空京

校長室

創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

リアクション


罠と魔物

 少しばかり歩み進んだだけで遺跡内はすぐに暗くなった。
 本来ならば陽の光が壁面を這うように設計されているのだろうが、老朽化のためか、壁面の穴は尽く崩れ埋もれてしまっている。五月葉 終夏(さつきば・おりが)は『星空のランタン』を手に明かりを灯した。
「こうも暗くては、余計に罠を見抜くのは容易ではない、か」
 辺りに目を向けてニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)が言った。彼にしては何とも弱気な発言にも聞こえたが―――
「まぁそれでも私ならば罠も不審人物も全て事前に発見してみせるがな、はっはっは!」
 勝手に大いに高笑い。『ディテクトエビル』を発動中の彼の目はこれまた自信満々だった。
「先行くよ〜、フラメル〜」
「なっ! ちょっ、終夏、待て! 君が先に行っては意味が無いだろう! 終夏っ!!」
 終夏のすぐ後ろには明神 丙(みょうじん・ひのえ)梔子 禊(くちなし・みそぎ)がついていた。彼らは遺跡内の地図を作成するべく、先行隊に身を置いていた。
 もちろん、ここまでの通路も記録済みである。情報の少ない場所だからこそ地図が役に立つのではないか、そう考えたようだ。
 二人がまじめに、またマメに記録を付ける傍で、
「良ぇで良ぇで、この暗さ。正にHIKIKOMORIによるHIKIKOMORIのための遺跡や。あ、いや、家やな、正に」
 なんて上條 優夏(かみじょう・ゆうか)が言えば、パートナーのフィリーネ・カシオメイサ(ふぃりーね・かしおめいさ)が「いや、言い直した時点で、もうアウト。ゲットアウト、ゴゥホゥム、エンドシットダウンよ」なんて畳みかけていた。変に肩に力が入っているよりはもちろん良いのだが、それにしてもユルすぎやしないだろうか。
 そうして何と! 実はもう一人、
「良いですか?! ルシアくん!」
 月詠 司(つくよみ・つかさ)もまた、どこかユルく、抜けているようで。
「こうした場所では一瞬の油断が命取りになります! 決して無茶をせず、しかし! 無茶をしなければ大冒険はやって来ない! さぁ、どうすれば良いでしょう」
 ルシア困惑、パートナー(シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす))は溜息。
「正解は『注意しながら無茶をする』でした! ただ無茶をするだけなんて誰でも出来ます、大事なのは細心の注意を払いながら無茶をする、という所なんですね〜」
 言っているが一番無茶を言っていた。しかもそのまま一人で脇の真っ暗な通路へと何の警戒もせずに駆けて行くと―――急に右手側の壁がネズミ捕りのように弾けて迫ってきた。
 壁がバーン! でプチッと挟まれる
ツカサ!!」
「こ…………こうなるのですよ……無鉄砲に無茶をすると…………ガクッ」
ツカサぁ!」
 倒れる。心配して駆け寄ったルシアシオンが手で制して言った。
「いい、ルシア、今の見たでしょ。色んな事に巻き込まれ慣れてるツカサだからギャグで済んだけど、もし違ったら今頃ホラーゲーム張りのBADENDよ」
 台詞としてはキマっている。が、しかし壁に潰されたは全身をピクピクと痙攣させて倒れているため、今回ばかりは誰の目にもに、とてもギャグで済むとは思えなかった。せっかくの台詞も台無しである。
「なるほど、あの手の罠が仕掛けてあるんか」
 優夏が腕組みをして小さく唸る。「ということは……やっぱり気ぃ付けなアカンのは『タライの雨』やな」
「タライの雨?」
 ちっとも分からずにフィリーネが訊き返す。
「そうや、TRPGとかによくあるやろ、上から『タライ』が降ってくる罠や。あれは地味に厄介なんやで、何気に痛い上に、気ぃ抜けるしな」
「タライ……タライねぇ……むしろこういう所こそ『落とし穴』とか『毒ガス』みたいな定番の罠があると思うなぁ」
「それも一興、これも一興や」
 強引にも程がある締め方をしたが、殊にとにかく、ろくに調べもせずに通路を行くのは危険だとういう事をが身をもって示してくれた。
 やはりこの遺跡には罠が仕掛けられている。それはつまり『何かが眠っていることの裏返し』という事になりはしないだろうか。
「くぅ〜!!」
 待ってました! と由乃 カノコ(ゆの・かのこ)が瞳が輝いてゆく。
「ホンマに罠とかあるんやなぁ! 楽しなってきたで、ワクワクしてきたでぇ!!」
「……」『仮想現実』 エフ(かそうげんじつ・えふ)が呆れたように「お宝ではなく罠に食いつきますか」と指摘したが、
「お宝?!! やっぱりお宝が眠っとるんか?! この遺跡」
「あ……いえ、あるといいですね、お宝」
 遺跡に眠っているとすれば『巨人族の力』であろうに。それをエフは『お宝』と表現したにすぎないのだが、まさかそのまま受け取るとは。
 まぁ、遺跡探索というよりはただの『観光』気分で来たのだから、そんなものなのかもしれない。
「うおー!!」
 カノコの叫び声だ。通路の先か?
 はぁ……。
 好奇心の赴くままに一人でどんどん進むから、おおかた通路の先で罠か何かに掛かったのだろう。
「今度は何ですが、カノ……コ……
 通路の先を覗いて、絶句した。
「見てみぃーや、エフさん! ガーゴイルや! ガーゴイルが居たでぇ!!」
「ちょっ……」
「二人とも! 下がって!!」
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)、それから桜月 綾乃(さくらづき・あやの)が素早く飛び出した。
「悪を滅ぼして正義を応援♪ 魔法のチアガール☆マジカルチェリー!」
 二人とも既に『変身!』を終えている。舞香の『まじかるぶれすれっと』が、カノコに向けられたガーゴイルの殺意を感じ取ったようだ。
「交通機関の安全は私が守ります♪ 魔法の鉄道娘☆マジカルムーン!」
 登場の台詞もバッチリに決まった。暗闇に光る魔物の眼光は6つ。
 護衛メイドの名にかけて!
 二人は3体のガーゴイルの前に構え立った。