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リアクション
疑惑の国家神
「ふぅ」
誰にも……もちろんパートナーの強盗 ヘル(ごうとう・へる)にも聞こえなかったはずだが、ため息を吐いたタイミングでザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は声を掛けられた。
「その様子じゃあ、当たりか」
「えぇ。通路があります。おそらく壁面のどこかに扉が隠れているのでしょう」
クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)の見立て通り、遺跡中央左部の通路、その壁の内には通路が存在した。『壁抜けの術』を使って覗くだけ。実に簡単に発見できた、それだけに最初に気付かなかった事が悔しくもあり情けなくも思えた。
「まぁいい。ここにお宝が眠ってるんだろ?」
「シャクティ因子ですか。イコンかそれに匹敵する物であれば良いのですが……」
遺跡に眠るは「巨人族の力」……まさか巨人族がギフトだった、なんてオチだけは勘弁してほしいと思っていたが、どうやら違うようだ。
しかし話を聞く限り「シャクティ因子はインテグラルに対抗するための力ではない」ようだし、それが事実なら戦況を大きく変化させることもまた夢物語という事になってしまうわけで……。
「とりあえず少し離れな。壁を壊すぜ」
隠れている扉を見つけるのでなく、壁を破壊する事で隠し通路への進入を果たした。壁に厚みが無いことは『壁抜けの術』によって既に分かっていた事だ。
「そうそう、これだ、これなんだよ」
『銃型HC弐式・N』を片手に渋井 誠治(しぶい・せいじ)が嬉しそうに声をあげた。
さすがは隠し通路。中は真っ暗闇、光源がなければ歩くのにも苦労するだろう。
誠治は『ダークビジョン』で対策した上で『機晶ゴーグル』を『銃型HC弐式・N』に繋ぎ、モニターを見ながらに先頭を行き、先導していった。
パートナーのヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)も同じに機器を繋ぎ、更には『カモフラージュ』で気配を消して警戒している。通路はとても狭く、援護するにはあまり適さない状況だったが「希望の間」を先に発見したのは彼女だった。
「これが、その扉……」
国家神でなければ開けることの出来ない扉。それは宇宙を思わせるような黒色の中に数点の宝石が埋め込まれていた。
「お願いします」
扉の前へファーストクイーンが歩み寄る。しかしその表情は……
「(この扉は……国家神にしか開けられない……)」
手を触れるだけで扉は開く、そのはずだが―――
「(もし開かなければ、やはり私は……)」
そんなはずはない。そう何度も何度も心の内で打ち消してきた。しかし、それらの疑念を産むだけの要素もまた何度もクイーンの前に現れたのだ。
国家神である自分がなぜ、探索隊について何も知らないのか。
その探索は「国家神の命により行われていた」というのに、一切の覚えがないのはなぜなのか
自分はなぜ「イアペトス」「アトラス」について、「シャクティ因子」について知らなかったのだろうか
国家神である自分がなぜ……
これらの疑念を「一つの仮説」が解消してしまう。しかしその仮説は……とても信じられない、信じたくない仮説だった。それは自分自身の存在を否定する事になるのだから。
深く息を吐く。国家神にしか開けられない扉、最奥の扉へとゆっくりと手を伸ばしてゆく。
指の先が扉に触れる。このまま扉が開いたなら―――いや開くのが通常。しかしもし開かなかったとしたら―――
クイーンの手のひらが扉に触れたとき、扉に散りばめられていた宝石が一斉に輝きだした。
そうしてそのまま軽く押しただけで扉は簡単に開いたのだ。
「(そんな……どうして開くの……)」
答えは新たな謎を置いてゆく。偽物であるはずの自分になぜ、扉が反応したのか。
答えは一つ。
「(私は……完全な偽者ですらない……?)」