空京

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創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

リアクション



ディスカバーアタック

「魔法、トラップ部隊に告ぐ! 総員速やかに退避せよ!」
ヘクトルの声が鞭のようにしなう。魔法攻撃が突然やんだことを敵に気取らせぬよう、トラップ部隊の遠隔操作による光と音を中心とした攻撃を煙幕代わりに、魔法部隊はすばやく各々予定の退避場所へと向かう。高高度でその様をモニタリングしていた佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)の搭乗するアルシェリアが、やや高度を下げ、前線上空を旋回する。
「イコンとの混戦に巻き込まれる人がいては大変ですからねぇ」
本来索敵に使用する機能を、逃げ遅れや怪我をして動けない魔法部隊のメンバーがいないかのモニターに充てる。
「ルーシェリア殿、あちらを!」
アルトリアが叫ぶ。一体のイレイザーの足元近くの岩陰に、足を痛めたのかイルミンの生徒と思しきペアが潜んだまま動けずにいる。
「あっちから気をそらさなくちゃ!」
「ロングレンジライフルでの射撃を試みてみます!」
アルトリアが叫び、慎重にイレイザーの頭部に照準を定める。
「致命傷にはならないでしょうが、顔を狙われていては足元に注意は払わないでしょうから」
高高度からの射撃は正確にイレイザーの顔面を捉え、傷を負わせた。機体はからかうように旋回しつつ、数回にわたってイレイザーを攻撃する。岩陰にうずくまる生徒に、クラウディア・マリア・ルナ・カスティージョ(くらうでぃあまりあ・るなかすてぃーじょ)アグスティン・コスメ・デ・イトゥルビデ(あぐすてぃんこすめ・でいとぅるびで)がすばやく駆け寄る。かく乱部隊の護衛イコンから怪我人などの情報を逐次受信し、逃げ遅れたメンバーが退避場所まで移動できない場合に備えて彼らは戦場内を駆け回っていたのだ。アウグスティンがペアの一人、痛そうにうずくまる男子学生をすばやく診る。
「うん? 足を痛めておるのだな? 重度の捻挫か……折れているのか……これでは動けぬな」
学生をヒョイと背中に担ぎ上げる。パートナーの女生徒には怪我はないようだ。
「あたしを……庇ってくれて……」
消え入りそうな声で女生徒が呟き、俯く。
「あなたは怪我はないネ? 彼のことはアグスティンに任せて。
 さぁ、イコンの砲撃が来たら、幾ら契約者でも木端微塵ですヨ! 急いデ!」
4人はイレイザーがアルシェリアのけん制射撃に気を取られている隙に急いで戦場をあとにする。ひときわ大きな岩陰に待機していた大型飛空艇ハーポ・マルクスから、カル・カルカー(かる・かるかー)がそっと呼びかける。空飛ぶ箒や小型飛空挺によるかく乱は小回りが利く反面、その航続距離は短い。そのサポートのために魔法部隊の展開時は彼らの配置に尽力していたのである。パートナーのジョン・オーク(じょん・おーく)は、
「生身の魔法部隊が安全に攻撃をできるように。生身でインテグラルに向かえ……とは、かなり酷ですからね。
 ゲリラ戦の途中にイコンの攻撃が炸裂して同志討ちという事態は、なんとしても避けなくては」
とインテグラルへの攻撃開始前にかく乱部隊、その後の本格的な攻撃を行うイコン部隊とのと時間合わせ等のブリーフィングに参加して、十分な打ち合わせを済ませていた。
「これでメンバーは最後かな」
こちらに向かって退避してくる4人を見やりながら、ジョンが呟く。
「よし、収容完了。全速退避!」
カルが叫ぶ。直截的な戦闘には直に関わらなくとも、これもまた戦いの一環であることに変わりはない。かく乱部隊の退避が完了し、イレイザーとインテグラルナイトを悩ませる攻撃は遠隔操作、あるいはオートトラップと、イコン部隊に取って代わられる……。前線部隊のインテルラルナイトはほとんど動きを見せず、ビショップを守護するような形でイレイザーの後方に控えているままだが、イレイザーは多少なりともダメージを受けるのもあり、うるさそうに、あるいは苛立って咆哮をあげたりしている。今がイコン部隊による先制のチャンスだろう。
ここからが正念場である。
「霍乱部隊の撤退を確認。イコン部隊発進せよ! 敵の全滅まで考えなくてもいい。
 遺跡へ向かうファーストクイーンらの行動の隠蔽が最大の目的だ」
ヘクトルは命令を叫び、、成り行きを見守る。

 多少なりとも混乱状態にあるインテグラル、イレイザーらに一歩でも先んじるべく、かく乱部隊の撤退開始と同時に、控えていたイコン部隊が出撃した。
遠野 歌菜(とおの・かな)と、パートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)が機乗するアンシャールもまた、その中の一機であった。
「私達は、他の皆さんのサポートに回ろう。それもまた大事なこと……。
 パラミタを救うため、この戦い、絶対に負けられません! 負けないっ!」
歌菜の言葉に、静かに羽純が言う。
「敵はイレイザーとインテグラル……いずれも強力な敵だ。
 遺跡捜索隊の無事のためにも、可能なら確実に敵を仕留めて行くのが大事だろうな」
歌菜は超感覚を、羽純は殺気看破を使いつつ、敵の動きに気を配る。偵察していた羽純が近くにいたイレイザーがオートトラップを踏みつけ、炸裂する火花と電撃に気をとられたのに気づく。併走していたフラン・ロレーヌ(ふらん・ろれーぬ)の大型飛空艇アストロラーベ号に、羽純からの通信が入った。
「隙のあるイレイザーを発見。貴艦から見て5時の方向。詳細座標を送る」
「了解。艦砲射撃で攻撃で対応する!」
通信を受けたフランから実行担当の艦長であるフルリオー・ド・ラングル(ふるりおー・どらんぐる)に簡易な命令が下る。
「ラングル、全砲門開け。目標、5時の方向のイレイザー頭部」
音声と同時に座標が送られてき、ラングルはコンソールの上に指を走らせた。大型飛空挺のアストロラーベ号の見かけは地球の中世の帆船タイプだが、外観の古めかしさとは裏腹に装備は全て現代のものである。ラングルは太平洋での作戦行動において公式には『消息不明』と記される一件までの間、生前からこの艦と関わりがあった。まさしく戦友として寝食を共にしてきた艦であり、よき戦友でもある。
「全砲門、当該イレイザーを捕捉」
ゆっくりと全ての砲がイレイザーに向けられた。イレイザーの頭部に艦砲射撃が炸裂する。イレイザーは目が眩み、頭を振って激しく咆哮する。その機を狙って月見里 九十九(やまなし・つくも)松田 英輔(まつだ・えいすけ)のファーリスソード・オブ・スカーレットが覚醒による淡い光に包まれた機体ですべるように後方から駆けてきた。
「相手は何といってもイレイザーですっ! 気をつけてくださいよっ!」
「技術的なレベルは足りねえが、そこは気合だ気合っ!! 仲間が一歩前に進む為に、俺は全力で戦うっ!!」」
英輔の言葉に九十九が叫び返す。生半可な攻撃は通じないだろうと、エナジーバーストを解放し、風斬剣で切り付け、さらに大型超高周波ブレードを大段上に振りかざす。
「これでも食らえぇっ!!」
歌菜の鼓舞の歌声が、戦闘力を底上げし、魂の共鳴でイレイザーの動きを鈍らせる。アンシャールが暁と宵の双槍でイレイザーの無数の触手をなぎ払うと、同時にソード・オブ・スカーレットが凄まじい勢いでイレイザーの首に刃を叩きつけた。全身を硬直させ、頭部を失ったイレイザーの体はゆっくりと大地に斃れ臥した。

「パラミタをなんとしても救う、そのためにはここで負けてらんねぇんだよ!」
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)がワイバーンの{ICN0001694#りゅ〜ちゃん}に乗って、イレイザーの頭部スレスレを飛行する。
「2時の方向から触手が! 注意して!」
和泉 真奈(いずみ・まな)の声が無線を通じて響く。真奈はミルディアのサポートだけに注意を集中した。
「相手はニルヴァーナ文明を滅ぼした生き物。準備はしすぎるということは無いでしょうからね」
ミルディアのワイバーンのブレスが飛んできた触手を灼き、イレイザーは痛みにひるんだ。
「みんなでやればなんだってできる……ハズ!」
ミルディアの目的はただひとつ。他のメンバーが攻撃を安全に、かつ確実に当てられるように敵の注意を自分に惹き付けることだ。僚機ジェファルコンシュヴァルツ・zweiのコクピットでグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)はつぶやいた。
「俺にもツヴァイの性能にも、限界があるのは分かっている。
 だがもっと巧に、もっと速く。ツヴァイと共に駆けたい。
 リミッター解除も……覚醒も……足りない。
 インテグラルと戦う力。この戦いを勝ち抜く力を……」
ツヴァイはグラキエスにとって第二の肉体。インテグラルの強さを理解していながら畏怖も恐怖も抱かず、ただ純粋にもっと強く、もっと巧にという思いしかない主。をんなグラキエスの思いを捉えてエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が補佐席でほくそ笑む。
「この状況を理解していながら、求めるものはより巧みにイコンを操る事ですか……。
 ならば私も持てるすべての力で協力させていただきましょう。世界のため? 
 それが貴方とともにある必要があるなら、是非もない」
高速機動と加速で、ミルディアの操るワイバーンの旋回する元へと奔る。真奈がその動きに気づき、ミルディアに声をかける。
「僚機が急速接近中。あおり風に気をつけてください!」
「了解っ!」
急速に頭部を上げ、ワイバーンは垂直に上昇する。その動きを追ってイレイザーの頭部が伸び、毒炎を吹きかけんと巨大な口ががっと開く。
「リミッター解除」
落ち着き払ったエルネストの声とともに、イレイザーの懐に覚醒の輝きをまとい、ツヴァイがワープで飛び込む。衝撃を受け頭をめぐらせたイレイザーの目の前に、イコンの頭部があった。ツヴァイの腕がすばやく動き、二振りの刀が目にも留まらぬ動きでその翼と触手を一刀のもとに切り落とす。返す刀はすべてのパワーを注ぎ込まれ、イレイザーの頭部から脊髄に向かって突き通された。断末魔の痙攣がイレイザーを襲い、最後の息とともにずるずると刀から崩れ落ちた。