空京

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創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

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ビショップとの戦い

 先ほどからクェイルセレネのイコンセンサーで戦場の様子を見ていたサイアス・アマルナート(さいあす・あまるなーと)が言った。
「やはり新型機の覚醒でも装甲がやっとか。クエス、ヘクトル隊長にヴィルサガの使用についての確認をもう一度。
 ほぼ最終兵器といっていい力だ。使うタイミングを双方が把握しておいたほうがいい」
サイアスの指示を受け、クエスティーナ・アリア(くえすてぃーな・ありあ)がヘクトルに通信で呼びかける。
「ヘクトル隊長、ヴィルサガの使用についてですが……」
「あれは、いわば切り札だ、辛いだろうがもう少し静観していてくれ。こちらも戦況は見ている。
 切るべきときがくれば指示しよう。通信を開けておいてくれ」
「わかりました」
サイアスがクエスティーナに向き直る。
「クエス、まだこちらは試験的な攻撃段階だ。ヴィルサガを使うタイミングだが……。
 こちらが全力で攻勢に出ての止めか、そこまで行かなくともヤツの戦意を喪失させるときか。
 考えたくはないが、全員が窮地に陥るような状況……例えば新たな敵集団の出現時の退路の確保か、だろう」
「切り札……そうね」
「クエス、前にも言ったように私達の願いは同じだ。それは心に留めておいて欲しい」
サイアスはモニターを真っ直ぐに見たまま言った。2人は前線の最後方で、イコンのモニターに映し出されるインテグラルビショップの姿を見つめていた。
 ヘクトルから対ビショップ部隊に連絡が入った。
「第三世代機による装甲の破壊に成功。次はイコンによるかく乱攻撃の中、熾天使の力でヤツを叩く。
 その後ヴィルサガによる攻勢となるか、退避の時間稼ぎとなるか……未だビショップのパワーは未知数だ。
 全員十分に注意して対応に当たってくれ。以上」

 御凪 真人(みなぎ・まこと)セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)に言った。
「イコンによる攻撃のなかでなら、生身の人間は盲点になるかもしれませんね。
 一撃が精々でしょうから奇襲に賭けてみましょう」
「コイツを何とかしないかぎりダメなのよね。だったら全力全開で行ってやるわよ、任せて」
同じくセラフィックフォースによる攻撃を仕掛ける予定の涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)も、その傍で待機していたパートナーのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)の肩を軽く叩いた。
「前回イコンで戦ったが全く歯が立たなかった。この強敵に太刀打ちするには熾天使の力を使うしかないようだ」
前回2人は熾天使の力を使用しなかった。巨大な力は時として身を滅ぼす可能性がある。力に飲み込まれては、というためらいがあったためだ。クレアは前回の戦いの最中にそのパワーを感じ続けており、その後力を制御する術も身につけた。2人で1の強力な力を使うということは、相互の信頼と絆が必要。それがあれば力に使役されることにはならないだろうという2人の決断だった。
 熾天使の力を使うメンバーの護衛を引き受けたジェファルコンセレナイトのコクピットで、端守 秋穂(はなもり・あいお)ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)に作戦行動についての確認を取っていた。
「遺跡探索を行う方々の邪魔をさせない為にも、ここでインテグラル達を倒しておきたいところ。
 今回は護衛しながらの牽制攻撃、攻撃の為の位置取りよりも敵の攻撃の回避を優先して動いてね。
 万一あの剣が遺跡に当たったりしたら遺跡ごと皆が巻き込まれるかもしれない。
 遺跡のほうにヤツが動かないようにしないと」
「うん、わかった。敵の攻撃を見て回避するのを最優先にするよー。
 でも、できそうな時には攻撃の為の位置取りもしておくね」
「それでいい。じゃ、行こうか」
セレナイトは発進した。他にも何十機ものイコンがビショップに対し遠距離、近距離での支援攻撃を行なっている。ほとんど効果はないが、本命の攻撃から注意をそらす役には立っているはずだ。ヘクトルは硬い表情でビショップを迎え撃つ部隊を見つめている。真人はセルファとともに予定していた位置についた。
「最悪こちらへの迎撃や防御に意思を奪えれば隙を生む事が出来ます。当たれば良し、当たらなくともも良しです。
 敵上方から一気に突撃、今出来る全力の攻撃を叩き込みましょう」
セルファはにいっと笑った。
「良いわよ。やってやろうじゃない!」
涼介はクレアとともに、岩陰に立った。
「制限時間は30秒。召喚獣バハムートを離れた場所に呼び出し、攻撃に参加させます。
 その間にもう少しビショップに接近、光の大天使で一太刀浴びせましょう」
「うん、わかったわ」
ビショップの周囲は絶えず爆炎や光点にが炸裂していた。その巨体の足元には、剣の炎が移った岩礫やミサイルの破片などが山をなして、低い炎のカベのようなものが出来上がっている。涼介のバハムートがその上を飛翔しつつ炎を吹いたとき、涼介とクレアは祈った。
「我が力は未来を拓く光。その光を以って大いなる災いを討たん」
「私の中にある熾天使の力よ、我らに邪悪なる者を滅する光と力を与えよ!!」
真人がセルファを促す。
「セルファ、お願いします」
「行くよっ!」
2体の大天使が召還され、近距離攻撃をしていたイコンが即座に退避行動に移る。熾天使の一体が祈るようなしぐさとともに光の矢を作り出し、翼を広げるとともに無数の矢をビショップめがけて降り注ぐ。セルファの大天使は高く舞い上がり、巨大な光の槍を手に龍飛翔突の要領で上空から疾風突きを撃ち込んだ。先の攻撃でだいぶ痛んでいたビショップの胸部装甲が大きく剥がれ落ちた。全身の装甲にも光の矢によって無数の穴が開く。そこここから黒い霧のような瘴気が漏れ出すのを、再生する肉芽が塞ぐ。大天使はすうっと消え、力を使い果たしたクレアとセルファはパートナーに抱えられてビショップの元を離れようとする。それに目ざとく気づいたビショップは大きく吼えて炎の剣を高々と振り上げた。
「危なああああいっ!!!」
ユメミが絶叫する。
「覚醒ッ!!!」
秋穂は迷いなく覚醒を作動させた。淡い機晶エネルギーの光が機体を取り巻き、そのままセレナイトはビショップの剣の軌道上に突っ込んだ。
ガキィィーーーン!!
凄まじい火花と炎が飛び散る。セレナイトの背部の大きな凹みと傷と引き換えに、剣戟は逸れた。すぐにイコン部隊がセレナイトと契約者たちの救出のために先ほどよりも激しい攻撃を開始する。魔法攻撃によるかく乱部隊の一部のメンバーも、遠距離からの攻撃が可能なものがいくばくか参加していた。
「やはりネックはあの剣だな」
強攻型・応龍バロウズのコクピットで牽制部隊の一人、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はつぶやいた。
「前回の雪辱だ。もはや抑え込もうとか生ぬるい事は言わないっ!
 目的、あの剣を奪う事だ。奪えたならその剣を使って攻撃してやる」
ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は不安げに、それでもバロウズの体制を攻撃型に調整している。
「うぅ、大丈夫ですかね? ともかく全力でフォローはしますよ」
バロウズは爆撃形態のまま、ビショプの露出した胸部に艦載用大型荷電粒子砲を打ち込み、すぐにホリイがソニックブラスターを連続して撃つ。だが目立った効果はない。甚五郎は機を強攻形態に変形させ、接近戦に持ち込むことにした。その間にも遠距離、中距離からの友軍の砲撃が絶え間なくビショップの巨体を打ち付けているが、目に見えた効果は上がっていないようだ。
「前回のビショップの戦闘力からシュミレーションは繰り返してきた。後はどこまで通用するか、だな」
甚五郎は一人ごち、メタルクローでビショップの剣を持つ手を強打し、ついでファイナルイコンソードを叩きつけた。だがビショップの腕は微動だにしない。甚五郎は歯を食いしばった。
「くそっ!」
ビショップの剣がうるさそうにバロウズをなぎ払う。
「おおっとぉ」
ホリイがすかさず防御アビリティをすべて開放し、バロウズはかろうじて直撃を逃れた。
 源 鉄心(みなもと・てっしん)はスレイプニルに騎乗し、ひとところに留まらないよう注意しながら戦場を駆けていた。同道のティー・ティー(てぃー・てぃー)がイコン部隊に、荒ぶる力や、戦乙女の導きを使って戦闘力の底上げを図る。
「周りの動向を見ても、前回よりも厳しそうだな……」
鉄心がため息をつく。
「でも、クエスティーナさんがヴィサルガを使うんだよね?」
「どう転ぶか未知数だな。装甲は破壊できたが、果たして……」
鉄心の言葉が宙に浮いた。クレア、セルファらを収容して退避してくる大型飛空挺を3体のイレイザーが狙っている。
「拙い! ティー!」
それだけでティーには十分だった。即座にセラフィックフォースを作動させる。巨大な光の天使が現れた、大天使は光の剣を掴んで大きく振った。イレイザーはバターのように両断され、無彩色の大地に内臓と体液をばら撒いた。そのまま大天使はビショップの方へ向かい、剣を振るった。それを見たナイトがビショップの傍に駆け寄り、斧を振り回す。ティーと鉄心の大天使は大きく後方にとびすさりそのまま薄れて消える。ヘクトルが叫んだ。
「イコン部隊はそのままビショップ周辺から退避、遠距離ならびに中距離攻撃を目いっぱい浴びせかけろ!」
鉄心とティーに救われた飛空挺が、そのまま2人を収容し、すばやく前線を離れた。
「今だ! ヴィサルガを使え!」
ヘクトルが吼えた。
「ホエールギフトを……召喚、します」
クエスティーナが頷き、目を閉じる。時空転移を伴い、あれだけ巨大なものを出現させるのだ。サイアスが召喚時の衝撃からクエスティーナを守るため、彼女の後ろに回り、そっと肩に両手を置く。
「私のクエスの願いを聞き届けてくれ!」
「この秘宝は皆の為の力……お願い……お願い……、クジラ船長。どうか……皆の為に力を貸して下さい!」
二人の祈りが一つとなり、空中ににじみが生じた。光輪に包まれたクジラ型ギフトが歌うような鳴き声とともにその巨体を顕し、ビショップとその傍らのナイトめがけて正視できないほど明るいエネルギー波を撃ち込む。再び微かな声とともに、ギフトは現れたときと同じように空間のにじみとともに姿を消した。まばゆい光が消えた後、ナイトは跡形もなく蒸発していた。大地を揺るがすような咆哮が響いた。ビショップは生きていた。着弾の瞬間、直撃をかろうじて避けたのだろう。だがさしものビショップも砲撃が当たった部分――剣を持たない側の鎖骨あたりから先と、左側の翼――が丸く抉り取られたように消えてなくなっていた。傷跡には炭化したような黒い跡だけが残っていた。