First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
ナイトアンドビショップ
相変わらずビショップに動きはない。さきほど出撃するための最終調整――過去の戦闘データを元にした機体の最適化――を終え、第三世代機は輸送用トラック移動整備車両キャバリエから無事飛び立っていった。整備を担当した長谷川 真琴(はせがわ・まこと)とクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)はその際のデータと、先ほど土佐から送られてきたデータのチェックを行なっていた。
「土佐からもらったデータのとおり、チャージ射撃、チャージ斬撃については強力ですが……。
こちらは隙が多いですし、当てにくさがネックですね」
真琴がコンピュータの画面で第二世代機との比較データを見ながら言った。
「ジェファルコンなんかと比べて、攻撃・耐久は高いんだけどさ、いかんせん機動力が低すぎるよ……。
効果的な作戦を行うためには第二世代機などとの混成部隊のほうがいいんじゃない?
第二世代機でかく乱しながら、第三世代機がその間チャージ、とどめ、みたいなさ?」
「量産型ではまた調整があるでしょうけれど……そういう感じですね。
とはいえどのような機体であっても、パイロットがその最大の技量を引き出せる状態にするのが整備士の手腕。
この戦い、どうでしょうね」
「あたいらの仕事はこれからが本番だ。機体が無事に帰ってきたときのための準備をしておかないとな」
クリスチーナが車両後部の整備用資材の確認を始めた。
無造作に束ねられた黒髪をぎゅっと引き締め、真琴はモニターに映し出されている空中の第三世代機を見つめてそっと祈った。
「……無事な帰還を祈っています」
「試作機とはいえ、第三世代機キタァー!!」
念願の第三世代機のテストパイロットを任されたのだ。斎賀 昌毅(さいが・まさき)は、天にも昇らんばかりだった。マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)はそんな昌毅にそっと呼びかける。
「当初援護を決めていたとき同様、試作機である以上敵を倒すことより実戦データを持ち帰る事に意味があります。
無事帰投する事を第一に考えてくださいよ」
「おう、テストの段階で大破させちまったら元も子もないからな!
操作系からインターフェイスまで従来型と違うし、テスト機だけあって機能も多岐にわたる。
とりあえずだな、翔の機体の護衛をしながら、機会を見て攻撃だな!」
シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)とミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)のジェファルコン、アイオーンから通信が入った。
「連携をしっかりとっていきましょう。相互にフォローし合えるような状況を作れれば……。
辻永さん、斎賀さんたちの第三世代機の火力を有効に活かせる状況を作ることを第一に動きますね」
「おう、気をつけて行こう」
昌毅が応じる。
「全体の状況把握とか、味方との連絡とかはこっちでするから、任せて!」
ミネシアの陽気な声が加わる。翔からも通信が入ってきた。
「波状攻撃でいくぞ。さすがに沈められはしないだろうが、いくばくたりとも、ダメージを与えられればよし、だ」
「敵は強大ですが、このまま黙って負けるわけにはいきませんからね」
シフが半ば自分に言い聞かせるように呟いた。
ジェファルコンヒポグリフでは桐生 理知(きりゅう・りち)が考え深げにビショップの大剣を見つめていた。巨体にふさわしいサイズの剣は、それだけでも十分威嚇効果があったが、さらにその表面には得体の知れない炎が踊り続けているのだ。
「エナジーウィングがあの大剣を防げたら戦いやすいけど、纏う焔が気になるね」
北月 智緒(きげつ・ちお)もやや不安げな表情を浮かべている。
「ビショップには一機が覚醒しても大きな効果はないかもしれない……。
ただ全員同時に覚醒、攻撃すれば少しは効果があると思ってるの。」
「私たちはとにかく隙を作るよう動くよ」
理知が言うと、そこにジェファルコンセラフィートから、荒っぽい通信が入った。桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)だ。
「翔、アリサ、ヤツの注意は俺達が引き付ける。その隙にチャージを済ませて最大火力を叩き込んでやれ。
その機体のツインリアクター・システム、それを同時に起動させたエネルギーを使えば装甲を貫けるかも知れん」
「……そうだな。だが覚醒は長時間使えない。機会、だな」
アリサが応えた。昌毅はコンソールを叩いて、もう一度すべきことをシミュレートしてみる。
「翔達は確かに操縦技術は高いけど、あれで意外と結構熱血漢なところがあるから無茶しないかちょっと心配ですね」
マイアはそう言って眉をひそめて昌毅に言った。
「何事もなければ僚機として動く事になるんだろうけど……トラブルが発生したら俺達が死守ってことだな」
「敵はビショップ。どれほどの力を秘めているのか……」
マイアは懸念を隠せなかった。
作戦は開始された。ジェファルコン2機がまず発進した。ヒポグリフが高速でビショップに接近し、イコン用まじかるステッキでビショップの剣を持つ腕を狙う。それまで石像のようだったビショップは素早くよけ、剣を振った。
「うぁっ! 危ないっ!」
先の先を智緒が使用していたため、辛くも剣戟を逃れる。煉の機体はディメンションサイトとそして回避上昇を使用し、相手に動きを読まれないような不規則な移動でビショップを幻惑、ビームアサルトライフルを時折ビショップに打ち込んでいる。行動予測もあわせ、敵の攻撃を避けるための対策は怠りない。イコンをはずした炎の剣が岩塊を捉えると、たやすく岩は砕け散ったが、その砕けた岩にも剣の炎が移り燃え上がった。
「……なんだ、あれは!」
アリサが目を見張る。理知のヒポグリフが遠距離からビームキャノンを撃ち、剣を持つ手を狙うが、攻撃は通らずことごとく弾き返されている。
「アレが奪えれば回収・分析にまわせるかと思ったんだけど……」
理知が唇を噛む。翔・アリサの機と、昌毅・マイアの第三世代機が同時にすれ違いざま大型荷電粒子砲を打ち込むものの、装甲に幾分傷が入った程度である。
「第三世代機ですらこの程度なのかよ……」
昌毅が呻くように言った。
「とんだバケモノだな。やむをえない、一か八か、ここで一斉に覚醒攻撃を見舞ってみよう」
翔が叫んだ。
「了解。一気に狙っていくのね」
理知の声が通信機から返る。
「わかった」
煉が短く言い、パートナーのエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)がセラフィートの背部ウィングにエネルギーを集中させる。
「これでいい。機動力は最大限だ」
エヴァは精神感応で煉の意志を汲むことに集中する。機体の微調整を最大限生かすためだ。機体が淡い機晶エネルギーの光に満たされる。
「リミッターを解除、最大出力! 今度こそヤツにぶちこんでやれ、煉!!」
「おう、行くぜえええっ!」
理知らのヒポグリフも同時に淡い光輝に包まれた。ビームサーベルが一段と輝く。狙うはあの炎の剣を持つ手。智緒は覚醒中の機体を安定させるべく操作に集中する。
「いっくよー!」
煉が同時にビショップの肘関節めがけてファイナルイコンソードを叩き込む。
「これでも食らえっ!」
ジェファルコン2機の攻撃の少し前から覚醒チャージを行なっていた翔と昌毅の機体から、ビショップの胸部めがけてチャージショットが発射された。事前に打ち合わせたとおり、狂いなく同じ場所を標的として2本の輝く柱が炸裂する。マイアが叫ぶ。
「アリサ達は無事帰投する事を第一に考えてくださいよ!」
結果を見届けるまでぐずぐずはしていられない。4機は一気にその場を離脱した。ビショップの腕と関節部の装甲にはひびが入った程度であったが、胸部の装甲は大きくひしゃげ、ビームの集中した箇所は装甲に穴が開いていた。胸部の皮膚にも傷がついたらしく漆黒の瘴気が流れ出しており、そこに腐肉色の組織が盛り上がり始めていた。
「……あの程度か」
ウゲンが頬杖を解き、ビショップを迂回してクイーンがいるという背後の遺跡のほうへと動く。ウゲンをマークしていたナイトがイレイザー数十体を従えて正面から向かってくる。
「ふーん。あいつは俺とやる気なんだ? ……アホだな」
ウゲンの言葉に。微かに悪意をはらんだような三賢者の声が通信機から流れてきた。
『そうでしょうとも。あなた様ならあのようなもの、問題にもなりますまい』
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last