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リアクション
地下の施設が示すもの
「遺跡に眠る秘宝とそれを守る魔物、そして侵入者を阻む罠の数々……」
木曽 義仲(きそ・よしなか)は首を回して肩を鳴らして屈伸をしてみた。身体に痛みはない。打ち所が良かったのだろうか、それもあろう、しかしおそらくは高さの問題、突如の床抜け、垂直降下、そんな罠だったにも関わらず、思ってたほどに落ちなかったようだ。高さがなければ怪我が少ないのは当然のことである。
「ますます期待できる。これこそ正に太古のロマン」
「そんなことより、できれば古代の武器とか新しいギフトが見つかればいいんだけどなぁ。襲われて走らされて落とされて、見つかったのが「太古のロマン」じゃあ割に合わない」
「陣(高柳 陣(たかやなぎ・じん))よ、何を言っておる。この遺跡に潜む太古の声に静かに耳を傾けてみよ。聞こえるではないか、悠久なる時の流れと共に生きてきた万物の呼吸と鼓動が」
「……お前、こういうの好きだったか?」
「うむ、ここで目覚めた。考古学は素晴らしいのぅ」
「さよか。そりゃあ良かった」
「良いことばかりじゃないみたいだぞ」無限 大吾(むげん・だいご)が背越しに言った。
「落下の高さが短かったのは、こういうわけか」
ネオンライトのスイッチを入れたように、暗闇の中に小さな光が次々に点った。それがゴーレムの眼光だと気付いたときには時既に遅し、一行は四方を囲まれていた。
「これは……戦わざるを得ませんね」
言ったセイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)に大吾が悪戯に、
「随分と嬉しそうに見えるが?」
「そんな事はありません。私は平和主義者ですから」
「……なるほど。良いことを聞いた」
これほど心に響かない、また説得力のない言葉は初めてだった。
「さてと、行きますか……」
セイルは静かに目を閉じて「戦闘モードをON」にした―――
「出迎え醐苦露卯! だがな、邪魔するようなら目障りな奴ぁ片っ端から全部潰して砂利にしてやんぜ!!」
その途端に人格も口調も変わってしまった。悪癖は今も健在のようだ。
「クククッ、アハハハハッ!!」
『加速ブースター』で一気に突っ込み、『スタンクラッシュ』でゴーレムの頭を叩き潰した。
「ウラァ!! まだまだぁ!!」
この一撃を皮切りに、アラム、ダイヤモンドの 騎士(だいやもんどの・きし)、そして契約者たちが飛び出した。残るゴーレムは少なくとも17体。
「なんだ? おまえは行かないのか?」
動く気配のないキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)に飛鳥 菊(あすか・きく)が言った。
「いの一番に飛び込んでいくと思ったけどな」
「バカ言うな、あんな砂人形には興味は無ぇよ」
「砂? 石じゃなくて?」
「あんなもん、ただの砂の塊だろ」
セイルの棍棒バットも騎士の剣も、果ては大吾の銃弾でさえも、ゴーレムの身体は簡単に激しく爆ぜた。
「発砲スチロールかよ。ったく」
「まぁ何でもいいけどよ。ほら、暇してるなら、お宝探しを手伝いな。こちとら屑の手も借りたいんだ。屑も集めればよく燃えるってな」
「だれが屑だ。つーかその気になりゃあ何でも燃えるだろうが」
「ウダウダ言ってんな、ホラ、手伝え」
不満たらたらなキロスの背後から漣 時雨(さざなみ・しぐれ)が肩を抱いた。
「よお、後輩くん! オレも手伝うぜ♪」
「時雨……」
「つーかよ、リア充爆発しろだの言ってるわりには結構仲良さ気じゃね? お前ら」
「くっだらねぇ事言ってねぇで、さっさと探せよ、赤と青」
「はいはい、分かったっつの」
形ばかりのゴーレムの大群を散らしている間に、赤い髪のキロスと青い髪の時雨は渋々に菊の調査を手伝わされたわけだが―――
「……なんだコリャ」
壁面に埋まった扉を見つけた。重厚な扉の先には「実験装置」と思われる機器が大量に並び置かれていた。
まだかかるか……。
シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)の様子を見て、呂布 奉先(りょふ・ほうせん)はそう見立てた。シャーロットは先刻から「発見した実験装置」の一つに『サイコメトリ』をかけているが、年代が古いだけに読み取るのにも時間がかかっているようだ。
落下した先の階下は「実験室」になっていた。
測定器と思われる機械やカプセル状になった機械、また尋常じゃない数のチューブが繋がっている機械などが並んで置かれているが、見た所どれも破損が激しく、再起動は難しいように思われた。
そんな中でも一つだけ―――
「………………なんだろう。この感じ」
アラムが惹かれた機械があった。それは巨大な生け簀のようなカプセル型の機械だった。
「シャーロット? どうしました?」
『サイコメトリ』は継続中だが、彼女は手で合図をした。彼をここに呼んでほしい、と。
「妙な感覚の正体は分かりましたか?」目を閉じたままにシャーロットが問う。
「どうだろう……懐かしい感じに近いかな……」
「懐かしいですか。なるほど、遠くないと思いますよ」
「どういう事だ?」
「あなたがカプセルの前で指示を受けている画が見えました。みな同じ服を着ていますね。覚えはありませんか?」
「僕が……ここで」
言われてみればそんな気もするが……確信はない。本人に覚えがない以上それは記憶ではなく思い込みの可能性が高い。
「本当に覚えがありませんか?」
機械の前でマーク・モルガン(まーく・もるがん)も同じに見上げて訊いた。アラムは瞬きも忘れて、じっとカプセルを見つめている。
「無理に思い出そうとすると、余計に記憶が断片化したり迷走する事もあるそうですよ」
自分も、またパートナーのジェニファ・モルガン(じぇにふぁ・もるがん)も半年近い期間の記憶が無い。アラムのそれとは比べものにならない程に短い期間だが、気持ちは理解できる。不安ではなく絶望。怒りではなく自己嫌悪にも襲われる。
「ゆっくり」
ジェニファがアラムの肩に手を添える。
「深呼吸して。深く、そう、ゆっくり深くよ、そう」
大きく吸って、ゆっくり吐く。そうして記憶を辿っている時だった―――
「よろしいでしょうか?」シャーロットが言った。また一つ、画が見えたという。
「シャクティ因子という名称に聞き覚えはありませんか?」
「シャクティ……因子?」
見えたのは白衣を着た研究員たちが見ている資料。そこに書かれている文字の一つが「シャクティ因子」だった。
「細部までは読めませんが、どうやら膨大なエネルギーを秘めた因子のようです。それを二人の巨人族へ用い、その声質を―――」
「………………? シャーロット?」
「どうした?」
「あ……、いえ、その……」
戸惑い、そして躊躇した。記されていた名は、よく知った名だった。
「因子によって「大陸を支える神」と同等の力を得た者。終わりゆく神の代替となるのは、巨人イアペトス、そして……」
「そして?」
「その息子………………アトラス」