空京

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創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

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インテグラル・ナイトを倒せ1

 量産型を念頭において今回試運転を兼ねて数機が投入された第三世代イコンのプロトタイプに機乗し、辻永 翔(つじなが・しょう)アリサ・ダリン(ありさ・だりん)はやや離れた場から戦場の様子を窺っていた。
 薔薇学、天御柱中心となったイコン部隊が、そこここでイレイザーに先制攻撃を食わせている中、インテグラルビショップは後方に位置し依然として動きはない。その脇に控える2体のナイトも同様だった。イレイザー部隊の少し後方にいるナイト2体は、降りかかる火の粉――主にイコンの遠距離砲撃やオートトラップによるもの――を鬱陶しそうに手にした斧でなぎ払っている。クルキアータゾフィエルのコクピットからフランチェスカ・ラグーザ(ふらんちぇすか・らぐーざ)は翔の機体を見つめていた。
「第三世代……完成していましたのね。辻永代表はビショップ狙いでしょうね。
 天学の代表さんには、第三世代機の真価を発揮して頂きませんと……」
インテグラル・ナイトの1体にぎりぎりの射程距離からバスターライフルを構えて狙いをつける。カタリナ・アレクサンドリア(かたりな・あれくさんどりあ)はそんなフランチェスカを見て嘆息した。
「またフランは無茶をしようとしてますね……」
「この攻撃でこちらに注意が向いて、向かってきたら上々。機動力をフルに生かして回避します。
 味方の戦闘区域から離れてからが本番ですわ。ナイトを単機で倒せることが示せれば士気も上がるでしょう」
フランチェスカは荒々しく言って、ナイトを睨む。
「引き付けるのはいいですが、周りが見えなくなってはいけませんですよ」
回避上昇と高速機動のスキルを作動させ、カタリナが言う。頭部を狙った一撃に、うるさそうにナイトは頭を振ると、こちらに向かって高速で突き進んできた。
そこに御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)の大型飛空艇オクスペタルム号のミサイルポッドによる援護射撃が炸裂した。
「ニルヴァーナで頑張ってるみんな、パラミタで頑張ってるおにーちゃんたちの為にも、わたしも頑張るよ!」
御神楽夫妻は、パラミタ横断鉄道の実現のため現地を離れられない。そこで単独ニルヴァーナに向かうノーンの援護のため傭兵団――ドッグズ・オブ・ウォー――を雇っていたのである。ゾフィエルの機体が突っ込んでくるウシの動きを翻弄する闘牛士のように急旋回する。
「今よっ! 覚醒ッ!! ……リミッター解除!! 」
カタリナは即座にヒロイックアサルトで底上げを図る。エネルギーの全てを注ぎ込み、突っ込んでくるナイトにファイナルイコンソードで斬りつける。ナイトの胸部にめり込むはずだった剣戟は、敵の思ったよりすばやい動きによってかわされ、右肩に傷を負わせるに留まった。
「なにっ!!?」
すぐに飛んできた巨大な斧による一撃をかろうじてかわす。ナイトの斧はそばにあったイコンほどの大岩――鉱物並みの強度のある岩である――に命中し、岩は華奢なガラス細工のように粉々に砕け散った。恐ろしいパワーである。ナイトは斧を再び振り上げ、ゾフィエルに向き直る。再度振り上げられた斧の攻撃は、まっすぐにゾフィエルの機体に向かってくる。そこに横合いからオクスペタルム号突っ込んできた。ゾフィエルの危機と見てスルガシールドの防御力にかけ、撃墜覚悟で艦首ドリルで突撃してきたのである。ゾフィエルは辛くも虎口を逃れた。ナイトの斧が大型飛空挺に叩きつけられると同時に、さきほどゾフィエルが傷つけた箇所に船首ドリルが食い込んだ。ナイトは怯み、斧を反対の手に持ち替えて咆哮する。再び斧を振り上げ、今度は大型飛空挺を狙って斧を叩きつける。重い斧は巨大な飛空挺に深く食い込み、飛空挺の強度とシールドの効果もあって今度はナイトは即座に斧を引けなかった。ノーンは激しく揺れる船からの脱出を、傭兵たちに呼びかける。
「ゴメンね、オクスペタルム号!」
「ノーン様、お急ぎくださいっ! 危険です」
近くで側面支援を行なっていた本郷 翔(ほんごう・かける)のファーリスセネシャルズハイが、すぐにノーンらの収容に回る。ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)が急ぎ本郷の指示に応じて機体を安定させ、振り回され激しく揺らぐオクスペタルム号に接触しないぎりぎりの距離から、飛び降りてくる乗務員たちとノーンをすくい上げる。
「ソール、急ぎここを離れますよ」
「ああ、わかってるって」
ナイトが斧を引き抜こうと、下肢で飛空挺を抑え両手で斧を掴んで引いた。ぎしぎしメリメリと嫌な音がして、オクスペタルム号は踏み潰された。セネシャルズハイがゾフィエルの撤退を助けるため、ソールの攻撃スキルでけん制を行なう。周辺にいたイコンからも支援攻撃が入り、2機のイコンは無事ナイトのもとから撤退した。
「皆さんご無事です」
本郷が丁寧に安否を気遣う無線に応える。
「私どもが補佐し続けれられれば、皆様がより大きな力を発揮できると考えております。
 皆様の総力で持って勝利に至れるように全力を尽くしてゆきたいと思います」
ソールは一種の極限状況から開放され、ため息をつく本郷の傍による。
(やること自体は、俺が普段やっていることだから、気分的には変わらんが……。
 まあ、機械相手は殆ど初体験だけどさ。俺としては、翔が喜ぶ笑顔が見られればそれでいい)
「お疲れ様でした。お礼を言わせてください、ソール、ありがとう」
「ん? 礼? そうだなー。身体で払ってくれても良いぞ?」
即座にいつもどおりの反撃がくるかと予想して身構えたソールだったが、本郷は疲れたように笑っただけだった。
「……翔、今日は頑張ったな。もう、俺の腕の中で休んでいいんだぜ?」
「馬鹿なことを言わないでください……」
本郷が嘆息混じりに言って、ディスプレイを見やった。
「まだ、仕事は終わっていないのですからね」

 薔薇学生大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が機乗するのファーリス、バンデリジェーロは、天御柱の高崎 朋美(たかさき・ともみ)ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)ペアののジェファルコンウィンダムと協力してのナイト戦にあたっていた。事前の打ち合わせで、今回テスト投入の第三世代機への試乗が決まった葛葉 杏(くずのは・あん)橘 早苗(たちばな・さなえ)の援護に尽力することになっている。彼らは今、フランチェスカとノーンの攻撃で手傷を負ったナイトを取り巻くように位置していた。
「アレに第2世代イコンの攻撃がどの程度通るかわからないが……。
 薔薇学にやっと整備された第2世代イコンのお披露目的な戦いにもなるから無様な戦い方はできひんな」
泰輔が呟くと、呼応するようにシマックが言った。
「今まで開発とか設置とか、後方支援とかメインできたけど……今回は無理言わせてもらっての出撃だ。
 俺らもベストを尽くす!」
讃岐院が薄い笑みを浮かべる。
「此度は高崎殿との連携、向こうが天学らしい戦闘を見せるなら、こちらは薔薇の学舎に相応しい戦いを見せるのみ」
「片方が攻撃に当たる時は片方が防御に専念、を交互にいきましょう。
 天学生の意地とイコン乗りの誇りを見せてあげるよ! 好機があれば合わせ技で行こう!」
朋美の力強い声が入る。泰輔が応える。
「ウゲンはナイトを一撃で葬っていたが、アレはフツーの人と違うから。
 僕らは普通にコツコツとダメージを与えて、その合計で敵を倒すことを考えな」
「堅実に、ね。わかってるよ、大丈夫」
朋美が言った。
第三世代機のコクピットで、杏は意気揚々だった。
「テストパイロットにしてもらう希望がかなった以上、それに恥じないだけの成果を挙げないとね!
 とはいえ、初めて乗る機体だし、貴重な一機。とりあえず墜ちないように気をつけて戦うわよ早苗!」
「慣れないせいもあるけど、高性能なだけあって、操作に癖がありますね〜。
 とりあえずこちらの射程ぎりぎりの位置まで移動しますぅ〜」
補佐の早苗がのんびりとした口調で言い、すべるように機体を移動させる。朋美とシマックは精神感応でシンクロし、朋美はシマックのイメージしたイコンの位置制御に集中する、
「インテグラルが、何によって外界の様子を察知しているのか、未だに定かでない気はするのだが……。
 頭部がその担当をしているような動きをしているよな」
シマックが言った。杏の元気な声が、通信機を通じて響く。
「アタマを潰せばほぼ停止するようだし、アタマ狙いで行くよ!」
「了解。こっちは基本ヒット&アウェイで、本命の攻撃から気をそらすよ」
朋美が言い、泰輔も同意を示した。
3機のイコンはナイトを囲む形で接近してゆく。無論まっすぐにではない。上下に、あるいは左右に常に動きながら、ナイトの巨大な胴体部を狙って、まずは遠距離攻撃。ウインダムとバンデリジェーロのアサルトライフルが、連続してナイトに撃ち込まれる。杏の機体からは大型荷電粒子砲が発射されたが、目だって大きな効果はないようだ。
「第三世代機でもあんまり歯が立たないのか……」
シマックがあえぐように呟くと、泰輔が静かに言う。
「無理して僕らが倒さんでもええ。判るな?」
「そうね……」
朋美が頷いた。
早苗が機体を右に左にとナイトを翻弄するように移動させながら銃型機晶ブレードで切りつけ、その合間を縫うように泰輔と朋美の第二世代機がソウルブレード、新式ビームサーベルで牽制を担う。重症ではないが、あちこちから飛んでくる剣戟で無数の切り傷ができ、ナイトは苛立ち、斧を振り回す。肩に傷を負っているため、その動きはややぎこちない。それでもそれた斧が周囲の岩を砕き、大地を裂くさまは恐ろしい。決定打がないままお互いこう着状態がしばし続く。
「このままじゃ埒が明かない。必殺技を使う! 援護をお願い!!」
杏の声が通信機から飛び出してきた。ウインダムとバンデリジェーロが隙を作るべく、傷つけるより隙を作ることを目的にナイトの周りを回る。第三世代機が淡い光を帯びた。覚醒だ。杏は一か八かの駆けに出たのだ。
「この性能での覚醒なら、それなりの効果があるはずっ!」
第三世代機では、イコンを動かしているリアクターからエネルギーを供給して使用する。供給され続ける機晶エネルギーを圧縮し、チャージして放つ強力な溜め斬り。ただし発動までに時間がかかるのが難点だ。第二世代機による攻撃で時間を稼ぎ、パワーを溜め込んだ剣戟がナイトの頚部に向かって放たれた。損傷によって動きの鈍ったナイトに、覚醒のエネルギーと溜め斬りは効果があったようだ。頚部に深々と機晶ブレードが突き刺さる。地響きとともにナイトの巨体が転がり、もがくナイトの勢いに引きずられて第三世代機はそのまま横倒しに転がった。
「機体を立て直せるか?」
シマックの声がコクピットに響いた。
「ダメですぅ。このまま覚醒の効果が消えるまで動かないほうがよさそうですぅ……。
 私ではパワーがすごすぎて御し切れません〜」
ウインダムとバンデリジェーロが首の傷をさらに攻撃し、ナイトは動かなくなった。どうやら第三世代機の強力さは、使用者によっては諸刃の剣ともなりかねないようだった。