空京

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ

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魔神バルバトス 2

「あらあら……なかなか面白いことになってるのね〜」
 妖艶に笑いながら、トーフーボーフーとバイラヴァの戦いを眺めていたバルバトスが言った。
 まるで宙に椅子でもあるかのように、彼女は空中で腰をかけて、観客さながらの心持ちで戦いを見守っていた。その視界に映るのは、己がバルバトス軍とカナン軍が交戦し合う光景。人が一人死ぬたびに、クスッと楽しげな笑みが漏れる。
 と――視界の隅で、トーフーボーフーとバイラヴァが、ともに大地をえぐって大破するのを確認した。
「あら? もうちょっとやってくれると思っていたんだけれど……期待はずれだったのかしら? …………まあいいわ。フフッ……魂ちゃんはどこにありますか〜」
 ふわっと飛び立って、彼女は大破したトーフーボーフーへと向かった。



 ペガサス――ナハトグランツ
 宵闇の輝きの意を冠する名のそいつは、『シャーウッドの森』空賊団に協力するワイルドペガサスの長である。そして、そんな誇り高きペガサスを駆って戦場の空を飛ぶのは、フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)だった。
「うおおおぉぉっ! 邪魔だああぁ!」
 天使のような翼をもったバルバトス軍の魔族相手に、ハルバートを振るう。天馬乗りが使いやすいように長さを調整されたそれは、見事な軌道で敵を切り裂いた。
「ちっ……敵も動きが早いな」
「どいてください、フェイミィさん!」
 自身の翼で空中を飛び回る敵に翻弄されていたとき、外部通信の声が聞こえてきた。とっさにフェイミィが避けると、それまで彼女がいた空間を貫いて、魔力を凝縮させたキャノン砲が敵を吹き飛ばす。振り返るとそこには、火村 加夜(ひむら・かや)の乗るアクア・スノーがいた。
 肩にかついで構えられているマジックカノンの射出口には、青白く発光する魔術印が描かれていた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかな。助かったぜ」
 フェイミィと一緒に体勢を立て直し、加夜は次なる敵へと軌道を向けた。
「ノア、行きますよ」
「はいはーい、任せといてぇ」
 サブコクピットのノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)がのんびりした声を返すのを耳にして、加速する。敵の上空へと飛びあがり、相手の後ろを陣取った。
「はああぁぁっ!」
 その手に握られるは魔法の投げ矢。
 魔力に満ちた投げ矢は投下されるとともに閃光となり、轟音を発して敵を貫いた。そしてそのときにはすでに、アクア・スノーの手にビームサーベルが握られている。ダブルビームサーベル――両の手に握られた光の剣は、交錯の際に敵を切り裂いた。
 フェイミィも混じり、ペガサスとイーグリット・アサルトは互いに旋回しあって敵を倒していく。だが……敵の手は、二体だけの手に負えるものではなかった。
「んも〜! どんどん増えていくよぉ! このままじゃやばいって、加夜ぁ」
「どうしましょう……フェイミィさん」
「せめて、援軍さえあれば……」
 次々と現れる魔族たちに、徐々に空域を制覇されていくフェイミィたち。
 ――一機の機影が敵陣へと突っ込んだのは、そのときだった。
「……!?」
「あれは……スプリングっ!?」
 加夜が思わず声を発した。
「空中戦はこっちの得意分野だ! 見とけよ!!」
 敵陣の中を突貫し、高速機動で風となって飛翔するのは、まさしく和泉 直哉(いずみ・なおや)の操るイーグリット――スプリングに他ならなかった。と、いうことは……。
 予想した通りというべきか。スプリングに続いて、葛葉 杏(くずのは・あん)の操るコームラントが飛び出してきた。スプリングのクラスターコントロール技法にはかなわぬものの、その重圧感溢れる大型ビームキャノンが、敵陣の中心を捉える。
「早苗! 準備はいい?」
「ば、ばっちりです!」
「魔族がなによ、これでも喰らいなさい!」
 サブパイロットの橘 早苗(たちばな・さなえ)が軌道を調整。杏の気合の声とともに、キャノン砲の光粒子が敵を貫いた。光の橋のようになって天空へと奔ったビームキャノン。それが消失すると、今度はあらかじめ準備していたミサイルポッドを射出する。
「後方退避! 弾幕を張るわよ!」
「ちょ、早……っ!? 結奈、間に合うかっ!」
「な、なんとか!」
 慌てて、直哉は妹でもありサブパイロットでもある和泉 結奈(いずみ・ゆいな)に呼びかけた。スプリングは軌道を変えて、一気に上空へと飛びあがる。その直後、背後でミサイルポッドの無数の爆音が鳴り響いた。
 まったく、結奈のクラスター調整が間に合っていなかったらどうなっていたことか。半ば鼓動の早くなった心臓を抑えつつ、妹の技術に感謝するところだった。
 で、ある。
「杏!? 無茶苦茶しすぎだろっ!」
「これぐらいはしないと援護とは言えないでしょ? 間に合ったんだからいいじゃない」
「……あのなぁ」
 マイペースもいいところで、杏はむしろ楽しげかつ当然のように言った。直哉は呆れつつため息をつく。確かに、敵の進行を食い止める必要があったため、あの判断は致し方ないが、間に合っていなかったらどうなっていたことか。
「だいじょーぶだいじょーぶ。結奈ちゃんならちゃーんと出来るって思ってたから」
「どういう理由だよ、そりゃ」
「…………勘?」
「おい…………」
 お互いにアサルトライフルで残された敵に攻撃しつつ、敵から距離を取る。結奈と早苗がお互いのパイロットを戒めた。
「に、兄さん、いいじゃない。とにかく無事に間に合ったんだから」
「杏さんも、こ、これからは慎重にやりますよね?」
「は〜い」
 杏が本当に納得しているかどうかは定かでないが、とりあえず返事を返したことで直哉も渋々引き下がった。それに、それよりも大事なことがある。
 戦いを続けながらも、二機が後退してくるのを確認して、加夜とフェイミィは確信する。彼らがここにいるということはつまり――そのとき、ミサイルポッドの爆発から逃れていた魔族が、背後からフェイミィを襲った。
 が、瞬間。
「フェイミィ!」
 ペガサスを駆ったリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、敵の翼を切り裂いた。
「ごめん、待たせたわ!」
 彼女はフェイミィの隣に並んだ。先ほど魔族を切り裂いた、フェイミィから借り受けているオルトリンデ家の聖剣が、輝きを増しているように思えた。それは、久しぶりにあった彼女との絆の象徴か。
 驚いたように口を半開きにしているフェイミィを見て、リネンは首をかしげる。
「どうしたの?」
「いや……まさかこんな形でリネンと再会するなんて、思ってもみなかったからよ。また助けられるなんて、情けねぇや」
「ふふっ……私たちはみんなで一つの空賊団、でしょ?」
 恥ずかしそうに頬をかくフェイミィに、リネンはくすっと笑ってみせた。
「それに、火村さんや、直哉や杏だって、力を貸してくれているわ。空賊団じゃなくたって、みんなで一つ。戦いは、まだまだこれからよ」
 リネンは勇壮な表情で剣を握りなおした。直哉たちの援護弾幕によって敵の進行は一時的に停止したとはいえ、全てが終わったわけではない。
 フェイミィの瞳に、光が宿る。
「だな……へへ……そうと決まりゃあ、滾ってきたぜ」
 彼女もまた、ハルバートを掲げた。援護のイコン部隊も足並みが揃ってきている。これこそが、反撃の機会だ。
 加夜がイコン同士の通信回線を開いた。
「直哉さん、同じイーグリット型のイコン同士、私たちは敵陣への突貫に務めましょう。杏さんは、後方援護をお願いします」
「アイドルに地味な役をやらせる気〜。ぶーぶー」
「……俺たちが集めた敵をキャノン砲で一気に殲滅できたら、むしろ花形だぞ?」
「ふふっ、アイドルスターにふさわしい仕事ね。まかされたわ!」
 単純な杏の操作に関しては、どうやら直哉が上手のようだ。加夜は苦笑するも、気を取り直す。ノアも気合を入れたようだった。
「サポートを任せてよ! 敵との間合いはちゃーんと計ってみせるから!」
「ええ……頼りにしてます、ノア」
 加夜の表情が、緩やかなものから決然とした凛々しきものに変化した。
 目標はバルバトス軍。空中戦の戦力は制限されているため、自分たちがここで食い止めなくては。そう、必ず。
「皆で取り戻した大切な場所を……壊させはしません」
「ああ、上等……! やってやろうぜ!」
 気合の宣告。二機のイーグリット型イコンが敵陣へと突入したのを確認して、杏はビームキャノンを構えた。
 フェイミィとリネンが、前進してきた敵を迎え撃つ。
「後ろは任せて、フェイミィ!」
「了解! ……せっかくつかんだ平和だ! そう簡単にぶち壊されてたまるかよッ!」
 制空権をかけた戦いは、まだ始まったばかりだった。