空京

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創世の絆第二部 第三回

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創世の絆第二部 第三回

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王宮の戦い 7



 巨大なドーム状の、飾り気も何も無いただ広いだけの部屋にたどり着いた時、ゲルバッキーは(ここだ)と告げた。
 ここまでの道のりと違い、非常灯の僅かな明かりがあるだけの薄暗い空間の中央に、目指していた王の姿がある。
「大きい……」
 カメラ越しに六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は王を見ていた。フレームに収まりきらない、巨大な赤子の姿が映し出されている。
「これが、本当に王なのか?」
 麗華・リンクス(れいか・りんくす)は無力そうな王の姿と、異様な巨大さに圧倒された。
 思い出したように、優希は持っているデジタルビデオカメラをゲルバッキーに向けた。
「あれが王で間違いありませんか?」
(そうだよ)
 ゲルバッキーはカメラに視線を返しながら答えた。だが、テレパシーなので音声には残らず、ただ流し目の犬の姿が残るだけだ。
「私達は、王に対してどうすればいいんでしょうか?」
 王は見つけた。ファーストクイーンが王を制御できるというが、自分の親指を吸っている巨大な赤子に、何をどうすればいいのか皆目検討もつかない。
 ゲルバッッキーの返答を待たず、王が動いた。
 薄く開いた瞳孔の無い目で、侵入者の姿を確認する。眉をしかめた王は口を開き、泣きだした。
 王の鳴き声は、騒音どころではなく、王の周囲の床は剥がれ浮き上がったところで粉々になり、目に見える凶器として契約者達に襲い掛かった。
 衝撃が駆け抜けていく、契約者達はそれぞれに身を守る。
「お怪我はありませんか?」
 博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)が背中越しに、ゲルバッキーらに声をかけた。一歩早く危険に気づいた博季は、衝撃波を受け止めていたのだ。
「あ、あれ?」
 優希はデジタルビデオカメラを色々と操作してみる。しかし全く反応しない。攻撃と判断した瞬間、自分の身よりカメラを守ったはずなのに。
(さっき衝撃波に強い電磁波が含まれていたみたいだね、電子機器は今ので使い物にならくなったようだ)
 ちゃっかり博季の背後に避難していたゲルバッキーが解説してくれる。
「それで……私達はずいぶん嫌われてしまったみたいだけど、何をすればいいのかな?」
 西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)が改めてゲルバッキーに尋ねた。
(そうだった。見えるかな、王のお腹のところ、ヘソの緒が王宮に繋がっている。あの辺りに、大事なコアがある。やるべき事は簡単だ、彼女をコアに触れさせる、それができれば王の制御権、ひいてはインテグラルの制御権は彼女が引き継ぐことができる。君達は、あれが抵抗しないようになんとかしなければいけない、だけど忘れないように、コアを破壊したらおしまいだ。くれぐれも、注意してくれ)
「なるほどね、思ったよりはわかり易くて助かったわ」
 王をあやして、仲良くなるなんて事を言われるよりは、ゲルバッキーの示した方法はマシに思えた。
「という事は、ファーストクイーンと一緒にアレに近づく必要があるって事ですね」
 ここまで教導団の人員が護衛や囮に活躍してきたが、王の間にたどり着いた契約者の数は多く無い。護衛にも相当な技量が求められるだろう、博季は王までの道のりを図る。
「話はわかりました」
 優希は走り書きでゲルバッキーの発言をメモした。
「お腹の部分にコアがあって、それさえ壊さなければいいということか。あんな姿の相手を切るのは気が進まないが、これも世界の為」
 麗華はリンクスアイを手にし、優希を見る。彼女の背後には、動き回るのに邪魔となった撮影機材が置かれている。
「お嬢、あれはもういらないのか?」
「何言ってるんですか、終わったら回収しますよ。今は動かせなくても、あとで映像を取り出せるかもしれないんですから」
「へぇ」
「なんですか、もしかして無理だと思ってるんですか? 私は諦めてませんからね!」
「いやいや、そうじゃなくて、お嬢は帰れて当たり前だと思ってるんだという事に感心しただけなのだよ」
「はい? 当然じゃないですか」
「ああ、当然だな」

 ゲルバッキーの言葉を頼りに、契約者達は王へと向かっていった。
「王の出方を伺いましょう。周囲にも注意を」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は部下に指示を出し、巨大な赤子と対峙する。ファーストクイーンをコアにたどり着かせるとしても、まずは可能な限り脅威を排除する必要がある。
 先陣を切って向かっていった兵士達は、先ほども行われた泣き声によってまとめて吹き飛ばされた。
「距離によって、だいぶ威力に差があるね」
 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の居る距離では、ちゃんと踏ん張っていれば被害を受ける事は無い。だが、近づけば近づくほど、あの泣き声による衝撃波の脅威は増すのは間違いなかった。
「まずは、あの声をなんとかしないといけませんね。泣き声を出している口を破壊すれば、発生を阻止できるかもしれません」
「……そうだね、やってみる価値はあると思うよ」
 兵士が指示を受け、顎の辺りに一斉射撃を試みた。
 見た目以上にもろくやわい王の顎は、銃撃を受けてぼとりと千切れて落ちる。王は鳴き声を出そうとするも、大きなとても聞くに堪えない気持ちの悪い音が出ただけで、衝撃波としては成立しなかった。
 王は顔を歪め、不満をあらわにしたのち、片腕を大きく振り上げて、地面に叩き付けた。強い衝撃で地面が僅かに揺れる。それだけでは終わらず、叩き付けた腕の肘の辺りから、大きさもそっくりそのままの腕が新たに生え、それが同じように地面を叩き、そこから新たな腕が伸び、と繰り返し微妙に方向を修正しながら、ゆかりの部下を蹴散らしつつ、さらに本隊中心に向かって腕を伸ばしていった。その速度はドミノ倒しのようにどんどんと速くなり、土石流のように本隊を蹂躙する。
 月摘 怜奈(るとう・れな)は、その腕の前に歯を食いしばり、自ら飛び出した。
「このっ、くらいでしたらっ!」
 身を固めたパワードスーツがまるで紙で作られていたかのように、ものすごい衝撃が怜奈を襲う。これでも、腕に勢いが乗り切る前に突っ込んだのだ。冷たい想像と共に、自らの英断を褒めたくなった。
 彼女の背後には、逃げ遅れたファーストクイーンと、その救出に飛び込んだ長曽禰中佐の姿があった。もしもこの腕を中佐がまともに受けていれば、負傷を免れる事は不可能だっただろう。
 王の腕は一時は止まったが、止められた腕の肘からさらに腕が伸びる。腕は途中で止まってしまった腕に狙いを定め、最後まで振り下ろさせるために大きく腕をあげた。
「あとコンマ一秒、我慢できるな!」
 人影が飛び出す。マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)だ。新しい腕の基点となる、肘より少し前の部分に、忘却の槍を力の限り振り下ろした。肉が千切れ、切り離される。振り上げた腕はバランスを失いそのまま後方に倒れ、引っ張られた元の腕は怜奈から離れるように倒れていった。
 かかっていた力が離れていくと、負けないと支えていた怜奈の心の力も一緒に離れていき、全身の力が抜ける。この時になって、自分が結構大きなダメージを受けていた事を自覚した。
 仰向けに倒れていく途中で、怜奈は誰かに受け止められた。
「衛生兵!」
「全く、無茶をして……中佐、負傷者をこちらへ」
 駆け足で長曽禰中佐の下に駆けつけた杉田 玄白(すぎた・げんぱく)は、既に気を失っている怜奈を引き取った。パートナーの彼女が無茶をしないかと気をつけていたが、いざとなったら目に留まらぬ速さで動き、声なんか出す暇さえなかった。
「すまない、彼女には助けられた。治療を頼む」
「ええお任せを」
 怜奈を抱えて、玄白は後方に下がっていった。
「おいおい、こりゃどういうことだ?」
 切り落とした腕が、マーゼンの目の前で不気味に動き出す。粘土のように、ぐねぐねと形を変えていった腕の肉片は、やがて人の形へと姿を変えた。顔はのっぺらぼう、腕には鋭い爪が備わっている。
 変形を終えた肉片は、マーゼンへと爪を突き出してくる。至近距離の攻撃は、皮膚を掠めてわずかな出血を強いた。さらに続けて攻撃を繰り出そうとする顔無しだったが、奇妙な姿勢で吹っ飛ぶと地面に倒れてじたばたともがいた。背中には矢が突き刺さっている。
「助けられましたな」
 弓を構える黒岩 飛鳥(くろいわ・あすか)を視界に捉える。
 飛鳥は次の弓をつがえながら、少し前に進んだ。
「お礼はいいから、こいつら片付けるよ!」
 顔無しは一体ではなく、既に何体も現れて契約者達に襲い掛かっていた。そいつらは、全部先ほど繰り出された腕が変形したものだ。王を見れば、新しく生えた腕は全部切り離され、元の形に戻っているのがわかる。先ほど、千切れ落ちた顎も何かに変形して、王の足元から姿を消していた。
「これが、王の力というわけですな」
 マーゼンは忘却の槍を構えなおした。