空京

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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「まさかこれほど、敵の大将に接触を図ろうとした契約者が多かったなんてね。でもだからこそ、アムドゥスキアスも接触を持とうとしたのかもしれないし……これはこれである意味狙い通り、なのかしら」
「それもあるかもしれませんわね。ともかく、こうして敵の大将の注意を引きつけることで、多少なりとも軍の指揮は乱れるでしょう。祥子さんの計画した時間稼ぎも、果たせるかもしれませんわね」


 『敵を連携させず、味方が各個撃破する時間を稼ぐため』、魔神アムドゥスキアスにチェス勝負を挑もうと接触を図った宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)だが、実際に足を運んでみれば、アムドゥスキアスへの面会を求める契約者の多さに驚く結果となった。ザッと見ただけでも二十組くらいはいる。むしろこれだけの戦力がいれば、魔神として崇められているアムドゥスキアスですら滅することが出来るのではないかという感じだが、そうなればどちらかの国が滅ぶまで戦争は続くだろう。一見遠回りに見えて、この方法が最も被害を少なくする方法なのかもしれない。


「うし、こっちは準備できたぜ。ザイエンデさん、どうだい?」
「はい、大丈夫です」
 エレキギターの形状をした楽器を肩にかけ、遊馬 シズ(あすま・しず)が自走式のパイプオルガンの前に座る燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)に呼びかける。
「んじゃ、俺の音を聞きな!」
 シズのギターがかき鳴らされ、ザイエンデの歌声が辺りに響き渡る。
「おー、いい感じじゃないかな? 確か彼、ボクと同じ名前なんだってね」
「あ、うん、そう、だけど」(ひーん、どうして私が相手しなくちゃいけないのー!? 一人じゃないからまだいいけど……)
 流れてくる音楽に好印象のアムドゥスキアスに話しかけられ、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)が見た目は子供、だけど漂ってくる威圧というかプレッシャーに慄きつつ、相手をする。
「名前が同じ……ということは、同じ存在、なのか?」
 そのもう一人の相手、神野 永太(じんの・えいた)がアムドゥスキアスに質問する。
「違うよー、別の存在だよー。名前一緒でも、考えとか全然違ってるなんてことあるよー。
 そうそうそれだけど、ボクが見た限りでは、5000年より前に生まれた魔族と、その後に生まれた魔族だと、結構考えとか違うねー。やっぱり地上で色々あったからなのかなー」
「……あ、そっか。5000年以上生きてる人? がいたっておかしくないのか」
 秋日子がポン、と手を打つ。パラミタとしては5000年前より前の歴史があり、世界がある。世界樹イルミンスールを除く世界樹は尽く、一万二万の時を過ごしてきたのだから。
「……とすると、こんな質問もおかしな話だが、アムドゥスキアスさんはいくつなんだ?」
「ボク? うーんと……6000くらい、だったかな。これでもボクが一番若いよ」
 アムドゥスキアスが、他の四魔将の歳を言っていく。リーダーであるというバルバトスに至っては、もう少しで5桁に到達するところまで来ていた。
「……人は見かけによらない、って言うけど……っていうかそもそも人じゃないけど……」
 それは、人間の世界とは大きく異なる世界を垣間見た瞬間であった。


 己の直感を信じて、不気味な樹の方角に向かっていった結果、他の契約者同様アムドゥスキアスに接触することとなった国頭 武尊(くにがみ・たける)が、密かに撮影をしている猫井 又吉(ねこい・またきち)がバレないように――撮影していることがバレれば、殺されてもおかしくないような気がしたため――しつつ、組織や目的などを機嫌を損ねないように聞いていく。
「ボクが生まれるずっと前にはもう、魔族は地上人によって地下に追いやられたって聞いたんだよねー。こういうのってどこにでもある話なんじゃないかな。生物って、自分より下にいる存在がいると安心出来るしー。……で、長生きしてる人ほど地上人に対する恨みが強くて、若い人ほどそうでもなかったりしてる気がするなー。バルバトスお姉ちゃんとかロノウェお姉ちゃんは地上人嫌ってるねー」
「ってぇことは、何だ、君たちが地上に出てきたのは、一万年ともしかしたら二千年くらい足した前に自分たちを地下に封じた地上人への復讐ってわけか?」
「うーん、それもあるかもしれないけど、それだけじゃないかなー。地上に復讐だけだったら、地下にいてもいくらでも出来るし」
 アムドゥスキアスの発言は、どこまでが本当なのか、実は嘘を言っているのかの見当が付きにくかった。
 その辺りは武尊も、まあ、ホイホイ話すわきゃねぇだろうな、ということで納得はしていた。


「おいオマエ、オレの描き上げた絵を見ろ! この絵はオレがさっき、ウィール遺跡で描き上げたものだ!
 どうだ、何か魂に感じるものがないか!?」
「主殿、そのような無礼な真似をしては最悪、魂を取られるやも」
 怖気づく妖甲 悪路王(ようこう・あくろおう)を横目に、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)が周りが戦闘中であるにも関わらず描いたという絵をアムドゥスキアスに見せる。
「へー、なかなかやるねー。人間って繊細で丁寧な絵描くって思ってたけど、そうじゃないのもあるんだねー」
「そうだろうそうだろう!? やっぱ芸術とはこうじゃなくちゃな!」
「……主殿、決して褒められてはないと思われるのだが……」

「あ、あの、これ、見て下さいっ」
 恥ずかしがりながら白瀬 歩夢(しらせ・あゆむ)が差し出したスケッチブックには、アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が描かれていた。ちなみにこの絵を見せることを提案したのは、今は歩夢に装備されている白瀬 みこ(しらせ・みこ)である。
「そんな上手くないかもしれないですけど、気持ちは込めて描きました。
 お肌や髪が芸術的な位キレイで……何より自分の目標に向かって頑張ってる凄い子で……私が初めて好きになった人、ですっ……!」
 そこまで言い切ってしまったところで、歩夢がハッとして顔を真っ赤にする。
「対象物への愛は、いい作品を描く上で大切な要素だねー。キミがこの子を描き続けるなら、今よりもっと上手い作品になるかもねー」
「えっ、あ、は、はい……ありがとうございますっ」
 思わぬ言葉をかけられ、ぺこぺこと頭を下げる歩夢に、みこが満足そうな表情を浮かべていたのは言うまでもなかった。

「かのクリフォトの化身は『全ての破壊を望む』と耳にしました。俺は、滅びの美も理解致しますが、全て消失してしまっては芸術も、芸術を評価する者すらいなくなってしまうでしょう」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が口上を述べている間に、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が呼雪が描いたという絵を運び出し、アムドゥスキアスの前に置く。
「これはほんの、お土産代わりだよ」
 そして、アムドゥスキアスに見えるようにして、掛けていた布を取り払う。そこに描かれていたのは黒薔薇、漂う雰囲気は常人であれば目を逸らしたくなるようなものであったが、アムドゥスキアスには特に影響ないようで、その絵を見つめていた。
「武力の争いでは一方的に相成りそうですが、それも無粋ではないでしょうか」
「地上には、ザナドゥにはない芸術が色々あるだろう。ザナドゥと地上、こういうもので勝負するのはどうかな?」
 二人の提案に、共通点を感じたキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)も続けて意見を発する。ちなみに彼のパートナーであるはずの茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)はこのことを知らず、百合園で今まで通りの時間を過ごしていた。
「1912年から1948年の近代オリンピックには、芸術競技という種目が存在していたネ。これを次のろくりんピックで復活させることをミーは提唱するネ!
 差し当たっては、武力での戦争を好まないと伺ったアムドゥスキアスの主義に沿うよう、芸術競技を代理戦争とするのはどうかと思うのネ」
 さり気無く次の冬季ろくりんピックアピールをしつつ、ザナドゥとの戦争行為を結果として避ける提案をするキャンディスを、途中で見かけて拾ってここまで連れて来た黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が見守る。
「ふふ……見覚えのある姿が見えたから、で来てみれば、この空間だけとても戦争をしているとは思えないね。
 まあ、これはこれで十分、本来の目的は果たせているのだけれど」
「何というか……いや、戦争を止めようとする思いは理解できるが、その方法がこれとは、いかがなのか」
 二人が言うように、確かにこの場においてのみ、戦争の殺伐とした雰囲気ではなく、異文化交流の場となっているようであった。
 ……あるいは、そういう場を作り出そうとする力、意思もまた、契約者だけが持ち得るものなのかもしれないが。


(こんなに多くの仲間が、和平への道を切り開こうとしてる。聞いた話では魔族側についたコントラクターもいるみたいだけど、皆、戦いを止めようとしてる。
 『心ある命』を、僕は護りたい。すぐに戦いが止められなくても、少しでも説得出来れば……!)
 『雪だるま王国』女王、赤羽 美央(あかばね・みお)に付いてやって来た高峰 雫澄(たかみね・なすみ)が、行動は様々ながら争いを止めようとしている仲間に触れ、自分も出来る限りのことをしよう、と気持ちを新たにする。今は二人と別れ、『氷雪の洞穴』を防衛している魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)、そしてパートナーであるシェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)の安全を確保する意味でも、ここでの行動は一瞬たりとも油断できない、と雫澄は思い至る。
「私達の国では、芸術といえば雪だるまなのです。今日はアムドゥスキアスさんに、至高の一品をお見せしたく伺いました」
 言って美央が、ここまで大切に持ってきた雪だるまを取り出してアムドゥスキアスに見せる。
「へー、作りは単純だけど、なかなか魅せてくれるものがあるねー」
「頭と胴体のバランスが重要なのです。この雪だるまは最適なバランス、黄金比で作られたまさに至高の一品なのです」
 ひとしきり雪だるまの魅力についてを語り終えた美央が、スッ、と表情を戻し、訴えるように口を開く。
「……ここには、美しいもの、素晴らしいものが数多くあります。
 雪だるま、雪原、そしてこの森の景観……それらを、ザナドゥのもので覆い尽くしてしまっていいのでしょうか」
 美央の発した言葉を、アムドゥスキアスは聞きはしたようである。
「ザナドゥとは、たたかわないといけないんですか? お話……はできましたけど、でも、いっぱいお話してからでも、遅くないとおもうんです!」
「地球には、歌で戦争を終結に導いたという歌姫がいる。あんたは芸術を愛する魔神って耳にしたし、実際そうみたいね。
 なんならいっそ、芸術でこの戦いを終結させてみる気はない?」
 背後からセツカ・グラフトン(せつか・ぐらふとん)アーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)が見守る中、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)も訴えを口にする。
「芸術で決着かー、それは思い付かなかったなー。最近のザナドゥの魔族はボクたちと考え違うなーって思うことあったけど、それはキミたちの存在があったからなのかな。
 でもほら、ボクたちも5000年、いや、それ以上かけて準備してきたからね。じゃあ止めよう、とは言えないなー。
 あと、ボクたちが地上に出ることになったきっかけも、原因を追っていくと、キミたちに行き当たるんじゃないかな。案外、キミたちがいなかったらザナドゥはずっと地下に留まって、たまに地上にちょっかい出す程度で収まってたかもねー」
 言葉を聞いて、誰に言うでもない言葉を呟いて、アムドゥスキアスがうんうん、と頷く。
「さーてと、ボクはそろそろ帰るよー。キミたちも戻った方がいいんじゃないかな? ボクはここにいたけど、他の魔族の侵攻までは止めてないからねー。戦って決着が付けば、ボクたちとしてはそれでいいわけだし」
 結局言いたい放題言って、アムドゥスキアスは契約者の前から立ち去っていく――。