空京

校長室

創世の絆第二部 第二回

リアクション公開中!

創世の絆第二部 第二回

リアクション


合流と整合


 相も変わらずに遺跡内は薄暗い。真っ暗でないだけマシにはなったが、それでも光源がなければ視界は不良、足下さえ不安である。
「まぁ、気持ちは分かるんだけど」
 隊の先頭をゆく如月 正悟(きさらぎ・しょうご)が、半歩後ろのエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)に目だけを向けて言った。
「それは如何にも心許なくないかい?」
「なんの事です?」
 エミリアの事です。彼女は両手で持った『光条兵器』を胸の前で構え立てていた。
「暗いのは分かるけど、それを光源にするのは……どうかな」
「これは…気休めですよ」
「気休め?!!」
「はい。光源としても威嚇用としても不十分です。ですから、気休めです」
 『ダークビジョン』を発動しているため、そもそも光源は必要ないのだという。
 ファーストクイーンを護衛する者、またそれよりも後続の者たちと言えば落下の罠を免れた者たちである。彼らは壊れた機晶姫の修理を中断し、遺跡の探索を再開させていた。正悟らはその隊の先頭、護衛の最前線に立っていた。
 そんな護衛隊の中にいて、これまでの道中もしっかりと任務をこなしてきた蔵部 食人(くらべ・はみと)が、ここである決意をしたようで、
「俺、やっぱり行ってくる」
「………………行くの?」
 遺跡に足を踏み入れた時から決めていたことだ、それを成すのは今しかない! と食人は熱弁していたが、パートナーの魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)はやはり賛成できないようで、
「止めた方がいいんじゃないかなあ」
「止めてくれるな相棒。クイーンだって流石に! 流石に『アルパカ』は飽きた頃だろうさ」
 だから自分が立候補する! 「俺の背中に乗るといいよ!」と。
「大丈夫だ! 俺の体力だったら一人背負って歩くぐらい何の問題もない」
「……いや、体力面じゃなくて女体との接触による鼻からの大量出血の事を心配しているんだよボクは―――」
 最後まで聞かずに食人クイーンの元へ―――そして、
「『アルパカ』にも飽きた頃でしょう。ここからは俺の背中にお乗り下さ―――へぶっ!!」
 こちらも言い終える前だった。ファーストクイーンの前で膝をつき、下げた頭に足を乗せられた。御足の主はヴェロニカ・バルトリ(べろにか・ばるとり)だった。
「背中に乗るという事は……ファーストクイーン様を「おんぶ」するという事か?」
 これまた低い声で宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が言った。明らかに怒りが滲み溢れている。
 今回の探索では二人は共にクイーンの護衛役を務めている。クイーンとは一緒に温泉に入った事もあり、勝手ながら親交も深いと思っている。それだけに―――
「セクハラ男は死んでよし!!」
「了解」
「へぶぁあっ!!」
 ひと思いに足が踏まれ、食人の頭が地に埋もれた。百歩譲って『アルパカ』は良し、しかし彼女に対する「セクハラ行為」は決して許すわけにはいかなかった。
「(「おんぶ」はセクハラ認定なのか……覚えておこう)」
 惨劇を目の当たりにしたリア・レオニス(りあ・れおにす)は一人、心の中でそう呟いた。
 彼こそクイーンの傍で、彼女がいつバランスを崩しても支えられるようにスタンバイしているのだが、セクハラ紛いだと思われれば食人の二の舞になるのは必至だ。彼のように大量に鼻血を噴き出して転がるといった事には間違ってもなりたくはない。
 もっとも食人の鼻血に関しては、踏んだヴェロニカが女人だったために噴いてしまっただけなのだが……それはまぁスルーしよう。
真の名は何ていうんだい?」
 ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)ファーストクイーンに問いた。
クイーンじゃなく、貴女としての名前さ。聞かせてくれないかな」
「名前……ですか」
 クイーンは暫し目を伏せ、それから、
「ごめんなさい。分からないわ」
「分からない? それは思い出せないという事かな?」
「…………」
 思い出せない事は名前だけではない。この国の国家神であるにも関わらず壊れた機晶姫が語った内容について何も覚えがなかった。「調査報告」と彼女は言ったが、それにも覚えがない。自分の知らない所で行われていた調査だという事か。
「(しかし……調査対象が「大陸を支えるもの」なら……それをこの国の国家神に知らせないなんて事があるでしょうか)」
 国はもちろん、大陸の命運を左右する事項なだけに……考え難いか。
「おや……?」
りゅーき曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき))も気付きましたか?」
 珍しい……とばかりに言うマティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)に、瑠樹は「これほど分かりやすければ誰だってね」と言って続けた。
ファーストクイーンの、あの物憂げな顔……」
「も、物憂げ?」
「あぁ。あれは間違いなく―――」
 必死に記憶を辿っているが故に伏し目がちになっているクイーンをつかまえて―――
「間違いなく『眠い』んだろうなぁ」
りゅーき……ちゃんと集中してくださいー! もっとあるでしょう! こんなにも分かりやすい大発見が!!」
「あー、あれか、ダンジョンもここで終わりって事か?」
「……気付いてたんだ」
「当たり前だろう、こんなにも分かりやすい大発見なんだから」
「ぅ……」
 バツが悪そうにマティエ明神 丙(みょうじん・ひのえ)に同意を求めた。彼は探索開始直後から遺跡内の地図を作成していた。
 そんな彼も同じ意見だった。この通路を抜ければ遺跡の入り口部に出るはずだ。つまりはこの階の探索は全て終えた事になる。
「下の階も終えましたよ」
 落下組を代表して早川 あゆみ(はやかわ・あゆみ)が言った。「落下組」なんて括りは不本意だろうが、それが事実。アラム・シューニャらと共に地下の探索を行い、今し方一階部分へと戻ってきたのだという。
「地下は一繋ぎだったわ。実験室とか倉庫とか」
 人工的に造られた施設だけに一階へと繋がる階段もあったという。それほど広さはなく、あっという間に全ての部屋を見て回れたという。
 この遺跡に二回部分はない。つまりこれで全ての箇所を見て回ったことになるのだが、しかしまだ何も得ていない。
大陸を支えるものに関して何か手掛かりはありませんでしたか?」マティエの問いにあゆみは「アトラスの事かしら?」と答えた。
「それからもう一つ、こんなものも見つけたんだ」
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)が掌を開いて見せた。そこには古い機晶メモリが乗っていた。
「正直どうかなと思ったけど、意外と簡単に開けたぜ」
 機晶メモリだったことが救いだった。PCやらHCシリーズに繋いだりと、そこそこに手間取ったが、どうにかファイルを読み取ることができた。そこには「探索のメモ」が記されていた。
 クイーンたちが壊れた機晶姫から得た情報、それからアラム・シューニャらが地下の実験機器から得た情報、そして機晶メモリに残されていた情報などを合わせると次のようになる。


数万年前、「大陸を支える」力が尽き、ニルヴァーナの大陸は滅びの時を迎えようとしていた

古代ニルヴァーナは力尽きようとしている「大陸を支える」力から得た「シャクティ因子」を「パラミタ大陸の2人の神」へ用いる事で「大陸を支える代替」へと昇華させた

「2人の神」とは巨人族の親子、父「イアペトス」そして子「アトラス」

探索隊はこれらの情報を、最近発見されたこの遺跡で得た

しかし、探索隊は「シャクティ因子」を発見する事はできなかった。それは「シャクティ因子」が眠る「希望の間」には「国家神にしか開けることが出来ない」とする封印が「最奥の扉」に施されているからである 

調査隊に参加していた技術者は、女王の信頼厚い「エンキ」「ニビル」「アヌンナキ」


アラム君……アラム君
「え?」
 メメント モリー(めめんと・もりー)の呼びかけにアラムはようやく3度目で気付いた。
「大丈夫?」
「あ、ごめん。何だっけ?」
 心ここに在らず、は相変わらずだったが、モリーは何も変えずに続けた。
「だから、巨人族の遺跡っていう割には小さくない? ここ。もっと大きいかと思ってたのに」
「そうだな……あぁ、まぁ…………確かにそうだ」
「はぁ……変わらずですか」
 地下で見つかった機晶メモリ、その解析が済んだ時から様子がおかしかった。あれは、そう「エンキ」の名が読み上げられた時だった。
エンキ……僕を造った……確かニルヴァーナ人だった……はず……」
 アラムは、小さく呟いた。
 自分は一体何者なのか、何のために存在するのか、そして託された使命があることを思い出した。
「僕の使命は……ニビルの凶行を止めること」




「さて、困りましたね」
 明神 丙(みょうじん・ひのえ)が地図を見つめていった。遺跡には「シャクティ因子」が眠っている……と思われる。しかしこれ以上探すところは無い―――
「少し、良いか」
 気になる事がある、とクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が言う。
「ここなんだが、不自然ではないだろうか」
 一階中央左部にある通路、ここだけやけに幅が広い。通路を抜けて曲がった先を折り返してみれば、そこも同じに広かったのを覚えている。
「あの通路幅は我々を欺くための罠とは考えられないだろうか」
 ファーストクイーンの安全を確保するべく、万が一の際の「逃走経路」をシュミレーションしなている中で、その違和感に気付いたのだという。
「なるほど、隠し部屋の類があると」
「推測の域は出ないが、恐らくは」
 通路を引き返して一階中央左部へ。そこに希望の間シャクティ因子が眠っていることを願いながら。