空京

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創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

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王宮の戦い 10



「一人じゃなくて、みんなで戦うんだ! ここが踏ん張りどころだ、ここさえ堪え切れたら、報酬は約束以上に支払う。だから、なんとか切り抜けてくれ!」
 自らも矢面に立ちながら、大岡 永谷(おおおか・とと)は雇った傭兵を鼓舞する。
「確かに動きは素早いし、変な動きもするけど、あいつらの武器は爪だけだからね。魔法や銃のような飛び道具はないよ、二人は防御に徹して、みんなで攻撃をすればちゃんと当たるよ!」
 研鑽を積んだ契約者達と違って、雇い入れた傭兵の能力は一騎当千を期待できるようなものではない。顔無しスポーンと一対一で当たらせれば、自力の差は明らかだ。だが、一人に対して二人三人とぶつければ、結果も変わってくる。
 熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が続けて言う。
「一撃当てただけではだめだよ。分裂して攻撃してくる。完全に倒すまで攻撃を続けて。小さくなればなった分だけ弱体化するよ。戦える大きさには限界がある、ちゃんと倒せるよ!」
 ルバートが撒き散らした王の破片から湧き出たスポーンは最初こそ契約者達を押し込んだ。しかし時間の経過と共に、契約者達は戦い方を見出し、適応していった。最初は肉の壁ぐらいにしか役に立たなかった傭兵や一般兵でも、なんとか彼らについていけるようにへと状況は変化していったのだ。
「このまま押し返すよ!」
 永谷の言葉に、傭兵達も声を上げて応える。
 一方、顔無しと王は、ただ押され潰される事を良しとせず、彼らなりに対抗を試みる。狙いをファーストクイーンに絞り、顔無しを集中させる。
 一般兵の壁を突き破り、ファーストクイーン目掛けて顔無しが殺到する。
「考える事は同じ、か」
 高柳 陣(たかやなぎ・じん)は向かってくる顔無しの軍団をみやる。
 一方の彼らの中心にはファーストクイーンの姿があったが、彼らは防御の為に集まっていたわけではない。こちらもまた、顔無しの防衛を突破し、王に至るための突撃の準備を整えていたのだ。
「わざわざ突撃してやる義理はないな」
 葛葉 翔(くずのは・しょう)が前に出る。突破の為にかき集められた突撃部隊だ、その分、あちこちの戦力が手薄になっている。
「ここは俺達に任せて、迂回して王の元へ!」
 翔が自ら敵の群れの中へと向かって駆け出す。一人ではなく、陣や他の契約者もそれに続く。ファーストクイーンを擁する突撃部隊は、彼らの動き合わせて迂回していく。
 果敢にも顔無しの群れに向かっていく契約者達の数は少ない。だが、自らの意思で囮として前に出た彼らの足は竦まない。そして、ティエン・シア(てぃえん・しあ)の歌が背中を押す。
「怪我したらすぐに治療するからね」
 ティエンの声が届くのとほぼ同時に、両軍が正面からぶつかる。
「ファーストクイーンが王のところにたどり着くまで、一人も向かわせない!」
 陣が奮戦し、翔が敵をなぎ払う。
「はぁぁぁっ!」
 アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が忘却の槍を突き出し、顔無しを貫く。すぐに槍を抜いて、迫り来る爪を持ち手の部分で受け止めた。爪に押されながら一歩下がると、翔と背中合わせの形になった。
「別に、こいつら全部倒してもいいんだよな」
「なんでこの場でそんな死亡フラグな台詞を!」

 走る。
 顔無しがファーストクイーンを狙おうと動くが、彼らの主力は囮部隊が引き受けている。統率のないばらばらの攻撃はファーストクイーンには遠く、届かない。
 王の頭部の修復が進む、顔の形をしたあぶくが破裂するのを繰り返し、徐々に元の形へと戻っていこうとする。頭部が完全な姿でないと衝撃波は打てないようで、戦闘力に乏しいファーストクイーンを辿りつかせるのに、今を置いて格好の場は無い。
 近づかれるのを嫌がった王は、腕を振り下ろす。
 密集した契約者達をまとめて潰そうと繰り出された攻撃だ。だが、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)はファストクイーンと自分の位置を自然に入れ替える。
「走って、止まらずに!」
 振り下ろされる腕を見上げる。向かってくる巨大な影が、空中で跳ね上がる。Sウルフアヴァターラソードが光を反射する、セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が腕の節目を切り裂いたのだ。
「まるで、絹を切ったようですわね」
 軽い手ごたえに、セルフィーナが驚く。王の腕には、鎧に相当するようなものはなく、純粋なインテグラル組織で構成されており、それだけにギフトの刃がするすると通るのだ。
「まだだよ!」
 切り落とされた腕が地面に落ち、轟音と共に肉片が飛び散る。それらが、小さな虫となってファーストクイーンの背中を追う。
「こんなに小さければ、凍らせるのは簡単だよ」
 桐生 円(きりゅう・まどか)が手をかざした先に氷塊が発生する。真っ直ぐファーストクイーンの背中目掛けて飛んだ虫の群れが、まとめて氷の中に閉じ込められた。
「大本を叩いちゃえば、いーんだよね!」
 その氷の塊を踏み台に、ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が飛ぶ。王に向かって弾丸のように飛び出し、ピンボールのように跳ね返ってきて氷の塊にぶち当たった。氷が砕け散る。
 崩れ落ちた氷の中に、ミネルバが潰された。
「だいじょーぶ」
 自身を押しつぶした氷の塊を弾き飛ばし、ミネルバが立ち上がる。ミネルバは再び王へと切り込む。
「くーちゃんって可愛いと思うよね?」
 魔法でミネルバを援護しながら、円は漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)に唐突な質問を投げかけた。
「くーちゃん? 可愛い、んじゃ、ないかな?」
 突然の、しかもどこを向いているかわからない質問に、月夜は曖昧な返答をする。
「そうだよね。じゃあ、くーちゃんに一票よろしく」
「ね、ねぇ、何の話?」
 会話をしながらも、虫を打ち落とし、顔無しが近づくのを阻む。
「くーちゃん、あ、ファーストクイーンのことなんだけど、自分の名前をつけようと思ってるんだって」
 ミネルバが再びピンボールのように飛んでいく、今度は着地に成功。弾き飛ばされるのに慣れたようだ。
「名前?」
「そう、名前だって」
 王宮に来るまで、そして王宮での戦いの最中も、おせっかいはいっぱい居たのだろう。円が声をかけた時には、そんなおせっかいがたくさん降り注いだあとで、ファーストクイーンはファーストクイーンなりに考えた結果を出した。
「決意表明みたいなものなんじゃないかな? まだ、たぶん無理してるだろうけど」
 名前を変えたからといって、何かが変るわけではないだろう。だが、そこにはファーストクイーンでなくとも、立場や役割があるからではなく、彼女個人が共に戦うという意思がある事を、円は汲み取った。
「そう……それはわかったけど、なんで名前が投票制になるって前提なのよ?」
「なんかさ、いっぱいいるんだって、僕の考えた名前どうかな、って人。くーちゃんもまんざらじゃないみたいだし」
「……私達らしいわね」
 月夜が苦笑する。
(そうだ、コアには傷をつけるな!)
 唐突に、ゲルバッキーのテレパシーが通り過ぎていく。対象を絞らないテレパシーはすなわち、それだけ彼が興奮している事を意味していた。
「……確かに、違いを感じる」
 樹月 刀真(きづき・とうま)は正確に、精密に殺気を読んでいた。彼の目の前には、王の腹部があり手を伸ばせば届く。ゲルバッキーの言うコアはへその緒に繋がっているというが、正確な位置は目視ではわからない。
 だが、鋭く精密な感性を持つものならば、王の身体の中に、意思を持たない機械的な空洞がある事を見抜く事ができるだろう。分離した肉片がスポーンとして動く王だからこそ、違いがはっきりと浮かび上がるのだ。
「渡したエンブレムを、しっかり持っていてください。道が開くのはたぶん一瞬です。伸ばせるだけ手を……コアにたどり着いてください」
 刀真の背中に、ファーストクイーンは頷いた。見えはしないが、その決意を背中に受け取る。
「滅びを望む? なら俺達は繁栄を願おう、その為に勝つ! 道を、開けろ!」
 イコンすらも切り裂く一閃、胎動する肉の狭間に、どこかで見覚えのあるクリスタルが姿を現す。
(触れるだけだ! そうすれば、繋がる!)