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リアクション
壊れた機晶姫
「きゃあぁああああああ!!」
一行がガーゴイルと遭遇した直後のこと―――
「ちょっ、ちょっと、ちょっと待って下さい〜!!」
本宇治 華音(もとうじ・かおん)とマーキー・ロシェット(まーきー・ろしぇっと)は絶賛逃げ遅れていた。桜月 舞香(さくらづき・まいか)の放った『シューティングスター☆彡』がすぐ横を過ぎていった。と思った時―――
「えぇ?!! マーキー?!!」
もの凄い勢いでマーキーが追い抜いてゆく。身体の不自由なファーストクイーンの為に用意した「歩行補助器」を手押しているのだが、そんな重さも感じさせずに風の如くに華音の脇を駆け去って置き去りにした。
マーキーたちは先発隊の中には居たが、最前線に居たわけではない。それなのに開戦直後のこのタイミングで全力で逃げる羽目になったのは、ガーゴイルが狂ったように火球を吐いているからである。
火球の砲撃、そんな中を逃げるではなく真正面から駆け向かってゆくは一人の魔術師と炎の聖獣。博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が発動しているのは『紅蓮の走り手』、炎を纏った聖獣は、西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)の『熱狂』もプラスになっているのだろうが、向かいくる火球を喰いながらに駆けてゆく。
博季が狙うのは敵の混乱。人混みを避けるように火球を避けながらに、左右前後に切り返し駆けてゆく。
すぐに効果が現れた。三体の視線が左右にバラけ、動きが止まった一瞬を小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は逃さず突いた。
「はいっ!!」
『バーストダッシュ』で一気に間合いを詰めて、一閃、『Sウルフアヴァターラソード』を振り下ろした。
頭から真っ二つに。その一瞬に足を止めたもう一体の腹部から『バードマンアヴァターラ・ランス』が生え出てきた。背後からコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が一撃で貫いたようだ。
「なんだろう。やけに柔らかかったな」
「あ、やっぱり? コハクもそう思う?」
見た目は確かにガーゴイルだが、皮膚や肉の強度がまるで無い。刃が肉を裂く、その際に僅かに粘り気はあったものの、刃を押し弾くといった抵抗は殆ど感じることはなかった。
中身のない、外面だけの腐肉の塊。
「人形みたいな、そんな感じ?」
「ガーゴイルの姿をしてるのに? 随分と脆弱な種族だね」
「火球を吐けるだけ良いんじゃない? 遺跡の守り手って考えるなら石像よりはずっと心強いでしょ?」
見かけは確かに強そうだったし、石像と比べてどうかと言われれば、もちろん力強い……もとい心強いことだろう。
「向こうも……終わったみたいだね」
その様を見て博季が聖獣を戻した。魔法の鉄道娘桜月 綾乃(さくらづき・あやの)が、見かけ倒しの光条兵器『ラスタートレイン』でガーゴイルを圧し潰した所だった。やはり肉体強度は無いに等しいようだ。
「博季」
幽綺子が笑顔で言った。「面白いものを見つけたわ」
「面白いもの?」
「えぇ。機晶姫よ」
「機晶姫?!! どこに?!!」
暗がりの通路の先、崩れた壁面に確かに機晶姫が横たわっていた。瞼が僅かに開いている。
「ねぇ? 面白いでしょ?」
「面白くないよ! ただの大発見だよ!!」
とんだ偶然の大発見。戦闘に巻き込まれないように壁際に待避していて、小さく細かく位置を変えていたら発見したのだという。
「ただ逃げてたわけじゃないのよ、ちゃんと『震える魂』とか『熱狂』とかでサポートしてたんだから」
「そんな事は今どうでもいいって! この娘、壊れてるじゃないか!!」
博季が機晶姫を抱き上げようとした時―――
「ちょっと待ったぁ!!」
それを止める声がした。
「むやみに触れるな! 策なく近づくな!!」
『銃型HC弐式・N』を手にヤジロ アイリ(やじろ・あいり)が博季を制した。
「汚染されてるかも知れねーんだ。ちょっと待ってな」
『女王の加護』とHCを併せて使い、機晶姫の身体が汚染されていないか調べた、結果すぐに「汚染されている様子はない」ということが分かったのだが―――
「こ……これはマズい……」不意にヤジロが手を止めた。まさかやはり汚染されて―――
「この機晶姫……壊れている……」
「………………」
全員絶句だった。
「お客様の中に『アーティフィサー』は! 『アーティフィサー』の方はいらっしゃいませんかー! 『テクノクラート』でも構わねーぜ!」
ボケるなら最後まで口調を貫け。
何にせよ、何かしらの手を施さなければこの機晶姫が覚醒することはなさそうだ。
発見した機晶姫が汚染されていない事を確認したヤジロ アイリ(やじろ・あいり)だったが、彼の仕事はそれだけに終わらない。ガーゴイルとの戦闘時、また倒した際に有害物質が飛散していないとも限らない。戦闘地となった辺り一帯、そして戦闘を行った者たちのチェックが済むまで、他の面々は足を踏み入れぬよう待機が命じられた。無論命じたのはファーストクイーンである。
「そ〜いう事なら仕方がありませんね。私が話を聞きましょう♪」
戦闘地に居た、かつヤジロのパートナーであるセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)が機晶姫から話を訊くこととなった。
機晶姫には左腕がなく、外傷も激しく痛んでいたがマーキー・ロシェット(まーきー・ろしぇっと)が少し手を加えただけで、すぐに意識を取り戻した―――のだが、
「前方、前方に生命反応あり、あり。データベースにアク……アク……アクセス中……」
なぜか初期ヒューマノイドのような話し方だった。
「あの……あの口調はデフォなんでしょうかね」セスが訊ねた。故障なのだとしたら直せば治る、そう期待したのだが、
「どうでしょう。今の時点では何とも言えないな」マーキーは首を傾げて答えた。大して手を加えていないのに意識を取り戻した事だって未だ腑に落ちてはいない。
「なるほど。では始めましょうか」
「データベース……無し……データ無し……データ無し……」
「調査報告……経過報告……」
壊れた機晶姫は虚ろな瞳のままに言葉を続ける。
「当初の見立て通り……この遺跡では「大陸を支えるもの」に関する研究……と実験が行われていた……その痕跡も発……見した……」
「大陸を支えるもの?」聞き手はセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)である。「アトラスのような存在、という事でしょうか」
「ニルヴァーナの支……柱……異変……」
応えてはいるが応えてはいない。口調も抑揚も一定だ。
「支えが滅びる……より前……に選ばれし神々を……その……代替へ昇華させ―――」
壊れた機晶姫は、ここで再び瞳光を失ってしまった。
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