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リアクション
ブラッディ・ディヴァイン殲滅戦 1
薄暗い通路の中を、二つの黒い影が進んでいた。
「こっちで間違いないのか」
二つの黒い影は、どちらも黒いパワードスーツで身を固めている。彼らはブラッディ・ディヴァインの構成員であり戦闘員である。
「ああ……しかし、ついにオレたちも終わりかね。ヴィマーナすらエラーを吐き出すなんてな」
「エラーかどうかはわからないだろう。確認して何も無ければそれでいい。元々、大昔のもんなんだ、問題が無い方がおかしいんだよ」
二人は足早に進みながら、小声で会話をしていた。誰かに聞かれるのを恐れているわけではないが、この通路は声が反響して響く。必要以上に大声を出すのは品が無いからだ。
「……どうなるんだろうな。別にオレは最初っから死ぬつもりできたけど、こうも情勢が悪くなると、な」
「あまり弱音は吐くな。俺たちは、少なくとも俺たちは、死ぬまで言われた事やってりゃいいんだ。気楽なもんだよ。可愛そうなのは、俺たちと一緒にいりゃ身を立てられると考えてた奴らだ」
「そうだな。少なくともオレたちは、気楽かもしれないな。ああ、先にいっちまった奴らが羨ましいよ、ったく」
最低限の明かりもなく、パワードスーツの機能に頼って進んでいたうちの一人が、ぴたりと途中で足を止めた。
「どうした?」
「……いや、今何か?」
僅かな空気を切り裂く音が鳴った。
「ぐお」
前方の一人が、突然バランスを崩しその場に膝をついた。
顔をあげると、人影が一つ、二つ、三つ。三つもいる。
「三人。侵入者が三人もいるだとっ!」
後ろの一人が構える。
「いいや、四人だな」
ジェンナーロ・ヴェルデ(じぇんなーろ・う゛ぇるで)がそう発しながら、まだ膝をついている一人に急接近、ナイフ型光条兵器による爆炎波で斬り伏せる。
「な……くそっ」
黒いパワードスーツは、即座に身を翻し、逃走を図った。
「逃がさないよ」
ルクレツィア・テレサ・マキャヴェリ(るくれつぃあてれさ・まきゃう゛ぇり)がリターニングダガーを投擲を投擲し、無防備な背中を狙う。サイコキネシス
によって操られたダガーは、咄嗟の投擲とは思えない綺麗な軌道で飛んでいく。
だが、黒いパワードスーツはそこで急加速し、一息の間に暗闇に飲み込まれてしまった。ダガーをサイコキネシスで加速させても間に合う速度ではない。
「逃がしちゃった」
「仕方ないさ。それに、ダガー程度じゃこれに傷をつけられたかも怪しいな。見てみろ、俺のハンドガンで傷一つついてない。不意打ちだから跪かせられたが、撃ち合いじゃ牽制にもならないな」
倒れた黒いパワードスーツを観察しながら、ジェンナーロが苦々しく言った。
「殺したのですか?」
影から、蕭 貴蓉(しゃお・ぐいろん)が姿を現す。
「いや、気絶させただけだ」
「尋問して格納庫の場所、聞き出さないとだもんね」
蕭衍 叔達(しゃおやん・しゅーだ)が言葉に続ける。
「そうですね。その前に……」
貴蓉はパワードスーツのヘルメットを外すと、首筋周りを観察し、言われた通りの差込口を見つけた。
「これが、あの赤毛の人が言ってたところなの?」
「情報通りですね。あとはうまく機能してくれればいいんですが」
貴蓉が取り出した小さな機械を、その差込口にセットする。ピピピと僅かな音を立てて、オイルライターほどの大きさの機械は仕事を始めた。
少しして、着用者が気絶しても動いていた腕の操作用の端末などが消灯され、適当に弄っても動かない事が確認される。
「これで、自爆の危険は去ったはずです。目を覚まさせて、格納庫の場所を聞き出しましょう」
「パワードスーツの機能を停止させる機械って、こんなに時間かかるんじゃ戦闘中には使えないね。もっと、リモコンで一斉に止めたりできなかったのかな」
「そんな便利装置があったら楽だったかもな。さて、さっさとこいつに目を覚ましてもらうか。おい、起きろ、いつまでのんびり寝てるつもりだ、おい!」
「なるほど、情報は確かなようだな」
クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)は眼前の巨大な金属製の扉の前で足を止めた。
「ここまでの抵抗は散見的だった。たぶん、道中の守りは考えてなんだろう」
「それだけ、もうあちらさんには戦力が残ってないってわけだ」
セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)の相槌に、クローラは頷く。
「早く開けてしまいましょう」
神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が扉に手を触れる。冷たい。罠の類は設置されていないようで、この扉の頑強さだけが、この先に通じるブロックへの守りとなっている。
仲間が捕まえたブラッディ・ディヴァインの構成員の情報によれば、この扉の向こうにはサンダラ・ヴィマーナがあるはずだ。
そこに繋がる通路は一つではなく、複数あるようだが、もっとも広い通路、すなわち彼らが部隊を引き連れてやってきたこの通路を入り口とできれば、道中で人が詰まる事もほぼないだろう。
「持ってきた爆弾でこじ開ける。みんな一度下がってくれ」
工作部隊が手際よく爆弾を設置し、準備が整ってすぐに発破が行われた。少し離れた場所で爆発を凌ぎ、煙が収まるのを待って様子を見る。
「思った以上に、硬かったようですね」
爆発の衝撃を物語る傷を残し、扉全体も歪んでいる。だが、扉は扉の機能を保ったままそこに残っていた。
「あと一押しといったところか」
「だったら、任せて欲しいんだねぇ」
クローラが再び指示を出す前に、不動 煙(ふどう・けむい)が名乗りをあげて、準備に入った。
「何をする気なんだい?」
セリオスが集中状態になっている煙を見て言うと、不動 冥利(ふどう・みょうり)が元気いっぱいに、
「キングゾンビを呼び出すんだよ!」
と教えてくれた。ふと横を見ると、翡翠と桂は距離を取って鼻を摘んでいる。
「え?」
不安になった瞬間に、異臭と共に巨大なキングゾンビが現れた。見上げても顔すら判断できない巨大さを語るべきか、あるいはそれだけ巨大なキングゾンビが十分動き回れる広大な通路に着目すべきか。もっとも、その場に居た多くはでかさとかそんなものよりも、こもる悪臭に意識が向かっていた。
臭い、とてもくさいのである。それはもはや、美しい言葉の連なりで表現できるものではなく、くさいという単語が空中を漂っているかのようであった。
「やっちゃえ」
指示を受けたゾンビは、緩慢な動作で扉に体当たり。勢いこそなかったが、既に爆破の影響で弱っていた扉は、観音開きに開いた。
「みんな、いくんだよ!」
扉が開いてすぐに寝無辜 たれねこ(ねむこ・たねれこ)がペット達を突っ込ませる。それに遅れまいとアイン・ロウ(あいん・ろう)もペット達を進ませた。
「みんな、頑張って」
冥利の一騎当千により、ペット達はそれぞれが強力な砲弾のようになって、格納庫の中へと殺到する。一方、人間はといえば臭いに苦しんでいる者多数、差がついた。
「ぐ……わかってたんなら、一言言ってもよかったよね」
セリオスの言葉に、翡翠にはにこりと笑って、
「間に合いませんでした」
とのたまった。
「ど、どうにか道は開いたな……。とにかく、このまま格納庫を制圧するぞ」
クローラは部隊に指揮を出し、臭いで士気が低下している部隊を元気付けた。さらに、通信機を取り出し、司令部に道が開いた事を少ない言葉で伝えた。
開かれた扉の向こうには、確かにサンダラ・ヴィマーナが格納された、驚くほどに広い格納庫が待っていた。そして、そこには既に黒いパワードスーツの影がいくつも見える。
「これは、また数が多い見たいですねえ。では、援護しますので、思いっきりどうぞ」
「俺達が、援護しますので、ご安心下さい。無理しないように……」
翡翠と桂の言葉に、煙はコクリと頷いた。