空京

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創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

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チェス・ボード

「相変わらず、気が滅入るような風景だな……」
ヘクトルがつぶやき、くすんだ鉄色の空に瞬く稲妻と、時折起こる黒い砂嵐の渦を透かし見た。視界に入るものは波打つ大地と、そちこちに突き出す、この砂嵐と落雷によってできた奇妙にねじれた岩塊だけだった。灰色の空と境すらはっきりしないような沈んだ色合いの大地。無彩色の悪夢めいた景色の中に、神話の怪物ケンタウロスが巨大化したような姿の2体のインテグラル・ナイトが斧を持ち、イレイザーを従えて佇む。その向こうを透かし見ると、焔を纏った巨大な剣を持ち、両側にナイトを従わせたイレイザー・ビショップが鎮座している。
「あの向こうにクイーン、か。
 ……ナイトとビショップを葬り、クイーンに迫る。命を賭けたチェス、だな」
味方側の本隊からやや離れた位置にはウゲン・カイラス(うげん・かいらす)のカスタマイズされたファーリスの姿もあった。
「そして……ウゲン……か」

 最前線、イルミンスールの面々がが中心となり編成された魔法部隊が、サイズの小ささを逆に生かし、姿を隠しつつ静かに岩塊の影から影へと移動し、イレイザーを中心としたインテグラル・ナイトらの元へ散開し配置が完了した。北ニルヴァーナのチェス盤に配置されたイレイザー、インテグラルたちの正面と側面には、彼らの目を魔法部隊からそらす為にも、天御柱、薔薇学が中心となったイコン部隊が、距離を置いて控えていた。
「あくまでも魔法部隊はかく乱が目的だ。イレイザーにしろナイトにしろ、普通の攻撃が通るものではない。
 ある程度の混乱を招けば、攻撃部隊が動きやすくなる。撤退路を確保しつつ実行するように」
ヘクトルからの指示が入る。

かくて随所でイルミンの生徒たちを中心とする魔術や各種トラップによる派手なかく乱攻撃が開始された。

「魔法で敵をかく乱、ねぇ……。ようは囮だろう? そりゃあイコン殿が主役だものねぇ。
 ……癪に障るが、思いっきり魔法扱うチャンスをそうそう逃したくはないんでねぇ」
ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)が空飛ぶ箒に腰掛け、紅の魔眼とギャザリングヘクスを使用して己が魔力の最大効果を高める。その皮肉っぽい言葉とは裏腹に、純粋に限界まで魔法攻撃を使用して暴れられる喜びもまた宿っている。
「面白くとも何ともないが、せめて憂さ晴らしに思い切りやらせてもらうよ?」
小型飛空艇に乗り込むパートナーの平賀 源内(ひらが・げんない)に向かい、皮肉っぽい声をかける。
「源内、お前さんにはそんなに期待してないから安心なさいな」
「ま、ワシもたまにはちぃっと本気っちゅーもんを見せんとなぁ。
「囮……ちゅうても、無駄に死ねと言うとるわけじゃなかろう?」
はしこさを生かし、ノアは箒を駆りながら、イレイザーらの間隙をすり抜けつつ、サンダーブラストを放つ。青白い雷撃がそこかしこで炸裂し、落雷に似た大音響を轟かせる。 
「どれ、ワシもそろそろカッコいい所見せんとのう……行くぞ!!」
ノアの動きをモニタリングしつつ、彼女の身に危険がないよう、ノアに注意を惹かれたイレイザーの後方にサンダーブラストを放つ。
「しかし……ノア。生身でそこまでイレイザーに接近するとは……。
 お主、何を考えてるか知らんが……ちぃと無茶じゃないか?」
ノアは気に留める様子もなく、高い機動力を生かして敵中を駆け抜けてゆく。
「うわ、単体であれはムチャだろおい」
瑞江 響(みずえ・ひびき)のパートナー、アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)がノアの様子を見つつ叫ぶ。物陰から魔法攻撃に気を取られたイレイザーの隙を突いて飛び出し、トラッパーで忙しくそこここに罠を仕掛けていた響がそちらをちらりと一瞥した。
「まあ、そのためのトラップの数々だ。
 少しでもインテグラルの隙を作れば撤退しやすいだろうし、イコン部隊も動きやすくなるだろう」
「そうだけどよ……あ、罠への魔力配給はばっちりだからな!
 ……いざという時は、俺様が派手に魔法を放てば、インテグラルの目をこちらに向けられるよな?」
「ああ、そこかしこでの魔法攻撃に、イレイザーどもは大きなダメージはなくとも気は取られてる。
 囮なのか本攻撃なのかの区別はつかんだろうしな」
かなり広範囲を短時間で動き回り、トラップを次々仕掛けてゆく。仕掛けは派手に光や火花が散り、轟音が響くもので、まさに気をそらすためだけに特化したものと、ダメージを考えて作られたもの半々だ。響は黙々と敵の隙を突き、トラップを仕掛けてゆく。魔力を供給しながら、アイザックはそんな響に見とれていた。
「響……かっこいいぜ。本当は、俺様は響と二人がいいが……今はそんな事言っている場合じゃないしな……。
 っと、いかんいかん、今はそんなことを考えてる場合ではないっ! 絶対皆で勝って帰るぞ! 帰ったら祝杯だ!」
いつの間にか戻ってきていた響がアイザックの腕を掴む。
「仕掛け終わった。俺たちがウロチョロしているとイコン部隊の邪魔になる。引くぞ」
響は疾風迅雷を使い、アイザックともども速やかに待機場所まで引き返す。

 藤林 エリス(ふじばやし・えりす)はやる気満々だった。空飛ぶ箒シュヴァルベの高速飛行で捕捉されないようすばやく動き回りつつ、さーちあんどですとろいで次々別のイレイザーをロックして炎撃を見舞う。
「魔法少女の新たなる力、究極変身アルティメットフォームの威力を見せてあげるわ!」
「エリスちゃんがんばってー!!」
アスカ・ランチェスター(あすか・らんちぇすたー)は激励を送ってエリスの支援を行ないながらも、周囲の契約者たちのために震える魂を使用して支援を送ることも忘れない。
「さーあここからが本番よ」
エリスはアルティメットフォームを使用し、レオタード風コスチュームの戦闘服に変身した
「愛と正義と平等の名の下に! 人民の敵は、革命的究極魔法少女アルティメット☆ えりりんが粛清よ!」
周到に準備されたシューティングスターが周囲のイレイザーたちに降り注ぐ。
「魔女っ子アイドルあすにゃんも、みんなのために頑張って歌っちゃうよ!!」
アスカが近くにいた歌姫2人を誘い、ハーモニックレインの歌声をシューティングスターにかぶせてくる。触手や体表面にダメージを受けたイレイザーが苛立たしげに咆哮する。
「そんなにダメージはなくとも、視認しづらい敵からの攻撃はイレイザーとはいえ苛立つみたいね」
魔法によるかく乱攻撃を行なう契約者たちの避難路確保と保護のために中間地点で待機中の真紅のウルヌンガル、アカシャ・アカシュのコクピットで、周囲の様子をモニタリングしながらグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が呟く。シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)が彼らを透かし見て、依然として彫像のように動かないインテグラルビショップを見やって肩をすくめる。
「さすがに大物はこの程度では全く動きがないようですね」
「そうね。魔術の詠唱と集中のスキのカバーは、そろそろ退避のころあいだから、もういいかしら?」
ウルヌンガルは支援の姿勢から、その巨体に見合う大型のシールドを構え、防御の態勢をとった。
「シィシャ、もし直撃を食らったとして、どれくらい耐えれらる?」
イレイザーとインテグラルナイトを見ながらグラルダが訊ねる。防御性にも優れた機体である。さすがに一撃で落ちることは無いだろうが……。
「何が何でもアタシの後ろに攻撃を通すわけにはいかないからさ」
空洞に見えるコクピットの周辺に浮かび上がるかしかされた魔法陣がシイシャの周囲を取り巻き、そのとりどりの光が冷静なシイシャの顔を照らす。
「耐えられるのはイレイザーの攻撃と仮定して4回です。それ以上の保証は出来ません」
グラルダの期待する返答は希望的観測ではない。誰よりもそれをよく飲み込んでいるシィシャは、淡々と事実を伝える。
「なら上等」
グラルダは操縦桿を握り締め、きっと正面を見据えたまま、グラルダは唇を舌で湿らせ、方頬に皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「アタシが“護る”と宣言したのよ。この場に居る者、全ての不安をアタシが背負う!
 追撃があるようなら、盾となる!」
天御柱、薔薇学が中心となったイコン部隊が、苛立ち、隙のできた最前線のイレイザー、インテグラルナイトの混成部隊めがけて発進してきた。