空京

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創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

リアクション



包囲網

「イコン退避のためにイレイザーに牽制砲撃! 効果はあまり考えるな。できることをする!」
ナイト戦のメンバー支援のため、前線のやや後方から支援砲撃を行なっている湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)の機動要塞土佐。その支援のために岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)山口 順子(やまぐち・じゅんこ)の搭乗するプラヴァー飛燕が周辺を哨戒している。
「一時避難場所としての今、土佐に沈まれたら、皆色々と困るからな」
伸宏が順子に言った。
「そうね……」
黒い砂塵の中をを順子はレーダー、赤外線、目視を併用しながら敵影、僚機ののチェックを行なっていた。
「伸宏君、2時の方向から敵影が接近中。速度はそう速くないわ」
「はいよ、了解」
飛行してきたのは1体のイレイザーだった。土佐の砲撃でぼろぼろになりながらも突っ込んでこようとするイレイザーめがけて飛行しながら、ビームアサルトを撃ちこむ。空中でよろけるような動きを見せたところに、レーサーバルカンを五月雨式に連射しながら、飛燕はすばやく旋回し、背面を取るとMVブレードでその翼に切り付けた。飛行用のパーツを奪われ、イレイザーはそのまま石ころのように落下していく。
「よーし、一丁上がり」
飛燕と土佐の支援のもと、先のナイト戦の第三世代機・プロトタイプを含め、イレイザー、ナイト戦で傷ついた機体などが退避してきた。高嶋が外部スキャンの指示を出しつつ、プロトタイプからのデータを吸い出す。同時に周辺の敵の展開なども時々チェックしていた。無論その専門の担当もいるのだが、このような非常事態の最、判断する人間が多いのはまずいが、各種データは何重かでチェックしてもやりすぎということはない。
「やはり、テスト機ということで今回は限界に近いほどさまざまな機能を搭載していますわね。
 その分、操縦難度も上がっているということに……」
高嶋がデータを見つつ亮一に言う。
「つまり、ある程度操縦技術がないと使いこなせないってことだな?」
「そういうことですわ。特に覚醒時の制御系等は相当難しいかと思われます。
 それと……現在のリアクター出力で戦闘を続けると、機体や武装の耐久が間に合いませんわね……ここも課題かと」
 整備デッキでは修理やサポートのメンバーたちが忙しく立ち働いていた。一機の軽微な損傷だったイコンが、修理を終え、再びイレイザーと刃を交えるべく飛び立っていった。
「傷ついた戦力をまた元に戻して戦いに行ってもらうのは心が痛みますが、これも契約者の責務。
 整備専門の方には及びませんが、限られてる時間の中で、出来る限り再出撃できるようにするのが勤めですねぇ」
堀河 一寿(ほりかわ・かずひさ)が次のイコンに向き直った。ヴォルフラム・エッシェンバッハ(う゛ぉるふらむ・えっしぇんばっは)は機晶技術と先端テクノロジー、機晶技術のマニュアルまで使いながらイコンをチェックしている一寿をちらりと見てから、降りてきた契約者のほうへ向き直った。
(戦においては、後方で補給の任や傷ついた兵士を再度戦える状態に戻して送り返す、のも重要なことです。
 イコンの修理は一寿の領域。私は操縦士の、人のメンテナンスをしましょう)
ヴォルフラムは笑みを浮かべ、パイロットに優しく声をかけた。
「お疲れ様です。お怪我はありませんか?」
パイロットは頷いて肩を回した。イコンのコクピットは決して狭苦しくはないが、やはり緊張しつつイコンを操縦、攻撃というのはやはり閉鎖空間特有の緊張と体のこわばりを招くものだ。
「ああ。大丈夫……ちょっと何か食べられるものがあるかな?」
一寿が修理を終えた機体に補給を行なっていた大田川 龍一(おおたがわ・りゅういち)のパートナー、天城 千歳(あまぎ・ちとせ)が茶色のポニーテールを左右に揺らし、バスケットを抱えて急いでやってきた。
「よろしければこちらをどうぞ」
バスケットの中にはサンドイッチと、飲み物が入っていた。
「こちらがハム、タマゴもございますし、ポテトのもあります。合わせてお飲み物もどうぞ」
「おお、これはありがたい」
千歳が花のような微笑とともに、飲み物と軽食をパイロットに差し出した。そこに先の戦闘でナイトもろとも横倒しになったプロトタイプから、杏と早苗が降りてくる。龍一がバスケットを渡したのを確認し、千歳に呼びかけた。
「千歳、ご案内を。プロトタイプのパイロットさんは、医務室にお願いします。
 体への影響を調べておきたいとのことですので」
千歳がにこやかに二人を医務室のほうへと案内していった。龍一はすぐまたイコンのほうへと向き直った。
「こっちの機体はすぐは対応できないな……格納庫のほうへ移動、っと」
また一機、補修の終わったイコンが出撃してゆく。
「外装が汚れたままなのは我慢して下さい。とりあえず再度の出撃、お願いします!」
一寿がパイロットに呼びかけた。龍一もイコンをポンと叩いた。
「帰還してくれば何度でも直して見せるさ。だから、全力で行って来い!」

 ビショップ周りにも翔、アリサの機体を中心としてじわじわと部隊が集まり始めた。前回の熾天使による集中攻撃の効果がどの程度だったのかは、ビショップらによる集中攻撃によって完全な片がついてしまったためわからない。瀕死であってもあれだけの恐ろしい攻撃を行ないうる敵である。どれだけ用心しても用心しすぎることはない。第三世代機と従来機による混成部隊、熾天使の力を秘めたものたち、さらにヴィルサガによる召還を行なうもの……。誰もがビショップに勝てるかどうか未知数だと理解っていた。
 ビショップ傍に控えていたナイト2体がが前面に出、左右に展開してきた。翔のモニターが索敵範囲のぎりぎり左外れに何かの動きを捉えた。イコンの位置を調整しモニターする。左側のナイトのほうに移動しつつあるのはウゲンのイコンだった。だいぶ後方に三賢者のものだろうイコンがあとを追っている様子だ。左のナイトもウゲン機を意識しているのは間違いなさそうで、周辺にイレイザーが続々と結集しつつある。
「ウゲン……ヤツなら問題なくイレイザーもろともあのナイトを潰すだろうな。
 本人にそのつもりはないだろうが、この際だ協力してもらおう。
 こちら側のナイトは第二世代機イコン部隊が注意を惹きつけてくれる。われわれはビショップに集中する!」
周辺の僚機とともに翔の機体はビショップのほうへ向かった。右前方に素早く展開した対ナイト牽制部隊が長距離射撃をはじめた。近距離戦用に機動性の高い機体を配備し、ナイトをの上部後方からもヒットアンドアウェイで攻撃を浴びせ、ナイトの誘い出しにかかる。ナイトがビショップの傍を離れ、斧を振り回しながら大地を駆ける。イコン部隊は少しずつビショップからナイトを引き離す形で後退、散開しながら断続的に攻撃している。
 今回ウゲンはインテグラルクイーンがいるというビショップの後方を目指し、イレイザー、ナイトと契約者たちが激戦を繰り広げているのを尻目に、比較的手薄なエリアを縫って遺跡のほうへと向かってきていた。決して慎重なわけではない。ただ多量のザコを相手にするのは面倒くさいから、という理由だけである。
ニルヴァーナの地祇 ニル子が尋ねる。
「あぅ、ウゲンちゃん、いくのですかぁ?」
「ちょっとさ、あっちのイベントを少し楽しんでからがいいんじゃないの?」
ウゲンはコンソールに頬杖をついたまま、翔らの部隊が映し出されるモニターを見やった。何を考えているのかうかがい知れないその顔には、微かな笑みが浮かぶ。