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リアクション
蓮にみる希望
「これが……シャクティ因子」
ファーストクイーンの隣でそれを見たグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)は思わず「美しい」と漏らした。
「蓮の花……に近いでしょうか。輝きもまた美しい」
光を当てれば、花びらと葉の一枚一枚が上品に灯り色づいてゆく。
「しかし……」
思案しながらに姫神 司(ひめがみ・つかさ)が呟く。「まさか2つあるとはな」
幾つも並んだ神秘的な形の台座。
その内の二つの台座の上に、蓮の花にも似たシャクティ因子が置かれていた。
「古代ニルヴァーナ人は、シャクティ因子を幾つも得て、生成し、ここへ保管していたのか」
「台座の数を見れば、数個は既に失われていると見て良い。古代ニルヴァーナ人たちが使ったのか。あるいは……」
約1万2千年前、“ファーストクイーンを連れた”探索隊が調査用に持ち帰ったのか。
と――――
!!!
それは突然だった。
「伏せろ!!」
樹月 刀真(きづき・とうま)を含め『殺気看破』を発動していた者たちはいち早くそれに気付いた。突如、後方の壁が爆ぜたのだ。
「円(桐生 円(きりゅう・まどか))!!」
「騒ぐなって。ちゃんと無事だよ」
氷壁の陰にクイーンと『アルパカ』の姿が見える。咄嗟に『アブソリュート・ゼロ』を発動したようだ。
「今の爆発は一体」
クイーンが顔を上げたとき、胸元で『ロイヤルガードエンブレム』が反応した。『禁猟区』をかけて刀真がクイーンに手渡したものだ。
大きな爆発音がまた一つ。しかも今度は先程よりも距離が近い。
「御免ね」
「きゃっ!!」
円がクイーンを抱き上げて跳び退いた。イコンの装甲に匹敵する強度があっても、氷壁の脇から壁片が飛び来ては防ぎようがない。
光り輝く剣が漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の周りに現れる。『剣の結界』に続いて月夜は『ホークアイ』を発動した。
土埃の先を鋭く見つめる。するとそこには―――
「リファニー……」
熾天使の生き残り、リファニー・ウィンポリア(りふぁにー・うぃんぽりあ)が宙に浮いていた。
「そんな……彼女がなぜここに……」
土埃が晴れるより前に彼女は再び背中の羽を大きく振った。銀羽の光弾が周囲の壁を吹き飛ばしてゆく。
「どーして壁を壊すのよー?!!」なんて叫びながら犬獣人のメリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)がオロオロと駆け回り、
「それはもちろん戦いやすくするためでしょう。こんな隠し部屋みたいな通路では挟まれたら終わりですから」お嬢なロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は声だけはのんびりさせて言っていた。
「戦うこと前提?!! いつからそんな好戦的な娘に?!!」
「いや、でも現にこうして襲われているわけですし。彼女の方は当然「kill」なつもりで「kill」いる……? あら? 「斬る」? 「来て」? 「kite」いるですね」
「強引だよ!! って―――」
言ってる間に正面に回り込まれていて、リファニーの光弾が直撃コースに!!
背後にはファーストクイーンも{SNL9998758#ラクシュミ}も居る。
「おふざけはここまでですわ」
「私はふざけてないもん!!」
ロザリンドは『シールドマスタリー』で、メリッサは『ホエールアヴァターラ・アーマー』を信じて並び立った。
文字通り盾となったわけだが耐えきれず、二人は後方の壁まで吹き飛ばされてしまった。
壊した壁のその内へ。リファニーは台座の「シャクティ因子」に手を伸ばした。
「これが……最後の希望……」
「リファニー!!」
ルシア・ミュー・アルテミス(るしあ・みゅーあるてみす)が叫ぶ。「私よ! リファニー!」
「リファニー!」
ここまで彼女の護衛をしてきた紫月 唯斗(しづき・ゆいと)も同じに叫んでいた。思いは一つ、「リファニーを救うこと」だ。
しかし―――
「リファニー?!!」
笑みは無く、視線も冷たい。二人のことなど捉えてすらいない、そん表情のままに光弾を放ってきた。
瞳を見開いたまま、ルシアは僅かにも動かない。
「唯斗!」エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が『ブライドオブブレイド』を手に前に出る。
『ブレイドガード』で初撃を受けている隙に、唯斗が『ポイントシフト』を発っしてこの場を脱した。肩の中のルシアはすぐにリファニーを探して目を走らせた。
「リファニー!!」
「止せ! 聞こえていない!」エクスが言ったが、聞こえていないのはルシアも同じだった。
「リファニー!! 私よ!! 一緒に帰ろう!!」
それでも彼女は攻撃の手を緩めなかった。もはや自棄になったかのように銀翼の光弾を放ち続けている。その一つ一つが遺跡の壁を破壊するだけの威力があるから堪らない。
「あーそびーましょー!!」
ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が一人飛び出して斬りかかった。
リファニーは退いてこれを避けると、次にファーストクイーンに瞳を向けたが―――
「ダメだよー! こっちこっちー! アハハハハー」
ミネルバの『プロボーグ』がそれをさせなかった。しばらくの間、攻撃は全て彼女に向くことになる。リファニーが放った光弾はクイーンに向ける事すら出来なかった。
「………………」
ミネルバの斬撃を2つ程避けた後、リファニーが大きく間合いを取った。
宙に浮いたまま、今度も銀翼を―――しかし放たれたのは光弾ではなく巨大な竜巻だった。
竜巻がゆっくりと進むにつれて、床に壁、それから天井が抉れ壊れてゆく。
「皆様! こちらへ!!」
ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)が契約者たちに呼びかけた。彼もクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)同様、緊急時の避難経路を模索していた。壁や天井に当たっても「竜巻」の威力が落ちないのを見て、避難すべきだと判断したようだ。
「ルシアさんも、早く!!」
「……待って。まだリファニーが……リファニー!!」
このままでは巻き込まれる。ハンスは強引にルシアの腕を引いた。
「リファニー! リファニー!!」
微かに見える彼女の声。最も美しく最も愛しいパートナー。やっと会えた……それなのに。
竜巻が2人の視界を遮る、その刹那―――
先程までと表情は同じ。何にも興味がないような。ルシアの事も初めから知らないと、そう言っているかのような冷たい瞳をしたままで―――
でも、酷く哀しみに満ちた声で。
「ごめんなさい――さよなら」
「………………リファニー?」
確かにそう言った、ルシアにはそう聞こえた。
ハンスに引かれている間も彼女は最後までパートナーの名を呼び続けていた。
「ファーストクイーン様は? 避難したかな?」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の問いかけにセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は「えぇ」と言って応えた。契約者たちが避難した今も2人は遺跡の中央部に居た。竜巻は今も低速ながらも床や壁を抉りながらに進んでいた。
「やはり一つはリファニーが持ち去ったようですけれど、一つはしっかりとファーストクイーン様がお持ちでしたわ」
「そう。それはそれは一安心」
「それから、できれば遺跡を保護したいとも言ってましたわ」
「そう。それはそれは……無茶を仰る」
竜巻の威力は一向に落ちる気配がない。一体どんな構造をしているのか、熾天使の力が影響しているのだろうか。
「まぁ何にせよ。始めようか」
「えぇ」
護る対象は変わってしまったが、クイーンの願いとなれば同じこと。2人は『※サクロサンクト』を発動した。まずは竜巻の勢いを削ぐことから始めよう。
詩穂とセルフィーナの働きで、遺跡の損壊は中央部周辺に食い止められた。中央部の天井や壁、そして床は殆どに崩壊したが、他が残っただけマシだろう。
リファニーは再び姿をけしてしまったが、一行は幾つかの情報とシャクティ因子を手に創世学園へと引き返してゆくのだった。