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リアクション
王宮の戦い 5
「これはこれは、また盛大な事になっちゃって」
セレス・クロフォード(せれす・くろふぉーど)が遅れてやってきた時には、既にホールは激しい戦いが繰り広げられていた。
おぞましい数の敵もそうだが、その中で水を得た魚のように暴れまわる同じ所属の仲間達も、見ものであった。素直な言葉で表せば、ホールで戦っているのはどちらも化け物である。
「時間丁度ね」
「任務だから、お姫様も一緒よ」
桜花 舞(おうか・まい)に笑顔で答える。人の壁で目視はできないが、ファーストクイーンもホールの手前まで無事にたどり着いているようだ。
「ここを無理やり中央突破するって本気?」
「少なくとも、あっちは引くなんて考えは無いみたいよ。融合しただけ、みたいなできそこないみたいのが、次々投入されてるもの」
赤城 静(あかぎ・しずか)の眉間には皺がよっている。
「ここが決戦どころってことかな」
「この規模が控えているとは考えたくないわね……もしかしたら、ここぐらいしかまともに大群が運用できないのかも」
「数を生かすには、数が行かせる地形も必要なものだしね」
「中佐の見立てでは、今の状況は長くは続かない、いずれこちらが押しまけるとのことよ」
「それって、敵の援軍が途切れないって前提よね」
「ええ、途切れないと考えているわ。私達もね」
舞の視線は戦いの中心に向かう。私達、というのはあの中で戦っている、ダリルの判断なのだろう。あの状況で、よくもそんな絶望的な見立てをし、意見してくるのだろうか。
「突破するしかないって事か」
「女王様のお通りよ。ひれ伏しなさい!」
シェザーレ・ブラウン(しぇざーれ・ぶらうん)が操る軍用バイクが飛び出す。取り付けられたサイドカーにはセレスが、機関銃の引き金を引きっぱなしだ。
「来たか!」
鋼鉄の獅子の面々が、この派手な突撃の知らせを受け取り、各自の動きが変わる。バイクが引き連れて乗り込む歩兵部隊に敵を近づけまいと戦い方が切り替わるのだ。
スポーン達は、突撃してきた中央にファーストクイーンが居る事よりも、敵が増えたという事に反応していた。誰を狙うべきか、そういったところまで彼らは考えて動いていないようだ。
ごく一部を除いては。
黒い点が、空中から部隊の真ん中に向かって飛来する。黒いパワードスーツの一体だ。この一体には、中央に居るファーストクイーンが見えているようだ。
「させはせぬ!」
光の軌道を残しながら、音羽 逢(おとわ・あい)が黒い影に体当たりを仕掛ける。衝撃で弾かれ、彼の乗っていた光る箒が飛んでいく。スポーンの群れの中に落ち、当分拾いに行けそうにない。
空中で別の方向に弾かれた逢に、黒いパワードスーツは標的を切り替えて向かう。
逢はヴァルキリーの脚刀で、黒いパワードスーツも蹴りを繰り出す。互いに不恰好な蹴りが繰り出される。パワードスーツはわき腹から旨の辺りを削り取られ、逢は地面にへと叩きつけられた。
トドメを刺す為にか、地上のスポーンがそこへ向かうが、ある距離まで近づいたところで、不可視の壁に突き当たり動きが止まる。
「逢様、お怪我は?」
「大丈夫で御座るよ」
ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)に健在を示すように、逢は飛び跳ねるようにして起き上がった。
「ちょっと押されたぐらいで、拙者は倒れたりせぬよ」
「でしたら、この結界を解除します」
解除するというのは強がりで、この絶対領域は既に限界だった。強がりを言ってみせたのは、逢が先に強がりを言ってきたからだ。
結界を解除するタイミングを図っていると、銃弾が横から飛んできてスポーンを追い散らした。
「部下達が助けにきたようですね」
「指揮する者が一人で突っ込むと、部下の心労は計り知れぬもので御座るなあ」
「誰のせいですか? 誰の……そもそも、うちの部隊は指揮官は安全なところで、なんて言葉は似合いませんよ」
「いやはや、全くで御座る」
ファーストクイーンを擁する部隊の最前列、ウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)はマシンピストルで弾幕援護をしながら、敵陣を駆け抜けていた。
危険な立ち位置ではあったが、弾幕に怯んだ敵は味方が次々と打ち倒していってくれる。最も華々しい戦果を、最も誓い場所で堪能できる場所でもあった。
「ほら、みっともない」
敵の攻撃がこちらに届いても、ジュノ・シェンノート(じゅの・しぇんのーと)が素早くヒールで治療を施す。肉体的にも精神的にも、彼の足を阻むものは何も無かった。
さらに彼の前方では、シェザーレが操るあらぶるバイクが敵陣を切り裂いていく。まるで海を割るように道ができ、それをこじ開けていっているかのようだ。
「よし、ここからが本番だ」
ホールを突っ切り、目的の通路までたどり着いたところで、彼と彼の率いてきた部隊は二つに分かれた。本隊が通り抜けるまで、入り口を死守するのだ。
寄せては返す波のように、スポーンどもが群がってくる。
「そんなにまとまってると危ないですよ」
近衛 美園(このえ・みその)のサンダーブラストが、密集した敵から敵へと駆け抜けていく。間接などの駆動部に機晶ロボットが割り当てられていたスポーンが奇妙な動きをし、仲間に足をひっかけるなどして動きを乱した。
「さすがに、簡単に仕留めきれませんか」
だが、少しでも動きが悪くなれば、密集した敵の動きはかなり制限される。そこへ、高笑いをしながら突っ込む影があった。
「俺様強い強い強い強い超つよーーい♪」
自分が強いと思い込む事で本当に強くなった気になったメルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)である。実際に強くなったかどうかについては、議論の対象になりうるかもしれないが、兎角この場において、敵の中に突っ込んでいく勇敢さは賞賛すべきものがあった。
仲間の援護や、先ほどの電撃による後遺症など要因はあるが、それでも彼は一人で次々とスポーンを蹴散らしていく。
「目立っちゃってるわねぇ」
フレイア・ヴァナディーズ(ふれいあ・ぶぁなでぃーず)はその背中を眺めながら、光術で最低限の援護を行った。パートナーが頑張っている場面ではあるが、彼女が気にしているのはメルキアデスではなく背後の様子だ。
フレイアは空中を漂う対人用ドローンと融合したスポーンの姿を見つけるなり、素早く狙いを定め、光術を放つ。威力が低く、一時的な時間稼ぎにしかならない。それは地上部隊の援護ではなく、背後で無防備に作業を進めるマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)を守るためだ。
「お待たせしましたわ」
通路の天井から、マルティナが飛び降りつつフレイアの背中に声をかける。
「早かったわね」
「考える事って似通ってしまうものだったりしますもの」
マルティナが着地した先には、既に配線が整えられている。ダイナマイトなどの爆発物を起爆するためのものだ。
「どうだ?」
ウォーレンが一度ホールの状況を確認する。
ファーストクイーンを守りながら、本隊はホールを突っ切った。その為、ホール内部は敵陣と自陣という区分けは混ざり合って、混戦状態になっている。
「準備完了ですわ」
ウォーレンはマルティナに頷いて返す。
「これより通路を爆破し、敵の追撃路を封鎖する、通路の周りに居るんだったら、敵を押し返さないと大変な事になるぞ」
通信ではなく、拡声器でカウントダウンが始まった。十秒のカウントダウンのあとに、予告通り通路は爆破され、通路は瓦礫によって封鎖された。
「フレイアさん、隊長は?」
「メルキアデスの馬鹿はいつも通りよ」
「今回に限っては頼もしいですわね」