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リアクション
王宮の戦い 11
ホールから繋がる一番大きな通路。最も激しい戦闘をしている通路の後方では、負傷者が大量に流れ込まれ、さながら野戦病院のようになっていた。通路そのものが、病院のように無機質であるのもそう見させる原因の一つに違いない。
「包帯、それに気付け薬、もっと持ってきてくださいませ!」
負傷者に治療を施しているアフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)は、周囲を見渡し立っている人間を誰であろうと顎で使う。
ここに送り込まれてくるのは、魔法などによって簡単に戦線復帰できない重傷者ばかりだ。自然、緊急性の高い治療が必要になるし、手も足も人の数も足りない。
「これで、最後よ」
エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)が抱えていた医療品の入った袋を渡す。
「最後って、これだけですの?」
アフィーナの視線に、失望と抗議の色をエリーズは敏感に感じ取った。
「そうよ、これで最後!」
強い口調で、そう断言した。実際に、彼女達輸送科が運び込んだ医療品は今手渡した分で終わりだ。あとは、ささやかな食料と水ぐらいしかない。弾薬関係も、とっくに前線に全て渡しきっている。
「しかし……これでは」
負傷者の数は多く、そしてこれからも増えるだろう。渡された最後の物資では、まず足りない。
アフィーナはエリーズ達が不手際や怠慢でこうなっているとは思っていない。現状は現状として理解しているが、それでも不足する物資に対して不満を持つのは当然だった。
一方、エリーズとて現状がどんな状況なのかわかっているし、ここに物資を運び込んでから治療の手伝いなどできる事に手を貸している。
激務による疲労から、感情をせき止める堰が崩壊しそうになった瞬間、後ろから現れた手が、そっと彼女の口を塞ぐ。
みじろぐように振り返ったエリーズ顔のすぐ近くに、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)の顔があった。空いた手の人差し指を、レジーヌは自らの唇に当てる。静かに、という意思を伝える。
「……あれ?」
しんと、空気が静まり返っていた。
魔法や火薬の爆発も、怒号もスポーンのあらぶる声も、銃声も剣が打ち合う音も、何も聞こえてこない。
「…………」
アフィーナも、異変に気づいたようで、目を丸くし、辺りに視線を巡らせている。
そして、波が来る。
契約者達の、仲間達の、勝どきだ。
それはわかりやすく、戦いの様子が見えない彼女達にも何があったかを伝える。
「終わった……の?」
その言葉はエリーズだけでなく、負傷者やその治療にあたっていた人たちからも、零れて波紋のように広まっていく。
気が付けば、前線で戦っていた仲間に負けないぐらいの歓声が、あがっていた。
駆け足でその場所に向かっていたアルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)は、その歓声を耳にし、それでも表情を変えずに彼らの元へと駆け込んだ。
既に祝杯ムードの中に飛び込むと、一斉に視線が彼に集まる。歓声も何も、嘘っぱちであったかのように、緊張が全てを包む。
ここで戦う彼らが、最も欲しがる言葉を、アルフレートは確かに、はっきりと、一人も聞き漏らさぬように伝えた。
「ファーストクイーンが王に到達。スポーンは抵抗を止め、本作戦は目標を達成した」