空京

校長室

【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

リアクション

「ナナ、これ以上敵を近付けさせると、真下の味方を巻き込むかもしれないよ」
「了解です。では、敵を押し返すか、さもなくば右方向へ進路をずらしましょう。ズィーベン、他の皆さんへの伝達、お願いします」
 ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)がレーダーで周囲の様子を確認し、得られた情報をナナ・ノルデン(なな・のるでん)へ伝える。ナナの方針は仲間へ伝達され、敵を近付けさせまいと応射が行われる。
(確実に、当てることに専念して……!)
 空中で自在な動きを見せる魔族に確実に痛打を与えるべく、ナナの放ったカノンは一体を穿つ。次々と放たれる弾を、しかし数と機動力で魔族は接近を図ろうとする。
「おにいちゃん、敵が!」
「ああ、見えている。行くぞクレア、ソーサルナイト、ここは一騎も抜かせはしない!」
 クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の発した警告に本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が答え、彼の乗る愛機ソーサルナイトがマジックソードを抜き、接近戦を挑む。敵の振るった腕は、しかし振るわれたソードの前に切り落とされ、地上へ落下する。
(……ミリアさん、本当は私は、あなたの傍にいてあげたい。
 だが、私の我侭で戦力が不足し、イルミンスールが滅ぶようなことになっては元も子もない。だから……)
 だから、私は戦う。私が愛する人のため、愛する人、ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)が望むこの地の平和を守り抜くため。
 空中で素早く旋回したソーサルナイトが、先程手傷を負わせた魔族の一体に再び迫り、翼をソードで切り払う。飛ぶ術を失った魔族は、悔しげな声をあげながら地面に落下していく。仲間をやられた別の魔族が、復讐とばかりにソーサルナイトへ迫るが、そこに天から降り注ぐ雷が直撃し、翼を撃ち抜かれた魔族は悲鳴をあげつつ高度を落としていく。
(よし、予想通りで助かったぜ。これで『魔物は魔法が効きません』って話だったらマズかったが、ある程度は効くようだな)
 天からの雷を放ったマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)が、しかしそこは魔物、思ったほどの効果を挙げられないことに舌打ちしつつ、それでも敵の気を散らすには十分と納得づけて、再び雷の詠唱に入る。
(マーリンが作ってくれた隙を、無駄にはしない!)
 一方、雷を受けて戦闘力を低下させられた魔族へは、フリムファクシに跨った沢渡 真言(さわたり・まこと)が迫る。今や魔族を上回る機動力で翻弄したフリムファクシの、繰り出されたハルバードが魔族に決定的な一撃を与え、墜落させることに成功する。
(アーデルハイト様……このようなことをしたのは、自らの意思ではないと信じています。ええ、そうですとも!)
 アーデルハイトに思うところがありながらも、まずはこの事態を収拾に導くべく、真言は愛馬と共に戦場を翔ける。


「エクス、敵の層の厚い箇所をマルチロック」
「了解……ロック完了」
「よし、行けっ!」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の乗るイコン、迅雷・疾風から、複数のミサイルが発射され、敵勢力の集中している箇所に爆風が巻き起こる。
「唯斗、まだレーザーは使うな。継戦時間を優先するぞ」
 レーザーバルカンは威力、射程に優れるが、機体のエネルギーを相応に消費する。有志によりイルミンスールでのエネルギーの補給は出来るようになっていたが、本場ではない分を考慮すれば、出来る限り消費を抑えた戦いをするのが得策との判断からであった。
「分かった。近接兵装に切り替え、接近する敵を薙ぎ払う!」
 唯斗の操作で、機体に長身の剣が装着される。ともすれば機体より長いそれを、機体の機動力を活かして振るうことで敵の殲滅を図ろうとしていた。
(……此処は通さない。此処にはサラもいるんだからな)
 聞けば、サラもイコンに乗り戦いに身を投じているとのことであった。彼女の負担を減らすためにも、一瞬たりとも手は抜けない。
(そう、俺は約束した、友の為に戦うと。今がその時だ!)
 機体が速度を上げ、加速度に耐えつつ唯斗は、敵の攻撃を避けつつクレイモアを振るい、魔族を打ち払っていく。


『ふはははっ、俺の名はジークフリート! イルミンスールの魔王を名乗る者だ!
 ザナドゥの魔族よ、覚えておくがいい!』

 ファフニールに搭乗したジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)が啖呵を切り、敵集団に向けてマジックカノンを発射する。威力の増された魔弾の直撃を受けた魔族はもちろん、掠めただけでも翼を失った魔族は飛行を続けられず、地上へ落下していく。
(イルミンスールやイナテミスは今や、私にとって居心地の良い場所になった。それだというのに、悪魔共め……!
 私の身体を奪い、魂を弄んだ挙句、今度は居場所を奪うというのか! 奴らに屈するわけにはいかん……もう何も奪わせない!)
 ザナドゥの魔族、悪魔への憎悪がまだ自分に残っていたことを実感しつつ、クリームヒルト・ブルグント(くりーむひると・ぶるぐんと)がしかしただ憎悪に身を任せるではなく、自分を受け入れてくれた街、イナテミスを護る思いを抱いて戦いに挑む。
「イナテミスへは一歩たりとも踏み入れさせん!」
 なおも接近を試みる魔族へ、ファフニールの放ったショットガンが迫る。一つ一つの威力は小さくとも、敵をひるませるには十分な威力であったし、当たり所がよければ墜落してそれ以上の継戦を不能にさせることも出来ていた。


(うーん、地獄の釜の蓋でも開いたんでしょうかねぇ? 出来る事なら話し合いで解決したい所ですが……)
 シュリュズベリィ著 『手記』(しゅりゅずべりぃちょ・しゅき)が一人乗り用のイコンで出撃する中、ラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)はイルミンスールで出来る限りの現状把握に努める。混乱した情報を整理することで、生徒たちを守ることに繋がると思いながら。
『おい、聞こえるか? ラムズ、生徒の一部がアムドゥスキアス軍の方角へと飛んでいくのが見えた。どうする?』
 そこに、『手記』からの通信が寄越される。アムドゥスキアス軍はナベリウス軍の奥にいるはず、敵を追って深入りしたか、それとも何らかの目的があってかは知らないが、放っておくのは危険に思われた。
「それはいけませんねぇ。手記、その方を追ってもらえますか?」
『分かった。足は遅いが打たれ強い身、役に立つじゃろうて』

 通信を切り、『手記』は自ら駆る(というよりも同化しているような)イコン、触龍を進ませる。龍、といえば龍かもしれないし、他の何か、といえばそれかもしれない、兎にも角にも異様な形態のそれが、ゆっくりと前へ進む。
(辛気臭い穴倉を飛び出して、日の光を浴びたい気持ちも分からないではないが、だからといって蹂躙を許し、黙って駆逐される訳にもゆかぬ。
 この形態での加減は出来ぬ故、逝っても怨むでないぞ?)


 その頃、赤城 花音(あかぎ・かのん)リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の搭乗するクイーン・バタフライと、逢坂 楓(おうさか・かえで)琴音・シュヴァルツ(ことね・しゅう゛ぁるつ)の搭乗する迦楼羅 壱式Fは、部隊を外れ一路アムドゥスキアスへと向かっていた。
「ボクたちの歌で、二つの軍の合流を阻止するんだ!」
 事前に聞いた、ザナドゥの四魔将の一柱、魔神アムドゥスキアスは芸術に精通しているという情報から、花音と楓はアムドゥスキアスに歌を聞かせ、気を引こうと考えついた。他にも同様のことを検討している契約者がいるという噂も聞きつけ、彼らと一緒になればきっと効果がある、そう花音は思っていた。
(ボクに、うまく歌えるのかな? ……ううん、今はそんなこと考えている暇ない。集中しないと……)
 花音の機体に付いて行きながら、楓はともかくアムドゥスキアスの下に辿り着くことに専念する――。