空京

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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 アムドゥスキアスが言った通り、元々率いていた魔族は侵攻を続けていた。
 しかし、彼らがウィール遺跡に近付こうとした頃には、既に状況は魔族側にとって不利なものになっていた。というのも、この時点でナベリウス軍は大方撤退という状態に陥り、前線で軍を率いていたはずの魔神ナベリウスとも合流が図れなかったからである。
 つまり、彼らは戦場の真っ只中で、孤立してしまったのだ。

「敵が来たよ、アリア! 迎撃するよ!」
「うん、行こう、アリス!」
 そして、状況を知らないまま進んで来た魔族軍に対して、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)メアトリス・ウィリアムズ(めあとりす・うぃりあむず)の搭乗するイコン、閃光甲冑・鳥兜が地上から迫る。アサルトライフルによる攻撃と、接近しての内蔵ブレードによる斬撃は、敵の隊列を乱すに十分な威力を有していた。
「制空権の真っ只中に飛び込んでくるとは、飛んで火に入る夏の虫だな。歌菜、油断は禁物だが、絶好の機会だ。
 ここで敵軍を退かせるぞ!」
「うん! ウィール遺跡へは絶対に近付かせない! 絶対に守り切るんだ!!」
 一方空からは、遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)の搭乗するセタレが、密集する敵軍へマジックカノンの一撃を見舞う。既に空を飛ぶ魔物はあらかた駆逐され、今やアムドゥスキアス軍は、地上と空中から挟撃されようとしていた。
(動きが鈍い、かつ密集しているなら、攻撃自体は当てやすい……無茶はいけないけど、ここで痛打を与えられれば、一気に退かせることが出来るかもしれない……!)
 地上をカノンの衝撃が席巻くのを見て、カームリィ・ウインドに搭乗する非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)も空中から、レーザーバルカンによる射撃を食らわせる。敵軍が密集しているからこそ、イコンの武器であっても十分な命中率を誇っていた。もちろん直撃すれば、並の魔族がとても抵抗できるものではない。
「味方の地上部隊が進んでいきますわ!」
 周囲の状況を確認していたユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の報告が飛ぶ。十分な支援をもらった地上部隊の突撃が敢行されようとしていた。

 永倉 八重(ながくら・やえ)の全身が魔力による輝きに包まれたかと思うと、本来漆黒の髪と瞳が情熱の紅へ、纏っていた制服はいわゆる魔法少女風へと変化する。
「出し惜しみはしません、最初から全力全開で……行くわよ!!」
 深紅の太刀『紅嵐』を携え、先陣を切って混乱が続く敵軍へ飛び込み、手近な魔族を切り倒す。
「ゴースト!」
「後ろにいる! 援護は任せろ!」
 八重の呼びかけに答え、ブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)の構えたライフルが標的を捉え、火を噴く。正確なショットで鎧の隙間を撃ち抜かれた魔族が抵抗力を奪われ、地面に伏せる。
(ザナドゥの魔族……首謀者は……そうか、彼らか……。
 俺はこの地上が、いつの間にか気に入っていたようだ。ここにはザナドゥにはない、素晴らしい文化がある。そしてそれを潰されるのは、我慢がならない。
 だから俺は……ザナドゥに反逆する!)
 決意を胸に秘め、悪魔であるガルシア・マカリスタ(がるしあ・まかりすた)がしかし、同胞である魔族へ機関銃を向ける。
(ガルシア……君の意思は確かなこと、この私がしかと見届けた。
 私も君と同じく、魔族がこの地上で好き勝手するのは気に入らない。これ以上の蹂躙を許しはしない!)
 ガルシアの戦う姿を見届け、ミハイル・プロッキオ(みはいる・ぷろっきお)は彼が味方であり続けるであろうという確信を得ながら、スナイパーライフルによる狙撃を行う。二人の放つ弾丸に射抜かれた魔族は、それ以上の戦闘を続けることが困難に陥らされる。

「ふむ……既にナベリウス軍とアムドゥスキアス軍の連携は断たれている。ここで敵の一軍に痛打を加えることは、今後の戦いにおいて有利に展開出来るだろう。地上部隊と連絡を密にした上での空爆も選択肢に加わるか……雷華、聞いているのか?」
 トールマックを操縦しつつ、上空からの情報を元に戦闘方針を定めようとしていた北久慈 啓(きたくじ・けい)に呼びかけられ、須藤 雷華(すとう・らいか)がトントン、と頭を小突きつつ答える。
「聞いてるってば。……うぅ、何だか頭が痛いわ……どうしてかな、次から次から問題が来るから?」
 頭痛の原因を考えてみるが、結局分からない。色々と思い当たる節があるようにも思えるし、そのどれも関係ないようにも思える。
「……無理はするなよ。当初の目標は果たされている、俺たちの代わりを務められる者は他にもいるはずだからな」
「ま、大丈夫なんじゃない? 折角アルマインの改造終わったんだし、もうちょっと試しておきたいし」
 気遣う素振りを見せる啓に答えて、雷華がエレキギターを弾き、砲撃の準備を整えていく。

 笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)アインス・シュラーク(あいんす・しゅらーく)の搭乗するイコン、スプリガンからグレネードが発射される。
(イルミンスールの墜落、さらには異形の姿をした樹、魔物の襲来……。
 正直、何が起きているか分からないけど、このままじゃイナテミスが危ないことは分かる。
 だからここで、敵軍の進軍を止める!)
 密集した敵軍へ、発射した弾が降り注ぐのを確認した紅鵡が、次の発射タイミングを伺う。
(紅鵡さまの手、震えていらっしゃった。この光景を見た時から……。
 ……私には、紅鵡さまを支えることしか出来ない。一緒に……紅鵡さまと一緒に、この状況を乗り越えていきます)
 アインスが索敵を担当し、攻撃を受けた敵集団がどのように再編を行い、進軍を再開しようとしているかを伝えてくる。
(弾の続く限り、ここで食い止める。後方には補給部隊も配置されているって聞いた。
 無理はしないよ、死に急ぐ訳には行かないから)
 そう心に誓って、紅鵡が次弾を敵集団に向けて投射する。

 さて、この空域ではやはりイルミンスールということもあって、アルマインの姿が多く目立つが、他校で運用されているイコンも目に付く。
 しかし当然、それらに対する整備や修理も必要である。世界樹イルミンスール内のイコン基地でも出来なくはないが、距離の面で不利がある。
「はい、固定完了しました! パイロットの皆さん、お疲れさまです。
 少しの間、身体を休めて待っていてくださいね」
 そんな事態を考慮したか、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)は自身のイコン整備の腕を発揮するため、移動整備車両キャバリエに必要な道具や資材を積み込み、より戦線に近い位置での修理や整備を担当していた。
「さあ、敵は待っちゃくれないよ。もちろん、整備をおざなりになんてしないからね。あたいたちに任せておきな」
 イコンパイロットにとっての相棒であるイコンを、真琴とクリスチーナは手早く、かつ丁寧に修理、整備していく。彼女たちの存在があってこそ、イコンは十全の力を発揮して空を、陸を駆けることが出来るのだ。

「……うん?」
 赤翼の戦乙女を駆り、魔族を蹴散らしていた天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)が、身体の変調を感じて攻撃の手を止める。
(何だ……魔力を消費し過ぎたか? それとも向こうに見える異形の樹の存在か?)
 いくつか思い当たる節がありながら、原因が掴めないでいたヒロユキへ、剣から爆炎を発して敵の魔族を追い払っていた木崎 光(きさき・こう)が駆け寄り、声をかける。
「おいおまえ、大丈夫か? 顔色悪いぞ、怪我してるんじゃないのか?」
「ああもう、失礼じゃないか光……すみません、うちの子が……ですが、本当に大丈夫ですか? 引くこともまた戦いのうちですよ」
 後からやって来たラデル・アルタヴィスタ(らでる・あるたう゛ぃすた)が光を窘めつつ、調子の悪そうに見えるヒロユキを気遣う言葉をかける。
「……ああ、そうだな。少し無理をしたようだ。俺は退かせてもらう」
 二人に告げて、ヒロユキはその場を後にする。その間も、ヒロユキの中に蔓延る不快感は一層強まっていた。

 同じ頃、戦線から遠く離れた場所で、貴音・ベアトリーチェ(たかね・べあとりーちぇ)が異変を感じた後に気を失ったことは、ヒロユキはまだ知らずにいた――。

「あ〜なんか今回は本気でやばいですって〜。ほらなんかさー帰った方がよくない?」
「って、何を弱気な事言ってんですか! ワタシ達はこれまで数々の戦いをくぐり抜けてきた仲ではないですかーっ!」
「いやまあそうかもしれないけど、でも今度のは次元が違うっていうか、見た目も怖いっていうか……」
「確かに、今回の敵はこれまでと違うかもしれません。ですがアナタ、こないだ自分は宇宙最強だとか言って、降ってきた隕石砕いたり大暴れしてたじゃないですか! 最強ならこれくらい余裕でしょ!」
(そ、そんなこと言ってたっけ……?)

 そんなやり取りが交わされ、結局は「これ以外はムリなの! きつい! お願い!」と懇願するレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)が折れる形で、二人は超絶レロシャン輸送車を駆り、いざという時の撤退の足とならんとしていた。
 ただ、これはこれで、『本当に困った時にはここまで戻ってくれば、安全に撤退することが出来る』という一種の支えになっており、レロシャンの弱気な面とは裏腹に、頼もしささえ感じさせるものになっていた。

(私は、イナテミスに関しては、精霊塔の建設と塔への魔力付与しか手伝えていない。
 だがそれでも、私なりに思い入れはあるからな。絶対守り切るぞ!)
 後方にそびえるであろう『イナテミス精霊塔』を思いながら、透玻・クリステーゼ(とうは・くりすてーぜ)が迫る敵集団へ駆ける電撃を見舞う。空間を割いて走る電撃は、複数の魔族を貫いて行動不能に陥らせ、抵抗力を奪う。
「微力ではありますが、私も遺跡防衛に参加させていただきます」
 透玻が魔法を撃ち終わり、次の魔法の詠唱をしている間、璃央・スカイフェザー(りおう・すかいふぇざー)が進み出て魔法の影響から逃れた魔族と切り結ぶ。
「速やかにお帰りください……といっても、恐らく無駄でしょうね!」
 璃央の繰り出す二連撃で、鎧と兜を吹き飛ばされた魔族がその場に伏せる。
「璃央、下がれ!」
 透玻の声が響き、声の通りに退いた璃央のいた場所を、二色の炎が塗りつぶしていく。
「何一つ、破壊されてなるものか……ここで倒れてもらう!」
 炎の直撃を受けた魔族が悲鳴をあげながら地面を転がり、後にぷすぷす、と煙を立てて倒れ伏す。二人は互いに連携し合いながら、迫る魔族をウィール遺跡に近付けさせまいと奮闘する。


「ふんふん……え? こっちが劣勢? うーんおかしいなー、ナベたんと合流出来たらこっちの勝ちだと思ったのになー。
 ……え? ナベたんいないって? どこかでお昼寝でもしてるのかな?」
 軍に戻ったアムドゥスキアスは、伝令役の魔族から状況を知らされ、思った以上に魔族側に不利になっていることに意外といった表情を浮かべる。

「あ、アムくんだー」
「アムくんだー」
「やっほーアムくーん」

 そこに、噂していたナベリウスがある意味でようやく合流を果たす。
「……うわ、ナベたん、随分とひどくやられたねー」
「うん、なんかね、すっごーくつよいニンゲンいたー」
「ヨロイもいたー」
「でもたましいはとったー」
「……うーん、よっぽど強敵だったみたいだねー。身体の方はまあ、そのうち治るとして……服どうしようか」
 ナベリウスの言葉を聞いたアムドゥスキアスが、うーんと考える仕草を見せると――。

「馬鹿野郎! たとえ悪魔でもパンツを穿かない事は俺が許さないぜ!
 ……そしてたとえ悪魔のパンツでも、全て俺のものだぜェ〜ヒャッハァー!」

 ナベリウスがパンツを――それどころか何も身に付けてなかったが――穿いてないのが気に入らなかったのか、はたまたちょうどいたのがロリショタ魔神だったからか、南 鮪(みなみ・まぐろ)ジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)を連れて現れる。
「わたしには全て判っている。さあ魔の子らよ、そなた等も愛と救いを求めるのであれば、わたしの内に手を出すがよい」
 何を悟ったのかは知らないが、ジーザスが両手を広げ、魔神たちの前に進み出る。
「ねーねーアムくーん、これのたましいでわたしたちのふくつくってー」
「つくってー」
「つくってー」
「オッケー、じゃあそうしちゃおうー」
 言うが早いか、アムドゥスキアスがジーザスの身体から魂を抜き取って、ちょちょいのちょい、でナベリウスの服――というよりは、幼児が着る下着のようなデザインだったが――を作り上げ、三人はそれを着る。
「ま、一人の魂じゃせいぜい、こんなもんかなー。……そうそうそこの人間、あの服、ちょっとやそっとの攻撃じゃ破れないようになってるけど、破れちゃったらキミのパートナー死んじゃうから、頑張って守ってねー」

 まるで磔にされる格好で、安らかな表情で目を閉じるジーザスの魂は、ナベリウスの服になったのであった。
「じゃあ、今日はもう帰ろうか。色々と楽しめたしね♪」
「うん、そうしようー」
「そうしようー」
「そうしようー」

 まるで遠足に行った帰りのような雰囲気で、アムドゥスキアス軍とナベリウス軍は、世界樹クリフォトへと撤退を図る――。