの子たちは今、事を為せているだろうか。……僕はその子たちのために、戦おう)
 昴が逃した魔族の前に、九十九 刃夜(つくも・じんや)が立ちはだかり、剣での二連撃を繰り出す。
「待ってる人がいるから、君達には負けてられないんだよ!」
 一撃目で体勢を崩された魔族は、二撃目を受け止められず裂傷を負い、体液を迸らせて地面に伏せる。

「ステンバーイ……ステンバーイ……ファイア」
 レイナ・アルフィー(れいな・あるふぃー)の指示に素早く反応して、レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)が固定したスナイパーライフルの引き金を引く。
「……命中、敵兵、戦闘続行不能と推測される」
 レイナの報告に不確定要素が含まれているのは、レイヴの放った弾丸は確かに敵の頭部を違わず狙ったものだったが、直撃する寸前に敵の魔族の頭が動いたからであった。狙われているとは知らずに動いていたか、狙撃に気付いたか、敵魔族のこれまでの動向からは定かではないが、もし後者だとすれば、敵に狙撃の位置を悟られる可能性がある。
「分かりました、一度移動しましょう」
 レイナの推測に基づく指摘を受け、レイヴが移動を決める。手間はかかるが、位置のバレた狙撃兵ほど無力な存在はない。
「敵の指揮官らしき人物は見つけられますか?」
「……ターゲット確認、11時の方向」
 レイナの話では、多数確認される兵に混じり、姿の大きな兵が見られるとのことであった。
「彼を狙撃すれば、混乱を誘発できますね。……急ぎましょう、早急に射程に収めます」
「了解」
 頷くレイナを連れ、レイヴは狙撃ポイントへ急ぐ。

「いきなり侵攻してくるなんて、どういうつもりかなぁ! ボク、流石に怒ったよ!
 ……というわけだから、瑞樹、思いっきりやっちゃって!」
 HCに映し出された周辺地図を覗き込み、敵の姿が近くにあることを確認した神崎 輝(かんざき・ひかる)が、キャノンとミサイルポッドを装着して今か今かと待ちわびていた一瀬 瑞樹(いちのせ・みずき)に発射の許可を認める。
「では遠慮なく〜……ふふふ、マスターに変わって私がぶちかますぞコラアァァァ!!」
 狙いをつけ、瑞樹がミサイルポッドとキャノンを発射する。ちょうど拓けた場所に出た敵魔族たちは、飛んできたキャノンとミサイルに翻弄され、混乱に陥る。
「まだまだいくぞコラアァァァ!!」
 再度砲撃を行う瑞樹、その表情はどこか生き生きとしているようにも見える。あくまで本人は、ナベリウス軍を思いっきりぶっ飛ばしたい輝の望みを叶えるべくやっているのだが。
「やれやれ……イルミンも面倒な事に巻き込まれたねぇ。伊礼のじーさん……この戦い、どっちが勝つと思う?」
 ギャザリングヘクスの入った徳利に口をつけ、ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)がその徳利を伊礼 權兵衛(いらい・ひょうのえ)に投げて寄越す。
「我は予言者ではないぞ? それが分かれば苦労せんわな」
 徳利を飲み干した權兵衛が、高まる魔力を電撃魔法に顕現すべく詠唱を始める。
「さぁて、魔族相手にどこまで行けるやら……考えただけで楽しみじゃあないか」
 続いてノアも、電撃を顕現すべく魔力を高める。
「まぁ、何事も試してみんと分からんからのぅ。楽しみというのは分からんでもない。
 ……ほれ、行くぞ」
 詠唱を終えた權兵衛の、前方の空間を雷が駆け抜ける。ノアの電撃も加わって威力を増された雷迅は、突き抜けようとした魔族の群れをことごとく撃ち貫き、魔族が痙攣しながら地に伏せていった。

 契約者の攻撃を掻い潜り、一部の魔族が迫ってくる。
「健闘くんは、私が守ります!」
 それらに対し、前に進み出た天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が巨大な盾を構え、突っ込んできた魔族の攻撃を受け止める。本人の見た目とは裏腹に、盾を掲げたまま咲夜は一歩も引かない。
「お前たちは誰だ! 悪であるならば許さない!」
 そして、咲夜の背後から健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が、咲夜の構えた盾を足場に飛び上がり、爆発的な加速力を乗せて、急降下すると同時に手にした大きな槌を地面に叩き付ける。
「名付けて、茸山振動波!」
 地面を打つと同時に光を生じさせることで、光に弱い彼らの目眩ましになると踏んだ勇刃の攻撃で、一部の魔族は足を取られ、また視界を失い隙を晒す。
「格好の的じゃないか! さあさあ、全員ぶっ飛ばしてあげるよ!」
 そこに、大豆生田 華仔(まみうだ・はなこ)の弾丸が撃ち込まれる。なにやら色々とストレスがかかっていたらしい華仔の容赦ない射撃で、魔族は次々と抵抗力を奪われていく。
「ハナ、楽しそうだな……。おっといけねぇ、ハナの手伝い手伝い、っと。
 悪魔だかなんだかしらねぇが、そんなのはどうだっていい。ハナさえいればどうでもいいんだよ」
 九 隆一(いちじく・りゅういち)が、華仔の攻撃が誤射にならぬよう弾道を注視し、万が一の際は超能力で弾道を逸らせるように準備する。
「ふふふ……あれが魔界のモノですか。楽しめそうですね」
 笑みを浮かべたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が、掌に載せた魔石を掲げて詠唱を始める。
「奈落よりも深きモノ、冥府の闇より暗きモノ、大いなる海原に封じられしモノ……古き深淵の盟主よ!!」
 詠唱を終えたエッツェルの前方を、凄まじい冷気を含んだ闇黒の嵐が襲う。ザナドゥの、闇黒には耐性があるはずの魔族でさえ、氷結属性を含むということを除いても、抵抗しきれないほどの魔力であった。
「ククク……さあ……悪魔共を……貪りましょう……」
 そして、その嵐の中を物ともせず、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)が瘴気から生み出した獣を引き連れ、損傷を受けた魔族に無慈悲にトドメを刺していく。ザナドゥの魔族でありながら、仕えるのは『主公』エッツェルのみと定めたが故の行動であった。


 こうして、『釣り野伏せ』の策を以てナベリウス軍と戦った契約者たちは、大きな被害を受けることなくナベリウス軍を退けることが出来た。
 成功を喜ぶ彼らの中には、大将である魔神ナベリウスの存在を気にする者もいたが、未だ消息掴めず、とのことであった。
「……ただ、森のあちこちで崩落が激しい箇所がいくつか見られました。これは俺の推測ですが、強大な力を持った誰かが戦いを挑み、足止めをするか退けるかしたのではないかと」
 帰還したクロセルが、見てきた森の様子から推測した自分の意見を口にする。
 ……そう、そんな事が出来るのは一人くらいなもの。そしてその“彼女”は――。


「うえーん、いたいよー」
「いたいよー」
「わたしもいたいよー。ねーねー、このたましい、たべちゃおうよー」

 クリフォトへ撤退するナベリウス、その身体は果たして機能しているのかどうか分からないまでに損傷していた。いくらすっぽんぽんとはいえ、これはむしろ服を着た方がいいレベルである。
「だめだよー、まおーさまにおこられるよー」
「うえーん、いたいよー」
「いたいよー」
 サクラが、一旦は手にしたふわふわしたものを、ナナに窘められて渋々壺の中に仕舞い、その壺はフッ、とどこへともなく掻き消えた。


「……ああ、これが『死』というものなのでしょうか……」
「そうだね……ラズンも、アルコリアも死んだよ……きゃはは……」

 地獄の底とでも形容すべき地で、折り重なるようにして倒れるアルコリアとラズン。
 二人の脳裏には、自分が絶命するまでの瞬間がハッキリと刻み込まれていた。


 二人とナベリウスとの戦いは、もはやどちらかが死ぬまで終わらないものだった。
 そして、軍配はナベリウスに上がった。
 結果としてたった二人で四魔将の一柱を退けたアルコリアとラズンは、しかし魂をナベリウスに奪われたのであった――。