空京

校長室

創世の絆第二部 第二回

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創世の絆第二部 第二回

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■ブレイクタイム

そのころ、食事の支度をしながら、山葉と話をしようとしている者達がいた。

東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、
ホットドッグやサンドイッチ、温かいスープの用意を、
パートナーのエヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)や、
友人の椎名 真(しいな・まこと)
双葉 京子(ふたば・きょうこ)に任せて、
その場を離れた。
「ちょっと任せた」
「うん、言いたい事、言ってきてくれカガチ」
歩き去るカガチに、真がうなずく。

「……真くんは何か言いに行かなくていいの?」
調理がしやすいブラウス姿の京子が、
パートナーに訪ねる。
「ああ、俺はいいんだ」
真が微笑を浮かべ、調理に戻る。
根回しで材料を調達し、
用意は整っておりますであらかじめカットしておいたパンに、
地元の開拓で作られた野菜と、肉を挟んでいく。
「これって、何の肉?」
「ナイショ」
サンドイッチの差し入れを受け取りに来た選手や観客に、
真は笑顔で答えた。


「なあ、山葉」
カガチに呼ばれ、山葉が振り返る。
「もしかして、もう蒼空学園に戻ってくる気はねえのか?」
「なに?」
「たまには帰るよってんじゃなくて完全に校長辞めちゃうのかってことさ」
カガチが、静かな瞳で山葉を見据える。
「あとは生徒会どうすんの?
元々は山葉のサポートの為に組織されたはずだからさ」
【蒼空学園新生徒会会長】であるカガチの言葉に、
山葉は拳を握りしめ、答えた。

「すまない、だが今はパラミタとニルヴァーナを救うことが、
ひいては蒼空学園のためになると思ってる。
俺は、蒼空学園をやめたわけじゃないが……」
「じゃあ、蒼空学園のことは……」
「今は、馬場さんに任せるつもりだ」
山葉は、さらに、真面目な表情で続けた。

「俺は今まで、受け身だったような気がするんだ。
いろいろ花音に振り回されたりもしたが……。
そうじゃねえ。俺の信じたことを貫きたいんだ」
「そうか。だが、俺達は蒼空学園で頑張るつもりだ」
「ああ。おまえ達のことは信頼してるからな」
山葉の言葉に、カガチは、フッと笑った。
「じゃあ、美味い飯食って、野球頑張って」


そして、
シチューを用意していた
エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)も、
やはり、山葉に聞きたいことのある者であった。
巨大な鍋をいくつも用意して、
ディオロス・アルカウス(でぃおろす・あるかうす)とともに、
牛肉のブラウンシチューを作っていたエルシュだが、
しばし、パートナーにその場を任せる。
「さあ、おいしいですよ。
体力回復の効果のある仙人の豆やおいしいキノコ、
精神力回復の効果のある冬虫夏草もふんだんに使用しています」
ディオロスが、シチューを配りながら、選手や観客達に言う。

「なあ、山葉。ひとつ、聞きたいんだけど、いいかな」
エルシュがシチューのボウルを山葉に渡しながら訊ねる。
「この試合の本当の狙いだ。
山葉が神になる通過儀礼の意味があるのか?」
「ああ、俺は、神までは考えてなかったが……」
山葉が答える。
「俺は、ドージェとぶつかることで、自分の限界を突破したいんだ。
インテグラルも含め、
今まで戦ってきた相手とは全く次元の違う相手と戦うためには、
同じように、次元の違う力を持つドージェにぶつかっておくのがいいだろうと思ってな」
それに、と山葉が神妙な顔で付け加える。
「なにしろ、ポータラカ地方を簡単に滅ぼしたような奴が相手だからな。
たとえ、ドージェであろうとも勝てるかどうかはわからない。
だからこそ、俺も常識を越えなければいけないんだ」
「敵は、あのインテグラルより強いってことか?」
エルシュの言葉に、山葉はうなずいた。
「ああ。神ってのは考えてなかったが、
そのくらいまで行かなきゃ、勝てないのかもしれねえ。
だって、大地を崩壊させるような奴だぞ。
……一番槍を得られるってのももちろん大事だが、
とにかく強くならなきゃいけないんだ」
山葉は、改めて、決意を込めて言った。
「シチューありがとな」
「いや、喜んでもらえればうれしいよ」
エルシュはうなずいた。


「……」
「真くん」
「うん、ありがとう、京子ちゃん」
山葉は強くなりたい。
食事の準備をしながら、
その話を近くで耳にした真がパートナーにうなずいた。




一方、ドージェの近くでは。

「初めまして妹です、あなたの妹は108人までいます。
かわいいアルちゃんですよ、がおー」
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が、
ドージェに話しかけていた。
「そういえば、ほんとに初めましてですよね。
さぁ、感想は!
なんて呼んでほしいですか!
お兄様?
にいちゃま、にぃにぃ、ヘイ! ブラザー! さぁ、どれですか!」
「……」
ドージェが、無言でアルコリアを見つめる。
「きちんと応えてくれたら、ご褒美にチア姿で応援しちゃいますよ!」
アルコリアが、ポンポンを振るしぐさをしてみせる。

「一緒に落ちたエリュシオンの龍騎士はどうなった?」
シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が、
アルコリアの質問にまぎれてドージェに問いかける。
「わからない」
ドージェが答えた。
「そうか。
あと、ナラカに良い修行場はあったか?
まだボクは力不足だ、鍛錬したい」
「ああ、あそこはよい場所だった」
ドージェは、そう言って沈黙した。
(具体的な場所は自分で探せってことか)
シーマはそう考えた。

アルコリアが、シーマの問いに続けて、ドージェに訪ねる。
「……祖国は、救えましたか?」
「解放は為された。それだけだ」
ドージェは、簡潔に答えた。
祖国の中国支配が終わった後で果たしてそこに居る者たちが、
救われたかどうかは誰にもわからない。
そういうことだろう、と思われた。



ドージェは、ふと、アルコリアを見て、つぶやいた。
「もし、おまえのような妹がいれば、あるいは、な」
その時、ドージェがフッと笑ったように見えて、
アルコリアはつぶやいた。
「そうすれば、楽しかったってことですか?」
ドージェは、ウゲンと同じようなことを言う。
そう、アルコリアは思った。