First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last
リアクション
遺跡に入る前に
北ニルヴァーナ、北東の地。
『巨人族』の力が眠っているとされる遺跡に到着した一行は、それぞれに最後の確認と準備を行なっていた。
中でもとりわけ重要なのが、ファーストクイーンを護衛するロイヤルガードの配置である。
外観だけ見れば遺跡は中規模のピラミッドといった所だろうが、内部の様子は窺い知れない。不測の事態は起こりうるだろうが、万が一にもファーストクイーンの身に危険が迫るような事があってはならない。何が起ころうとも迅速に対応できるよう警護体制を敷く事が求められている。
「幸いにも今回は{SNL9998682#ダイモンドの 騎士}さんも帯同してくれていますし」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が意見を述べる。「護衛隊に先立って調査を行う隊に加わって頂くというのは如何でしょう」
異論反論は無し。エリュシオン帝国第三龍騎士団員としての経験は先発隊を任せるには十分だ。
本人もこれを快諾したが、ただ一点だけ、
「しかし誰かは{SNL9998758#ラクシュミ}殿の護衛にあたるべきかと。当初よりその任は私が、と考えていたのですが」と懸念を口にした。これに、
「はいはいはーい!」と吉木 詩歌(よしき・しいか)が手を挙げた。
「その役目は私たちがするよー」
護衛という点では不安は残るが、彼女は普段から創世学園校長であるラクシュミの補佐役を務めている。仲も決して悪くない。それどころか、
「ちょっ、詩歌さん?!!」
手を挙げてラクシュミの寄り添いたままに彼女の腕に抱きついたのだが―――
「詩歌」
「はぅ……」
すぐさまセリティア クリューネル(せりてぃあ・くりゅーねる)に怒られてしまった。それでも、
「少しだけなら……いいですよ」
「ぅ〜〜〜〜〜〜ラクシュミちゃんっ!!」
信頼はもちろん、二人の仲も実に良いようだ。
「まぁ、彼女に関しては問題はないだろうな」
やりとりを見ていた青葉 旭(あおば・あきら)が呟いた。これにはパートナーの山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)も同意のようだったが、
「うん、まぁ。そうかなぁ」
彼女の返事はどうにも素っ気なかった。その理由は、
「よっし、終わり」
「お疲れ。で、どうだ?」
「うん、問題ないわね」
彼女がリストを差し出す。それは創世学園入星局が管理するシャンバラ各校の生徒名簿。任意と善意で提供して貰ったものもあれば独自に収集したものもある。それらを用いて「ファーストクイーンの護衛につく者たち」の所属確認を行っていたようだが、どうやら無事全員確認できたという。
「今回の護衛はロイヤルガードと百合園生に絞られているからね、身元の確認も簡単だったわ」
「あぁ、よく考えたもんだ」
彼女が動く度に「警護役」と称して不審人物が近づいてくるような状況だけは避けなければならない。過去にシャンバラ各地の姫や女王候補ミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)に起きた不幸を繰り返させてはならない。その想いから、彼女にそうした火の粉が及ばないよう補佐してゆきたいと考えているようだ。
「リファニーさん(リファニー・ウィンポリア(りふぁにー・うぃんぽりあ))は……」
「え?」
レイカ・スオウ(れいか・すおう)の言葉にルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)が顔をあげる。
「さすがにこの遺跡には居ないですかね」
「……そうね」
願いは同じ、しかし望みが薄いこともまた二人ともに同じに……失敬、レイカのすぐ後ろで頷いているユノウ・ティンバー(ゆのう・てぃんばー)を含めて、三人ともに同じに思っていた。
「巨人族の力が眠っているなら、手早く見つけてしまいましょう」
インテグラルに対抗するための力を我らの手に、そうして一刻も早くにインテグラルに捕らわれたリファニーの救出を。
「えぇ、そうね」
決意に満ちた瞳を遺跡へと向けるルシア、レイカは『ダークビジョン』の準備を、ユノウは相変わらずに胸パッド代わりにしている『パンダまん』と一緒に頷きながらに『スコップ』と『ねじくれたスプーン』を手にしていた。
「私達も協力しますよ!」
杜守 柚(ともり・ゆず)が元気よく、
「ね、香菜ちゃん(夏來 香菜(なつき・かな))も一緒に。」
「えっ?!!」
急に香菜へと話を振って同意を求めた。
「も……もちろん! あなたたちだけじゃ熾天使の一人も助けられないんでしょ。情けないわよね、まったく。巨人族か何か知らないけど、そんなものの力なんて借りなくても私だけで―――」
「そ、そういえばルシアちゃん」
香菜の話が大幅に逸れそうだったので柚が割って入った。
「ルシアちゃんはリファニーちゃんから巨人族について何か聞いてない? 力のこととか一族のこととか」
「ごめんなさい……何も」
「ち、違うの、その、謝らないで、責めるつもりは全くないの、そういう事じゃなくって、その―――」
「まぁ、その方が探検のし甲斐があるってもんさ」今度は杜守 三月(ともり・みつき)がフォローを入れた。
「古代種の熾天使が生きてるんだ、巨人族が生きてたって不思議じゃない。出会したら儲けもの、だろ?」
どうにも噛み合っていなかった会話と雰囲気が一気に締まった。一行の視線は再びに旧ニルヴァーナ、目の前の遺跡へ。
いよいよ遺跡内へと向かおうかという所でレン・オズワルド(れん・おずわるど)がクイーンの元へ。そして、
「クイーンに是非これを」
そう言って彼は『アルパカ』を献上した。
「おそらく足場の悪いことでしょう。お使い下さい」
マヌケ面をした『アルパカ』、これにはクイーンも呆気にとられて目を丸くした。
「これに……跨がるのですか?」
「乗り心地は保証します。見た目は……多少アレですが」
見た目の悪さは自覚しているようだ。しかし身体を得たばかりで普通に歩くのも容易ではないクイーンの身を思うなら、彼女の足代わりとなる乗り物を用意することもまた護衛役の役目であると。
「お心遣い、ありがたく頂戴します」
涼しい顔をしてファーストクイーンが『アルパカ』に横座る。
『アルパカ』がヨッコラモッコラと上下しながらに歩き出すと、直後こそ体を揺らして苦笑いを浮かべたが、そこはクイーン、さすがは国家神様。すぐに平静を装い、『アルパカ』に乗っているとは思えないほどの気品を十二分に溢れさせていた。
一行を先行する者たち、そして本隊と数名の護衛役たちに囲まれたファーストクイーンと後衛隊と続けて遺跡内へと足を踏み入れてゆくのだった。
First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last