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リアクション
埋もれた研究施設
クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)らが調査を行っている地点と北ニルヴァーナへと繋がる回廊の遺跡とのちょうど中間地点といった辺りか。
ここにも降砂は見られたが、エッツィオ・ドラクロア(えっつぃお・どらくろあ)らの興味は前方に見える不審物に向けられていた。
黒い砂が積もる荒野平原その中に、酷く巨大なドーム状の物体がそこに存在したのだ。
「どう思う? あれ」
「聞くまでもないでありましょう」エデッサ・ド・サヴォイア(えでっさ・どさぼいあ)は見せつけるように瞼を閉じてから、
「もちろん、突撃突入大探索でありますよっ!!」
迷いなく、そう言い切った。
今回も多脚機動戦車シュティーアGTKを足に移動を行い、設置した観測所の周辺調査をし、『地図の作成』を行ってきた。
時間は掛かるが確実だ、ということで「徒歩による調査」を行っているのはサミュエル・ウィザーズ(さみゅえる・うぃざーず)とディーン・ロングストリート(でぃーん・ろんぐすとりーと)の2人だが、今回の「ドーム状の物体」を発見したのもこの2人だった。調査の最中に偶然出会したのだという。
確かに得体は知れないが、それでもエッツィオも突撃突入大探索には賛成だった。
結論から言うとサミュエルらが発見した「ドーム状の物体」は「巨大な球体の一部」であることが判明した。全体の半分近くが地面に埋まっているためにそのように見えただけのようだ。
「……埋まった、というよりは初めから地下にも作ったって感じだな。それに……この感じ、以前、学園に迫った黒い月に似て……」
笠置 生駒(かさぎ・いこま)が独りごちていると。
「ムー! ウー!」
猿人の英霊であるジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が先へ進もうと催促してきた。言葉は話せるはずだが、敢えて唸声で言っている所からすると……だいぶワクワクしているのだろう。人一倍好奇心が強いとは思っていたが、それがまさかここで爆発するとは……。
「まぁ、いいか」
共にドーム内へと入りた坂下 鹿次郎(さかのした・しかじろう)は「巫女さんはどこでござるー!! 黒い月の下、まさに月下美人といえば巫女さんが居ないはずが無いのだー!!」なんて言いながら……。
姉ヶ崎 雪(あねがさき・ゆき)は彼女で「これだけの施設ですもの。美味しい物の一つや二つや三つや四つは必ずあるわ! あるはずよ!!」なんて言って「涎じゅるり」だったし……。
「まぁ、何が出てくるか解らないからね、用心しないと」
起動させてきたイコン(伊勢)が使えないのは残念だが、こと「警戒」に関しては葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の方が専門だ。彼女らが先頭に立って施設内の廊下を進んでいった。
この建造物は正に「施設」だった。研究施設だと言われても何の違和感もない。
「ん〜。そうねぇ」
コルセアが下唇を突き出して小さく唸った。
「敢えて言うなら誰も居ないことが違和感、かなぁ」
「そうね」
吹雪も同感だった。人の気配はおろか、動植物が居るとも思えない。外観から想像するに、広さは「黒い月」ほどはあると思われるが、物音一つしない静寂が余計に広くに感じさせていた。
そして――
「なんだ……これは」
進んでいった奥で、フリーレ・ヴァイスリート(ふりーれ・ばいすりーと)は驚嘆した。
「これは……宇宙だな」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)が言った。
異常な程巨大な空間だ。
そこに、「宇宙」が再現されていた。
真っ黒な空間に浮かぶ星々、銀河。
その再現された宇宙にあらゆる「データ」が飛び交っていた。
何かを計算し続けているような、そんな感じだ。
「……これは、太陽系?」フリーレは、何処かの資料で見掠った記憶を頼りに、それを指差した。
「外から見た太陽系、か」
「にしても、宇宙の模型って、何故、誰が……」
「当然だが、ここにニルヴァーナ人が居る形跡はない。とすれば――」
「インテグラルが、ここで研究をしてる? 地球側の宇宙を」
「黒い月は、ニルヴァーナ人たちが残した兵器実験場を、インテグラルたちが利用していたものだった」
「じゃあ……ここは……」
と――突如、宇宙に亀裂が入り、ボロボロと崩れ始めた。
白い光がヒラヒラと溢れていく。
「なっ……なんだ? 俺なにもしてないぞ!!」
「セキュリティみたいなものか?」
2人の脳裏に鹿次郎と雪の顔が浮かんだ。闇雲に駆け回っている内にセンサーに掛かったのではないか。まぁ確かめようにも手立ては無いのだが。
間一髪。天井の全てが崩落する前に一行は脱出に成功した。もちろん鹿次郎と雪の両名もである。
ドームは潰れ、瓦礫が平らに詰み上がっている。今一度の調査を行うのならば、日を改めた方が良さそうだ。